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本当にあった #胸キュン保存LINE の続きを妄想してみました

好きな人から送られてきたLINEにときめいて、思わずスクショしたことがある人はどのくらいいるでしょうか?

……いえ、これは愚問だったかも知れません。「保護メール」無き今、わたしたちに残された唯一の手段は「スクリーンショット(スクショ)」のみ。そして好きな人からきたLINEは、どんな内容も1文字1文字がダイヤに勝る宝なのは言うまでもありません。

気持ちが高ぶってスクショ。落ち着いて保存用にもう1枚スクショ。数日後、見直してキュンとして思わずスクショ。そして友だちに送るために前後をカットし、鍵アカに載せるためにアイコンと名前を消し……。

……気づけば画像フォルダに何枚も同じLINEスクショ画面が保存されているといったことも、日常茶飯事を通り越してもはや常識なのではないでしょうか(偏見です)。そろそろ「雨降って地固まる」「犬も歩けば棒も当たる」的な感じで「恋とLINEの保存は3年(意:恋の始まりと同時に保存しはじめるLINE、いずれも3年くらいは続く)」みたいな諺ができてもおかしくない。

さて……。今回、「LINE引き継ぎキャンペーン」に伴って、「あなたのお気に入りの、胸キュンLINE」を募集したところ、多くのスクショが集まりました(拍手〜!)。家族や友人とのLINE、そして恋する相手とのLINE……。読んでいるだけで何度もキュンとさせられたのですが、その中でも、わたしが1番ときめいたのが、こちらのLINE!

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…!!!……!?!?!?………!?!?!?


此如何!?我胸高鳴過剰上昇故、言葉消失也南無南無……。


青春とはまさにこのこと!眩しさ、尊さ、そして爆発的な羨ましさ! それらが高まり混ざりあって、思わず彼女たちの8年後を想像してしまいました(なぜ? という問いは聞こえません)。このあとのお話は、すべて「つくりばなし」となります。どうか皆様、ついてきてくださいませ。


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「ねえ、今日友だちに『このまえ、一緒に歩いてたのって旦那さん?』って聞かれちゃった」

昼食後の珈琲を淹れながらそう彼に話しかけたが、返ってきたのは「……へぇ」というそっけない反応だった。

金融会社に勤めている彼は、新聞チェックを欠かさない。長くてまっすぐな睫毛を時折はためかせながら、黒目は文字を追い続けている。

付き合って8年。“落ち着いた”と形容するだけでは足りないほどの、ゆるやかな時間がわたしたちの間には流れている。

「ちゃんと『違う』って言ったよ(笑)。『彼氏です』って答えておいた」

カップに珈琲を注ぐと、深くて香ばしい匂いが湯気の力を借りて部屋中に広がる。その瞬間、不可解な感覚に包まれた。今、放った言葉がデジャブのように感じたのだ。いつだったか、同じような話をしたことがあったような。いや、ちがうあれは……友だちの話だったか?

彼は、新聞から目を離さず、「別に『そうです、旦那です〜』って適当に言っておけばいいじゃん」などと、やや笑いを含んだ声で答える。いちいち馬鹿正直に本当のことを言うわたしのことを、時に「不器用」とでも思っているのだろう。「なんでよ(笑)。嘘つくわけにいかないでしょ?」珈琲を差し出すよりもすこし早く、彼は新聞からゆっくりと顔をあげる。昼下がりのやわらかな光が彼の色素の薄い目を、さらに薄くさせている。その目は、わたしを通りこして、過去を見つめているように思えた。

「んー、じゃあ、嘘じゃなくすればいいじゃん?」

彼の顔にいたずらな気持ちが滲んでいるのをみて、一瞬で思い出した。

「……ちょっと待って」

そうだ。このやりとりは、かつてのわたしたちの会話だ。それなら、返す言葉はこれだけ。

「もうその手には乗りませんけど(笑)」

彼は身体を後ろにそらすほど豪快に笑って、「覚えてたかー」と嬉しそうに間延びした声を出した。何がそんなにおかしいんだろう。顔に場を崩さない程度の薄い笑みを浮かべながらも、頭の半分はやや苛立ちを認識していた。

彼とわたしはほぼ同時に各々のカップに手を伸ばし、珈琲に唇をつける。

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彼と出会ったのは、高校生のとき。高校へ通いはじめたばかりで緊張の解けないわたしの肩を叩き「靴紐、ほどけそうですけど大丈夫ですか」と声をかけてきたのが、彼だった。

第一印象で「ビビっとくる」のが一目惚れだとすると、彼への感情はそれとは全く違うものだった。でも、一目見て「ほっ」とした。何か、自分に似た空気をまとっているような気がしたから。

わたしよりも1歳年上の彼は、目立つキャラクターのはずなのに派手さはない。いつも誰かの会話に耳を傾け、大きく笑っている。その優しい顔と、色素の薄い目。高校生のくせに缶珈琲ばかり飲んでいたあの姿は、今でも思い出せる。

彼とLINEを交わすようになったのは入学から1ヶ月後くらいのことだっただろうか。クラスメートの目を気にしてなのか学校ではほとんど話しかけられなかったが、その割に電話はよくかかってきた。何日も連続で電話をしたり、寝るまで電話をし続けたり。

わたしが、彼との仲を期待するようになるのは当然の流れだった。

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「昨日のLINE、本気ですか?」

だからあんなLINEが来た日には当然、期待した。夕暮れ、彼の後ろ姿を通学路で見かけて、周りにクラスメートがいないことを確認してまっすぐに聞いた。丸1日、何度もなんども頭に描いたセリフを、その通り唱えながら。

「え? LINE?」

なんのことを言っているのかわからない、というきょとんとした顔は、わたしを完全に傷つけた。それでも、ひるむわけにはいかない。

「だから、『嘘じゃなくすればいい』って、どういうつもりだったんですか?」

「どういうつもりって……、うーん?」

長い睫毛がなんども上下して、黒目は見えない文字を追うようにうろうろと泳ぐ。あぁ、弄ばれたんだ。そう気づくまで、さほど時間はかからなかったように思う。

「わたし、期待しちゃったんですけど。わたしの彼氏になってくれるのかもって」

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「いいね。それ」

彼は、軽くそう答え、身体をそらして笑っていた。何がおかしいのか。やっぱり弄ばれているのか? じゃああの発言は……? 頭の中に浮かんだ疑問が口から出て行かなかったのは、笑う彼が心底嬉しそうにしているように見えたからだった。



嬉しさとわずかな悔しさを抱えて家へ帰ったあの日から、8年間もこの人と一緒にいる。

「『覚えてたか〜』じゃないよ。あーあ、あのときわたし、弄ばれてかわいそうだったなぁ」

訝しがる視線をわざと投げたのは、本当は怒っていないことを伝えるためだった。

「いや、違う。いざとなると、恥ずかしくて言えなかっただけ。でも、いまはもう違うよ?」

新聞を置いて立ち上がった彼が、記憶の中の彼と重なった。あの通学路、あの交差点。後ろにある寂れた店。店先で水を撒いていたおばあさん。彼がカバンにつけていた缶バッジ。わたしの太ももにあたる、スカートの裾の感触。……ずいぶん長い時間を、この人と過ごしてきた。

彼はゆっくり口を開く。

「……旦那っていうの、嘘じゃなくすればいいじゃん」

「いや、だから……」

「結婚しよ」

「え……?」

本当は、明日の記念日に言いたかったんだけどと小さく付け加え、笑っていた。何を考えるよりもはやく、こう答えた。すべての感情の最後に仇のような気持ちをほんの僅かに添えて。

「いいね。それ」

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なぁ〜〜〜〜〜〜〜んていう展開どうですかね。

え? 安易?
いいじゃないですか。妄想くらい安易に王道に、爆発的な超ベリーストレートミラクルドリーミングジャスティスな展開にしたって。

このLINEの2人が(現実で)どうなったのか、いや、どうなっていくのか。わたしには知ることができませんが、今後もずっと仲良くしているといいな。

胸キュンLINEを交わしている皆さん(と、交わしていない皆さん)! 
大事なLINEを不注意で失ってしまわないように、ぜひスクショした画面を印刷して額に入れてリビングに飾ってくださいね。「そんなことできるか!」という人も、どうか「バックアップ」だけは頻繁に行ってくださいね……!!!

皆さんの胸キュンLINEライフが、安心安全で幸福に満ちたものとなりますように。それでは〜!


【胸キュンLINEを保存する方法】

① スクリーンショットを撮る:スマートフォン端末のスクリーンショット機能を活用してトークルームのスクリーンショットを撮影しましょう。

② LINEの「スクショ機能を使う」(iOSのみ):保存したいメッセージを長押しし、「スクショ機能」を選択。スクリーンショットとして残したいエリアを選んで、端末に保存しましょう。詳しくはこちら

③ LINEの「バックアップ」を更新する:設定画面から「トーク」を選択し、「トークのバックアップ」を選んで、「今すぐバックアップ」を実行し、トークのバックアップを最新にしてください。詳しくはこちら


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TEXT:夏生 さえり(なつお さえり)

山口県生まれ。フリーライター。
大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。
Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計18万人を突破。
何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意で、女性向けコンテンツを多く手がける。
好きなものは雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、
『口説き文句は決めている』(クラーケン)、『やわらかい明日をつくるノート』(大和書房)、
共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)がある。

※こちらの記事は過去に掲載された記事の再掲です。