短編⑦外伝Ⅰ
先に短編⑦を読んで頂けるとより楽しめます。こちらが先でも問題ない…ようにはしたはずですたぶん。ファンタジー、ほぼ地の文、一人称視点、約2000字ぐらい。いつもより短いですが、外伝なのであしからず。
短編⑦の登場人物のバックストーリー的なものです。たぶん今後もこういう形式で追加していくと思われ…予定は未定。
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売れない魔道具士 サーヤ君の場合
その日、ボクは爽快な気分で目を覚ました。
このところ、よく寝られるから、苦手だった朝もだんだん好きになってきたような。
全部全部、あの人のお陰だ。
ボクのお店に来てくれて、ボクの魔道具たちを興味深げに見てくれて、初めて、ボクの魔道具を買ってくれて…
それから、それから……
『ウィコレック十一番地の裏通りで魔力を売ってます。
よかったら来てください』
って……!!
今でも不思議だ。
どうしてボクが魔力に困ってることに気付いてくれたんだろう。
当時、ボクはお爺ちゃんの親戚の人に譲られた古びた魔道具店で苦しい思いをしてたんだ。
……ボクは魔法工学校に通ってたんだけど、成績は酷いもので。
ボクのお爺ちゃんはとってもすごい魔道具士で、いつも笑顔の人たちに囲まれていて、立派な人で…。いつも、ボクにもたくさんの楽しい魔道具を送ってくれて。
だから、魔道具士になりたいって思ったんだけど。
……ボクには魔力の素質が無くって。
魔道具を作るには魔力は必ず無くてはならないもので、それがどれだけあるかで品質が決まるって言われてる。
それでも、ボクは諦めずに、ううん。違うかな。ただ、諦めきれなかっただけなんだ。
魔道具士になるっていうのは、ボクの夢だったんだ。
何より、人を笑顔に出来る一番いい方法に思えたんだ。けれど。
思い通りに行かないものなんだなって。
夢を叶えるのはとっても難しいことなのかなって。
……もしかして親戚の人がお爺ちゃんのお店をくれたのも、処分に困ったからなのかなって。
だって、だって、まだボクが小さい時にここに来た時には魔道具が床に置かれるほど置いてあったのに、今はなんにも無くなって。倉庫の奥に少しだけあるだけで、それも壊れたり、使い方が分からなかったりで。
どうにかお勉強を頑張って魔法工学校を卒業することは出来たんだけど、先立つ魔力が無いと魔道具作りも出来ない。
学校では魔力器っていう魔力を蓄えることができる器の中の魔力を使って、授業を受けていたけれど、このお店にあるのはからっぽで埃をかぶった魔力器が一つだけ。からっぽじゃ、どうしようもない。
少ない魔力を日々、込めても、満タンになるのはいつのことか、想像もつかない。
ボクの中に灯っていた光が、どんどん暗くなっていくような。明るい外から取り残されて、頑丈な扉の中に閉じ込められそうに。
そんな風に思っていた時だった。あの人が来てくれたのは。
ボクのお店に入ってきた人は大抵、中の様子にぎょっとしたように体を竦めて出ていってしまうのに、その人は興味深そうに周りを見回して。
棚に少しだけある、ボクが学校に通ってた頃に作った魔道具を手に取ってくれて、そのうちの一つを手に持って、カウンターの後ろに佇んでいただけのボクに、これください、って言ってくれたんだ。
つい、夢でも見てるのかと思ってしまった。
あまりにお客さんが来ないから、って。
だけど、その人がカウンターにコトリとボクの魔道具を置いて、不思議そうにボクの顔を覗き込む様子を見て、本当のことなんだって。
慌ててかかった費用をそのまま言っちゃって、だけどその人は払ってくれて、お金を受け取って呆然としていると、あの一言を言ってくれたんだ。
『ウィコレック十一番地の裏通りで魔力を売ってます。
よかったら来てください』
って。
その日は眠れなかった。
いつもみたいに、不安で、じゃなくて。明日が楽しみで。
それから、本当に、その日から。
ボクの毎日はこれまでの憂鬱が嘘だったみたいに。変わったんだ。
好き放題魔力が使えるわけじゃない。お爺ちゃんが遺してくれた魔力器も容量は普通で。
だけど、これまでとは違って魔道具が作れるだけでボクは嬉しかった。
これまで以上に慎重に、無駄遣いしないように、いつか作ろうとメモしておいた魔道具が作れるのは。
あれだけ必死になって学校で作ってたのが嘘みたいに楽しくて。
嬉しくて。
お客さんもちらほら来てくれるようになって、それでも魔道具が売れることは少ないけど。…お客さんも仏頂面なことが多いけど。ボクはまだ魔道具士としては未熟だから。
もっと練習して、もっと作って、もっとお客さんのことを考えて。
いつか、お客さんを笑顔にできるような魔道具を作るんだ…!
それに、それにね。あの人は。
ボクにこんな信じられない約束だってしてくれた。
『貧乏なんだろう。半分はツケでいい。
稼げるようになったら纏めて払ってくれ』
って……!!
ボクは魔工具士としては落ちこぼれなのに。そんなことを言われて嬉しくないはずがない。
思わず大声でお礼を言ってしまって。だけど、その人はうるさそうに眉をしかめながらも、どういたしまして、って返してくれた。
だから、ボクは絶対、やってやるんだ。
いつかきっと、この人を笑顔にする魔道具を作ってやるんだって…!
終わり
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後書き
割とすんなり書けました。また後日、付け足してもう少し長くするかもしれません。せっかく短編らしい短編なのに…!と思うかもしれませんが、物足りなさがあるのであしからず。
とりあえず短編⑦の登場人物一人一人に焦点を当てて書いていくつもり故のⅠというナンバリングですが、期待しててくださる方はのんびりでお願いします。久しぶりに見たら更新されてた、ぐらいの心持ちで。
では、また機会があれば。
※短編⑦から読んでくださっている方へ
T氏に関しては設定にほんのり矛盾がある気がしてる上に、ギルドの構造とか役職に疎いため、今回以上にふんわりする可能性があることを予めお伝えしておきます。