誰しもが”スポーツを見る”ことを楽しむための環境づくり。センサリールーム視察レポート
こんにちは!Offensive Lineの小嶋です。
突然ですがみなさん、「センサリールーム」をご存知でしょうか?
センサリールームとは、聴覚や視覚など感覚過敏の症状がある方やその家族が安心して過ごすことができる部屋のことです。
スポーツが行われる会場は大歓声や鳴り物、演出による大音量の音楽や明るい照明など、感覚過敏の症状がある方々にとって安心できる環境ではありません。
センサリールームは適切な照度で、大きな音や声などの大音量を遮る防音ガラスが施されていることから、人混みや周囲の視線を避けることができます。
2021年10月27日に開催された、サッカー天皇杯準々決勝・川崎フロンターレvs鹿島アントラーズの試合。
JFA(日本サッカー協会)が主催となり、会場である等々力陸上競技場にセンサリールームが設置され、感覚過敏の特徴がある子どもとその家族の試合観戦会が実施されました。
こちらの試合観戦会を、Link Sportsを代表して視察させていただきました。
私なりの視点で視察の様子をまとめたので、今回は会社note特別編としてお届けします。
17:00 視察開始
センサリールームに入室して最初に印象に残ったことは、照明の照度です。
一人で訪れる視察現場に少し緊張していた私の心をも落ち着かせてくれるような、明るすぎず暗すぎない照度でした。
ちょうど部屋には川崎フロンターレのマスコットキャラクターであるふろん太とカブレラが遊びに来ていて、子供たちとのふれあいタイム。
「思っていたより大きかったけど、かわいかった!」という子供たちの弾んだ声が印象的でした。
17:20 試合前アップ見学
選手の試合前アップ時に通りかかったカブレラに手を振る男の子
希望者のみを対象として、ピッチサイドでの試合前アップ見学が行われました。コロナウイルス感染拡大防止のため声を出しての応援が禁止であるとはいえ、スタジアムには大きな音が響き、照明が煌々とついています。
実際にピッチサイドに立ってアップ見学をしたのですが、
・会場を照らす照明
・ビジョンの明るさ
・スピーカーから流れる音楽や場内アナウンス
・観客席から聞こえる太鼓の音
など、聴覚過敏や視覚過敏の特徴がある子供たちにとって不安になる要素が随所にあることを感じました。
そんな子供たちが楽しい時間を過ごすために「イヤーマフ」が用意されており、実際に着用しながら選手のアップ風景を見つめる子供の姿も。イヤーマフを着けることにより、大きな音から自分を守ることができるそうです。
ただ、イヤーマフを着用してもなお「音が大きい!」と口にする子供がいたことが印象に残っています。私たちが感じたり考える以上に、聴覚過敏の症状を持つ方の音に対する世界は、敏感かつ繊細であることを初めて実感した出来事でした。
ただそんな事実を知ると同時に、素晴らしい光景を目にすることもできました。
憧れのJリーガーを目の前に、嬉しそうに飛び上がって拍手をしていた男の子の姿。
ピッチを背景に、家族全員がカメラに向かって笑顔でピースする姿。
そんな光景から、障がいの有無など関係なく、スポーツはどんな人に対しても平等に笑顔と元気を与える存在であることを改めて感じました。
18:00 キックオフ
くつろぎながら試合観戦する様子
センサリールーム内では、ピッチの様子が見渡せる大きな窓際で試合を観戦することができます。
音に抵抗のない子供は、隣接しているスタンドに出て試合観戦を楽しんでいる様子も伺えました。
スタンドに出て応援中の様子
誰しもが安心して試合観戦ができるよう、センサリールームにはいくつかの工夫が施されていました。
工夫① クッションの設置
試合観戦スペースには、リラックスして座ることができる大きなクッションが複数設置されています。各々が自由に組み合わせ、居心地の良い空間で試合観戦を楽しむ姿が印象的でした。
工夫② カームダウンスペースの設置
“気持ちを落ち着かせる”という意味を持つ「カームダウン」。
感情が落ち着かなくなったりストレスを感じたときにリラックスできる場所として、カームダウンスペースが設けられていました。
部屋の一角に視覚や聴覚、 触覚に刺激を与える道具が設置されており、ハーフタイムになると子供たちが集まり興味津々の様子。
ペットボトルにジェルやビーズなどを入れて作られた「センサリーボトル」を何度も何度もひっくり返し、その動きを楽しんでいました。大人の私も楽しくなってしまう作りで、つい子供たちと一緒に遊んでしまうほどでした。
センサリーボトル
印象的だったご家族の姿
子供たちがそれぞれの過ごし方で試合観戦を楽しんでいる一方、ご家族もまた充実した時間を過ごすことができたようです。
川崎フロンターレのサポーターであるというお父様に話を伺ったところ、今回初めてセンサリールームを利用したとのこと。
周りの方に迷惑をかけないか、大人しく試合を観戦できるのか。
感覚過敏の症状を持つ子供との試合観戦は不安な点が多いことから、今までお子様と一緒にスタジアムを訪れることが難しかったそうです。
「カームダウンスペースでリラックスできたり、周りのお友達とも遊べるセンサリールームなら、子供も楽しいし親も安心して試合を見ることができるのでありがたいです。」と述べられた通り、応援する川崎フロンターレの試合をゆっくりと楽しんでいるお父様の姿がとても印象に残りました。
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今回の視察を経て、サッカー界だけでなく、スポーツ界全体として「見る」側面を整備していくことの重要性を感じました。
今回等々力陸上競技場に設置されたセンサリールームは、特設であり、常設ではありません。
現在、日本国内でセンサリールームが常設されているスタジアムは1つのみ(ノエビアスタジアム神戸)であることから、日本におけるセンサリールームの存在は「当たり前」になっていないことがわかります。
また、目に見えづらい障がいを持っている方への理解を深める必要もあると思います。
スロープや手すりの設置など"目に見える障がいを持っている方"に対してのユニバーサルデザインは当たり前になっていますが、感覚過敏や自閉症など"目に見えづらい障がいを持っている方"が日々どのような不自由さを抱えて生活しているのか。もっと多くの人が知る機会を増やしていく必要があるのではないでしょうか。
そんな中スポーツ界での啓発に向けた取り組みは確実に進んでおり、JFAをはじめ川崎フロンターレ、東京ヴェルディなどが、センサリールームの設置を実施しています。
現在、川崎フロンターレは「発達障がいのある子どもたちのためのアウェイ観戦ツアー」を企画しています。
この日はヨドコウ桜スタジアムにセンサリールームが特設されるとのこと。
上記のような取り組みを知らない方や、そもそもセンサリールームの存在を知らない方もいるはずです。
まずは多くの方にセンサリールームとは何か?を知ってもらうことが"目に見えづらい障がいを持っている方"を理解するきっかけになるのではないかと、私は思います。
「ITを通じてすべての人がスポーツに触れる瞬間を作る」というミッションを掲げる弊社としても、誰しもがスポーツを楽しむことができる社会を作るために何ができるのか、継続して考えていくべきだと。今回の視察を通して改めて感じました。
そのための第一歩が、今回のnoteの更新だと思います。
このnoteがきっかけとなり、一人でも多くの方にセンサリールームに対する理解と関心を持っていただけたら嬉しいです。
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