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海外出版ニュース 8.2.2020 ちょっと気になるこれから出る本

今アメリカで売れている本も、これから話題になりそうな本も、BLM運動をきっかけにアメリカにおける人種問題を見つめ直す内容のタイトルが多く、大切だとは思うものの、ちょっと食傷気味。なので今回は敢えて違う趣向のものを選んでみた。

でもやっぱり、人種差別みたいな問題は、ウィキペディアでサクッと調べてネットで資料を見たぐらいじゃ理解できない根深い問題なわけで。だからこそ人種問題を考えるための本が色々出ていると言える。

日本の識字率は90%越えで、学校で読書も奨励しているし…本を読んで学ぶ、ってのは得意なんだと思う。だけど、ひとつだけ昔から引っかかっているのは、日本だと「読書しなければいけない」「本を読むのはいいことだ」と教え込まれる。でもそこには、本てのは字が読めて想像力さえあれば、数千円で何時間も楽しめるエンタメなんだよ、複雑な問題でもそれを省略しないで面白く読める物語として提供してくれるんだよ、という姿勢はあんまり感じられないんだよな。日米双方の出版社で働いてきた私がずっと感じてきたのはその辺の違い。

ということで、READING FOR OUR LIVES: Why Early Literacy Matters and How to Achieve Itというノンフィクションが気になっている。アメリカの子どもはだいたいみんな、夜の食事やお風呂の後、ベッドに入る前に親が読み聞かせをして寝かしつける、ってのがよくあるパターンなんだけど、それ以外にも有効なメソッドがあるんじゃないかと検証し、それを論文っぽく仕上げた本、とある。

著者のプロフィールをチェックしてみると、ノースウェスタン大メディル大学院か〜。日本だとジャーナリズムで有名な大学っていうとコロンビアしか浮かばないだろうけどノースウェスタンもトップ5には確実に入っている。

同じ系統の本という気がしているのが、読み聞かせのプロであり、学習教材のイノベーションに取り組んでいるデイビッド・ハッチェンスという著者のSTORY SPRINT。ストーリーテリングの力を組織で活かすリーダーのためのガイド、という売り文句なのだが、版元がホルトなので、眉唾本の類ではないだろう。著者のレクチャーの様子がYouTubeにあった。

これなんだよねぇ。前回のコラムでグーグル、アップル、アマゾン、フェースブックのCEOが米議会の諮問委員会に呼ばれて反トラスト法に引っかかってんじゃねーの?と問い詰められたわけだけど、その場でも冒頭陳述でCEOがそれぞれ、自分の「ストーリー」を語るわけですよ。どんな家庭環境で育って、どういう意思で会社を立ち上げて、どんな価値観でその企業を大きくしてきたかを、個人の物語として伝える、伝える力を持っているのが、日本の社長さんとか、若いスタートアップのアントレプレナーと大きく違う点。

そこに説得力があるかないかで、随分その人のリーダーとしての印象が変わってくるし、企業理念が響いてくるかどうかによって、独占企業かどうか判断されると言っても過言ではない。

特に日本人に響きそうなストーリーかな、と思ったのが、レベッカ・ストラザース著HAND OF TIMEというタイトル。時計づくりの歴史を通して語る歴史の話ですと。文化におけるパラダイムシフトとか、テクノロジーの変遷とか、地域政治、そして死や人間性に対する人類の考え方の移り変わりなどを描いているんですと。本人も夫婦で時計づくりをしてきた人で、イギリス人で初めてholorogy(時計学…ってのがあるんだ)の博士号を取得ですと。

イギリスの版元はHodder & Stoughton、アメリカではハーパー、ドイツはランダムハウス、版権はPFDの扱い。

ビジネス本でもいっちょ、日本でも読まれそうなのが、アマゾンとウォルマートのリテール戦争を描いたWINNER SELLS ALL。著者はRecodeのジェイソン・デルレイ記者。版元はハーパー・ビジネス。


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