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金木犀

あっ

鼻孔をくすぐるように薫りくる

キンモクセイ。

雨の降り終わりを決めかねているような朝。

「お互い、多くを求めないようにしようか」

テーブルの向こうで彼女が言ったコトバに、
こだわりを持ったまま、ボクは家を出た。

ボクに何を求め、何を不足に感じているのか

ボクが何を求めていることに負担を感じているんだろうか

確かに彼女はいつもと変わりないような笑顔で言った。冗談まじりなのは、分かっている。
朝の情報番組のゲスト出演者(柴門ふみさん)が言ったコトバをなぞっただけな事。

連日の睡眠不足(中途覚醒)、ピリオドを打てない雑多な業務、気候のせいか不定愁訴、なんとか週末の朝を迎えた、落ちた。

「朝はそんな話、やめてくれないか」

と言うと同時にウツのシャワーが脳内に注がれるのを感じた。
そんな時は、もうなにも考えない。
動く。なんとかその場を離れ、今と違うことを始めるしかない。自ずからのリフレーミングはボクには不可能だと思ってる。

ゆっくりと雨具を身につける余裕もなく家を出た。自転車を駆った。

雨がポツポツからポッツポッツ、やがて、ピタッ。

ポチョン。

信号を渡る。

あっ

鼻孔をくすぐるような薫り。

足元に散らばる、朱華色(はねずいろ)。

キンモクセイ。

小さい花びら。いと小さき花に、いとも容易く諭される。

小さき自分を恥じる。

自転車を駆る。