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引退前の 自転車に乗り 向かうはボクの 終わりと始まり。

何年も乗っていないと言う。確かにチェーンはサビていた。タイヤは両輪、空気が抜けていた。貸し主の母がえらく心配した。それはもうガタがきているのだから止めときなさい。と。

来月には処分される予定の電動アシスト付き自転車。
これから片道1時間ほどにある山の中腹までの道を行く。最後の出番には申し分のない仕事になるだろう。老体には少しキツイだろうが。

両輪のタイヤチューブに空気を入れ、チェーンに油を指した。バッテリーは昨夜から一晩かけて充電しておいた。

出発前に改めて車体検査をする。
凹まない・回る・鳴き叫ばない・止まる・光る・ぐぃーんと加速する。

問題なし。

午前7時、出発。

順調なスタートだ。

山道に差し掛かると、ひっきりなしに黒煙を上げたトラックがきわきわを通り過ぎる。排気ガスにまみれて咳こみつつ、巻き込まれやしないかと怯えながら、キコキコとペダルを踏む。

信号待ちで見知らぬ少年に声をかけられた。
「へへっ、保育所でいっしょやったよなあ!へへへ」
いや、オジサン、キミ知らない。
でも
キミの人懐っこいとこ、キライやないで。

道の脇にはみかん畑や柿園が続く。

時々、ロードバイク乗りが通りすぎる。
若い頃、九州や沖縄をマウンテンバイクで旅していた時に、オートバイ乗りのお兄さんたちが通り過ぎざまに左腕を横に伸ばし、親指を立てて去っていった姿を思い出した。
カッコよかったなあ。憧れたなあ。
でも最近は見かけないなぁ。キコキコ。

電動アシストのバッテリー残量ランプの点灯が一つになった。緩い上りの道がまだまだ続く。その先には急な坂、それを登りきると急な下り坂、平坦、ラストスパートは上りになる。

少し無理してエコモードに切り替えたり電源を切って走ったり。 

急坂でペダルを踏みこむ。心臓 破りの坂。持てよ、我がポンコツポンプ。
お構い無くトラックが黒煙を吐いて通り過ぎる。

果てる前に、

着いた。