ピンボケ、た話。
紅葉はマニュアルフォーカスの練習に最適な被写体だと思う。
下から仰ぎ見ると遠近に何層にも葉の広がりが重ねっているからだ。
ファインダーを覗きピントリングを回す。手前の層にピントを合わせるか、もっと後ろか、いやその中ほどに合わせてみるか…。
ヒカリを透過させるか、黒くするか?
ピンボケぼんやり、後方にうつるぐるぐるしたボケもおもしろしや。
てな、瞬間に愛犬、走り寄る、あわててレンズを向ける、こんな「ピンぼけ」た写真になる。
20代の頃、きれいな夜景が眺められると言う山のふもとの公園まで当時付き合っていた彼女と夜のドライブに行ったことがある。
ボクは「少し寒いね」と呟きながら車を降り、駐車場から少し先の展望台に向かった。展望台について彼女はそれまでポケットにいれていた両手を出して息を吹きかけた後、眼下の夜景をあらためて眺め、ゆっくりとそして小さくうわっと呟いたあと黙り込んだ。
普段、景色の良い風景を眺める時は眼鏡をかけている彼女が裸眼のままだったので、理由を尋ねた。
ぼやけた夜景がスキ。
ぼんやりとしたヒカリのマルがほらたくさん重なって
ほらっ キレイ。
ボクも隣で眼鏡を外し彼女が教えてくれたぼやけた世界の美しさを眺めた。
今、その彼女が、となりですやすやと寝ている。
いや、こいつじゃない。