既婚32歳の僕に、まだこっそりプレゼントをくれるサンタクロース(母) 丨 @yosshi007 #今日もLINEからつながる
「お前のおばちゃん、またピンクの服着てチャリで爆走してたで〜〜〜しょっちゅう見かけるわ〜〜」
中学生の頃、朝学校に行くと、よくこう話しかけられた。
うちのおかんは、地元の街で暮らしている身体の不自由なご老人を介護する仕事に就いていた。いわゆるホームヘルパー。
ピンクの服は、そんなおかんの定番のユニフォームであり、ママチャリはおかんの相棒だった。
今ではなんとも思わないことなのだけど、当時はなんといってもド思春期。
母親!ピンクの服!チャリで爆走!の3点セットはもはや、裸をみられるくらい恥ずかいことだったのだ。
「わかったわかった、いちいち報告いらんから!笑」
そんな照れと憂鬱を足して2で割ったような返事をして、毎日を切り抜けていた。……しかし、こんなネタを大阪人が見逃すはずはない。
やがて目撃情報は急増化。まるで虹や流れ星を見つけたときのように「見たで!見かけたで!」とひっきりなしに目撃情報が僕のもとに入るようになっていったのだった。
……そんなある日、また友人から目撃情報が寄せられた。
よりによって、ちょっとだけ意識していた女の子からだった。
「昨日、松田のおばちゃんチャリ乗ってるの見たで!しかもなんかお菓子くれたわ〜♪」
キツい。
これはさすがにキツかった。
何してくれてんねん、おかん。
おれより先にお近づきになってどないすんねん。
そんなツッコミを心でいれつつ学校から急いで帰路へ。恥ずかしくて死にそうだった。(もうほぼ死んでいた)
帰宅しておかんを問い詰めると、キョトンとしながら、
「え〜●●ちゃん、あんたにそれ言っちゃったの〜?もう〜秘密にしときや〜て言ったのにな〜!バレたか〜〜www」
とか、たしかそんな感じ。
キャッキャしていて、絶句した。
おかん。
思春期の中学生やぞ。
お菓子くれるピンクのおばちゃんは黙秘不可や……。
せめて、見かけるだけならまだ耐えられた。
でも、ピンクの服を着たおかんが、僕の気になっている女の子にお菓子をあげつつ「よしひろ(僕の下の名前)のことよろしくね〜♡」などと言ってるところを想像したら、もうゲームオーバーだった。
まだ甘酸っぱくもなっていない恋愛は自主終了。これは全貌初公開、誰にも話したことのない情報なのでNDAを締結をお願いできればと思っている。
……このエピソードは、僕が持っているおかん伝説のうちのほんの序章。とにかく僕の母はすごかった。
ちなみに、そんなおかんへの「すごいな」という気持ちが、ネガティブからポジティブに変わった明確なタイミングを覚えている。
それは、いつかの飲み会の席でのこと。
参加しているのはおかんと、おかんの友人数名。その中の1人がお酒を飲みすぎて気持ち悪くなってしまい「う…吐きそう…」と吐き気を催している場面があった。
トイレに連れて行くのか、
タクシーを呼んで家に返すのか、
周囲も悩んでいた最中。
……うちのおかんは違った。
おかんはなんと「ここに出し!!」と自分の両手をコップ状にして差し出したのだ。驚異的なサードアンサー。想定外のソリューション。
想像するだけで信じられないが、その友人は「ありがとう」と謎の感謝をしつつゴールイン。見事、おかんは最優秀アシストの座に輝いたのだった。
おかんはそれをとても楽しそうに僕たち家族に話すのだから、これはもうお手上げだ。生粋のGIVE精神を持って生きている。人助けの概念がそもそも超越している人なのだとわかった瞬間だった。
この出来事を通じて、僕は「世の中にこんなことができる人が何人いるだろう?」と真面目に考えるようになった。僕にはできん。
そう考えると、だんだん凄い人のように感じてきたのだ。
本人には一度も言ったことがないけど、おかん、この話を聞いてからおかんを尊敬するようになったんだよ。どんなエピソードで子どもから尊敬されてんだよ。すげぇよ。
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これが、僕のおかん。
おかんは、とにかく人を助けるのが大好きだ。
自分のことはいつも後回しで、人のために、とにかく優しさを尽くさないと気が済まないおかんのことは、ちょっと恥ずかしい時期もあったけど、今ではとても尊敬している。
※結婚式のときは、全席を挨拶してまわりながら各席に衝撃を与えているおかんを前から眺めてた。終了後、「お前のおかあさん面白かったわ〜」という感想がたくさん寄せられたことは言うまでもない。
ホームヘルパーの話もそう。
早朝でも、深夜でも、
まるで家族と同じくらい、献身的に尽くす姿を毎日みていたから、わが息子の友だちにお菓子を渡すことも、決して謎めいた行動ではなかった。だから、実際には怒ったりすることもほとんどなかった。
「黙っときや!」が合言葉のGIVE人間。
こっそりだけど、ド派手。
まるでサンタクロースみたいな人だと、僕は思った。
※ちなみにこのときも、本人的には「え?!挨拶まわりに行ってたのバレてたん?!恥ずかしいな〜〜!!」って言ってて衝撃を受けた。おかん、その場所、高砂の真ん前だよ。
みんなが寝静まった夜に来るのはいいが、ソリに乗って空を飛び、あんなにド派手な赤い服でやってくるところが、どうにも母を連想してしまう。
こっそりだけど派手にプレゼントすることを生きがいとしているのが、僕のおかんなのだ。
ちなみに、
こんなこともあった(エピソードが止まらない)。
幼少期、おかんに「遊戯王のカード買ってほしいんだけど!!」とねだると、「もう、お父さんには内緒ね!」と言いながらすぐに買ってきてくれた。
ただし。
これのつもりが、
こちらを買ってきてくれた(30パック入りの箱)。
おわかりだろうか。
これが僕のサンタクロースだ。
これだけではない(エピソードがとめどない)。
「プロ野球チップス買ってほしいんだけど!!」とねだると「もう、お父さんには内緒ね!」と言いながらすぐに買ってきてくれた。
ただし。
これのつもりが、
これを買ってきてくれた(24袋入)。
とにかく派手なプレゼントをこっそりくれるサンタ。
でもお察しのとおり、こっそりが成立していない。
この事例だってそう。わが息子がいきなりこんなに大量のカードやポテトチップスを入手したとなると、いくら内緒にしていても気づかない人はいないだろう。
実際、仕事から帰宅してきた父は、秒で「あれ、それ買ったんか?」と僕に声をかけ、そこで母が「うわ〜バレたか!よく見てんなアンタ〜!たまにはな!買ってあげたんや!」とニコニコしてごまかす。
これが松田家の伝統芸能だった。
僕は生まれてから、軽く1000回以上はこの一連の体験をしているので、さすがに笑えなくなっている時期もあったけど、今書いてみると、おかんが圧倒的に可愛い気もしてきてしまう。
おかんにこんな感情を抱くきっかけをくれたLINEさんには感謝せざるを得ない。
ちなみに、今はおかんとは東京と大阪。
離れ離れに暮らしていて、LINEだけが唯一のつながりだ。
今も自転車で爆走しているのかは、もう知り得ない。
もしかしたら、僕の地元にまだお菓子をあげてる可能性もあるが、さすがに目撃情報も寄せられはこなくなった。
でも、サンタクロースは健在だ。
つい先月、実際に送られてきたLINEを紹介したい。
箱いっぱいのみかん。
柿。りんご。
そしてビール。
もはやそこに言葉はなく、
画像だけが送られてきた。
嫌な予感がした。
来るか。
来るのか、サンタ。
予想は的中!
きた。きました。
箱にパンパンに詰まったみかん!柿!りんご!
どれも無邪気な顔で、ぎっしりと仲良く肩を組みながらこっちを見ていた。
おかん。
これはゾウとかが食べる量や。
遊戯王カードとプロ野球チップスの話を思い出して、ちょっと吹いた。
でも、子どもたちはド派手なサンタに大喜び。
「大阪のばあば、いっぱいだね!」
うん、いっぱいだね。
妻と僕は苦笑しながらも、むしゃむしゃと美味しくそれらを戴いて、お礼のLINEを送った。せっかくだから、あまり連絡できていない祖母もグループに入れて。
でも、
1日、2日と経っても、
いっこうに返信がない。
あれ……珍しいな。
これまでだったら、ワーワーLINEが来るはずなのに。
そう、ぼんやり思いながら放置していた。
しかし、3日、4日。
まだ返事がない。
そこから数日後、僕はハッとした。
忘れていたことがあったからだ。
サンタクロースのとっても大切な気質を忘れていたのだ。
……おわかりだろうか。この画像の意味を。
そう、うちのサンタは「こっそり」が鉄則なのだ。
しかし、僕はこれをすっかり忘れてしまい、これまでも、祖母をまじえたLINEグループをつくって、お礼を言ってしまっていた。
これがたぶん、おかん的にはちょっと違ったのだ。
祖母にも内緒で、息子家族にド派手なプレゼントを贈ってあげたかったのだ。まっっったくよく分からないこだわりではあるが、それがおかんの美学なのだ。
そして同時に、僕は気づいた。
今までも、この過ちを何度もしてしまっていることに。
その結果がこれだった。
「こっそり」というルールが守られずに姿を見られてしまったサンタは、すぐさま退散してしまう。出来るだけ早く、その場から居なくなってしまうのだ。
この画像は、僕がそのミスを6回もしてしまっていたことを指している。
おかんと祖母との3人のグループを作ってお礼を伝えてしまった結果、おかんサンタがいなくなってしまい、僕と祖母だけの謎グループが乱立していってしまっている現象が6回も起きていたのだ。
……どんな記事を書こうかと思案していたときに、たまたまこの検索画像をみつけて、謎がわかって、爆笑した。
どこまでも派手だけど、こっそりしていたい母は、
小さい頃からまったく変わっていない。
僕が結婚して、こどもが生まれても、
母は僕の母であり、サンタクロースなのだ。
東京と大阪。
僕とおかんの距離。
もはやつないでくれているのはLINEメッセージだけ。
今年は、帰省もできそうにない。
でも、LINEさんがこうして、
3人のLINEグループから1人が抜けるとふたりぼっちになる仕様
にしてくれていたおかげで、僕はおかんに想いを馳せることができた。ありがとうLINE。僕たちのための仕様でした。
ちょっとだけおかんに会いたくなった。
だから来年は、
僕のほうからサンタの家を訪れようと思う。
「孫の顔を見れるだけで幸せだよ」
ってよくいうけど、
せっかくだし、
普段はなかなかできないし、
プレゼントでも持っていこうと思う。
ここはもちろん、
こっそりと、ド派手に。
TEXT:松田佳大( @yosshi007 )
プロデューサー。結婚式などさまざまなイベントの企画・演出を担う。妻と娘と息子の4人暮らし。ツイッターではユニークな家族とのスローライフを発信中。
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