見出し画像

チェスター・ベニントンの8回忌に寄せて。

早いもので、もうすぐ8回目の7月20日がやってくる。
チェスター・ベニントンとは一体何者だったのか。リンキン・パークとは何だったのか。
高校時代の僕にとっては、彼らは全てであり、救世主であり、神であり、何一つ誇れるもののなかった陰キャの拠り所だった。
今でも思い出す、高2の音楽の授業。好きな楽曲について発表しましょう、という趣旨の時間で、選曲したのは"Breaking The Habit"だった。
誰も求めていないのに何時間もかけてバンドのレジュメA4二枚紙のレジュメを用意し、「以下にこのバンドがエグくてイケてるか」というのをプレゼンするために、宿題そっちのけで彼らのCDの総売り上げ枚数を調べ、それを積み重ねると何千メートルになるか(確かエベレストを超えた)等のデータを載せ、そして自室にあった音楽雑誌十数冊を全て持ち込み、5分以上にわたって熱いプレゼンを繰り広げ、その結果音楽室は地獄のような凍り付いた空気になった。
そこで初めて、リミッターが外れた自分のASD暴走癖を自覚するに至った。
「いや、お前さ。別にみんなはそのバンドの事を知りたいわけじゃないっちゃけん…」
授業後に、「よく分からないが、どうも俺は何か社会的にかなりズレた事をしでかしたらしい」といった様子で困惑する私をたしなめた友人の心境は察するに余りある。
チェスターの紡ぎ出した言葉はとにかく重くて、暗くて、情けない。
「俺はのけ者にされたいんだ、ほっといてくれ」
「頑張ったところで、最後にはどうでも良くなるんだ」
「空っぽの部屋で、過去を忘れようとする。こんな事が続くなんて」
訳詞を文字にすると一点の希望も見いだせないような、反吐が出るような、それでいて人間の醜い感情に真っすぐ切り込んで、寄り添ってくれる歌詞。
そこにデビュー盤のリリースから20年経った今も古さを感じさせない洗練されたサウンド、タトゥーまみれのチェスターの狂気をまとった、それでいて洗練されたいで立ちが、無限の説得力を与える。
彼らが支持されたのは、ゴミのような気分で生きていた人間に対して、「ゴミなりに、せめて生ゴミから資源ゴミにグレードアップする努力をてめえはしたのか!」とMOROHAのように尻を叩くでもなく、「一見ゴミに見える君にも輝ける場所はあるんだ!」と気休めを言うでもなく、ゴミなりの居場所を与えたからではないか。
ただ、チェスターが自らの手でこの世を去った以上、我々の前には「彼を愛した世界中のファンも、バンドメンバーも、家族さえも、彼があの悲痛な声で切望した"Somewhere I belong(自分の居場所)"たり得なかった」という厳然たる事実が横たわっているだけである。
彼が命と魂を削りながら生み出し、数えきれない程の人をこの世につなぎ止めた仮初めの居場所はやはり幻想に過ぎなかった。
実際そんなものはどこにもなく、結局はどんなに不純な動機であれ、自分で汗をかいて行動して、ゴミな自分を少しでもまともなゴミに、そしてやがてゴミでなくなるように日々自分を変えていくことでしか、自分を世界に繋ぎとめる事は出来ないのだと思う。
そして「一応、これを成した」と言えるものが出来た時、本当の意味で彼らの音楽から卒業できるのだろうと思う。

いいなと思ったら応援しよう!