詩を訳すということの難しさ、楽しさ、身勝手さ
先日、日本語訳を試みたアマンダ・ゴーマンの詩で、他にも全訳を載せているサイトがあったので紹介しておく。
クーリエ・ジャポン Yuki Fukayaさんによる緊急全訳
聖書の出典を入れているのはえらい。「──」(em dash)多用しているのは何か意図があるのだろうか?
ビジネス・インサイダー Toshihiko Inoueさんの訳
直訳に近く、全体的に固い。weをいちいち「我々」って訳してるせいもあるかな。
鴻巣友季子さんの解説入り
まあこんくらい有名人になるとタダじゃ〜全訳やれねーよってのもあるかと。解説はさすが。火影(ほかげ)って言葉を出してくるのはすげーなって思ったけど、カッコ入りで読み方入れなくちゃならない時点で日本語として古すぎるんじゃね?とも。あんまり突っ込みすぎるとシンパからバッシングくるんで言わねーけどw
BBCジャパン
ビデオの字幕として入っているのでわかりやすいが、Just isとjusticeの対比を字幕でやろうというのはキツイな。「贖い(あがない)」ってのもキリスト教徒じゃない人にはわかりにくいしな。catastropheを「破局」としたのもなぞ。
TBS 久保田智子さん
いい線いってると思います。ただしミカ書の引用部分ははしょりすぎ?
おそらく、アマンダ・ゴーマンのこの詩でいちばん難しいフレーズはこのあたり。
the loss we carry
conditions of man
my bronze pounded chest
難しい言葉でもなく、すげーシンプルなんだけど、どう解釈するか、その解釈を反映させた日本語にできるか、アメリカ建国の歴史も踏まえてないと深いところがわからない。例えばthe loss we carryなんだけど、これは最初にヨーロッパの宗教弾圧を逃れてアメリカにたどり着いた人たちが失ったものを指しているだろうし、今この時代に生きているアメリカ人である彼女が失ったものは、BLM運動が盛り上がるきっかけとなった、警官に殺されたあまたの黒人の同胞でもあり、トランプ政権の無策によってコロナウィルスで命を落とした人たち、でもあるだろう。
condition of manというのもボヤッとしているようだが、ここでは人種、文化という言葉の後にきているので、経済的格差による状況や、LGBTという言葉に表されるそれぞれの性的嗜好のことだとも解釈できると思う。ちなみにこのセンテンス、To compose a country committed to all cultures, colors, characters and conditions of man.ってhard cで始まる単語だけで幅広い価値観みんな含めちゃってて、すげー才能だなって思います。
bronze pounded chestというのは私がおそらくいちばんうまくできてない部分で、「早鐘(はやがね)のように打つ胸」、と「鋼(はがね)の胸」(要するに黒人である彼女が自らの皮膚をブロンズと表現しているので)という言葉をうまく両方表現できねーかな?と思ったんだけど、うまくできずそのまま。
その一方で、アマンダちゃんも、終盤に向けて catastropheやbeautifulという言葉が繰り返されちゃってる部分もあり、こういうところは「お、まだまだ若いのう」みたいな蒼さも残していると感じました。
短い言葉ほど、難しい、というのは詩に限らず、オバマの最近の回顧録で鳩山さんを評した「pleasant, if awkward fellow」というたった4ワードのフレーズの意味もわかってない人が多すぎた件を思い出すよね。
私の訳文をお気に入りのCDのライナーノーツを読む感覚で〜とコメントしてくれた人がいたけど、まさにそうなんだよなぁ。好きなバンドがあって、リズムとか音ではわかるんだけど、ナニを言ってんのか、もっと知りたい、どう解釈すべきなのかという手助けが欲しいってときに、ライナーノーツの存在って大きいよね。
私も歌詞とか詩を訳すのもいいな、って思うんだけど、商売としてやりたいかどうかは…