「そこそこおしゃれ」(1)多くの人のニーズ(現在全文無料公開中)
2010年以降、おしゃれについてのブログを始め、また自分で考案したメソッドによるファッションレッスンを実施していろいろわかってきたことがあります。その一つは、実は多くの人がそれほどおしゃれになりたいわけではない、ということです。
ファッションの学校へ行ったり、アパレル業界で働いていたことがある人は往々にして、ファッションやおしゃれに重要性を置きがちですが、それはレストラン経営者やシェフたちがいわゆるグルメにこだわったり、インテリア業界がハイセンスなインテリアや内装にこだわったりするのと一緒で、多くの人にとっておしゃれは重要なことではありません。
「おしゃれとは人にとってどういうものなのか?」と聞かれたら、私は「おしゃれは趣味である」と答えます。それはゲーム好き、各種アート好き、車好きなんかとなんら変わりがありません。ですから、「女たるものおしゃれすべきである」などということは思いません。おしゃれでなくても生きていけますし、おしゃれでなくても人として立派な人はたくさんいます。ましてや、おしゃれでなければハッピーでない、などということはありません。おしゃれは単なる趣味です。
ただし、衣服を着るという行為を私たちは死ぬまで続けなければなりません。それは食べるという行為と同じで、それなくては生きていけません。衣服を着る以上の部分、つまりおしゃれであるという部分はすべての人に必要ありませんが、毎日の生活をつつがなく過ごすためにも、また経済的な面からも、衣服に関する知識やワードローブの構築の仕方を知っておくのほうが好ましいのは明らかです。いい加減に食べていたら病気になってしまうのと同じように、好き勝手、または誰かに言われたままに服を買っていたのでは、ワードローブはパンパンで、メンテナンスに時間とお金がかかり、経済を圧迫します。
そしてもう一つの問題があります。それは望むと望まないとにかかわらず、人は着るものによって判断されてしまう、という問題です。見た目による判断という問題は現代社会において常につきまといます。こちらが気にしていなくても、相手方が気にする場合もあります。そしてそれによって、こちらの受ける待遇が変わったり、望まぬ結果になったりすることがあります。多くの人が恐れているのはそのことです。つまり、着るものによって不本意ながら判断され、望む結果が得られないだけではなく、嫌な思いや残念な思いをする、ということを多くの人は避けたいと思っています。ほとんどの人は何よりそれが嫌なのです。
それを避けるために、多くの人が「今流行っているもの」や「人気のあるもの」を知りたがります。また単純に「価格が高い」という情報が付随している、わかりやすいロゴのついたハイブランドのバッグを持つことでなんとか押し通そうとする人もいます。これらの行為はどれもおしゃれであることとは関係がありません。
おしゃれであることとは関係ありませんが、それが多くの人のニーズであることは確かです。「高見え」という言葉が象徴するように、それは「おしゃれ」の話ではなく、「自分が高いものを買えるだけの存在である」と自分以外のものにアピールしたいという欲望の話です。なぜ「自分が高いものを買えるだけの存在である」と他人に見せたいかというと、自分の願望が通ったり、嫌な思いをしないですむと考えているからでしょう。そうすることで多くの人が最も恐れている「着るものによってぞんざいに扱っていい存在として判断される」ことを回避できるのではないかと考えているからです(実際にそれがうまくいくかどうかは定かではありません)。
ファッションやおしゃれについて考えている人たちは、ファッションをそのようなものとは考えていません。そうではなく、ファッションはそれぞれの違った個性を表現するための1つの方法だと考えています。ですから、大事なのは多様性とバラエティです。同じ服を着ようという提案をする優れたデザイナーは存在しません。なるべく高く見えるようにしよう、他人と比べて自分がより社会的に高い位置の存在に見えるようにアピールしようというのは、ファッションでもデザインの話でもないのです。
私のところに来る人たちの一部の人たちのニーズも、必ずしもおしゃれになりたいというものではありませんでした。そのことは彼女たちがもってくる多くのクレームにより気づきました。クレームといっても私に対してのものではありません。例えばこんな感じです。
・パーソナルスタイリストについてもらって服を選んでもらったけれども、その服は着たくない、何かがおかしい、どうしたらいいか。
・○○さん(私は知らない人)に何を買えばいいか教えてもらい、言われたとおりに買ったけれども、その服を着るのは嫌だ、どうしたらいいか。
・有名なスタイリストの○○さんがおすすめする服をかたっぱしから買ったけれども、おしゃれであると誰からも言われない、どうしたらいいか。
・カラー診断と骨格診断で選んでもらった服を着たくない、どうしたらいいか。
彼女たちが選んでもらった服を見てみると、必ずしも「おしゃれでない」ものばかりではありませんでした。見方によってはいいものもあったと思います。しかしそれらの服を着たのでは彼女たちの隠された主要なニーズが満たされることはありませんでした。その隠された主要なニーズとは「着るもので他人からネガティブな判断をされたくない、そしてその結果、嫌な思いをしたくない」ということです。
これは隠されたニーズなのでこのことがはっきり言葉にされることはありません。その多くは「嫌だ」「着たくない」「何かがおかしい」と表現されます。言ってる本人もそのニーズに気づいていないことも多々あります。しかし彼女らのクレーム、そして口々にする言葉を聞いていて、私はその隠れたニーズに気づきました。
多くの人が望むのはとびきりおしゃれになることでも、似合う色を着ることでも、流行りのものを着ることでもなく、着るもので嫌な思いや経験をしたくないということです。おしゃれなんてそこそこでいい。時間もお金も労力もたくさんかけたくない。けれども、嫌な思いをするのだけは避けたい。そんな皆さんのために私が考えた方法論をこれからご紹介していきますので、しばらくのあいだお付き合いくださいませ。
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