短編⑯

 再びスマホからの投稿。お題.comから『愛の確認』です。いやこれどうなの。分かんない。
 どこかデジャブ感もありつつの万人向け、一応R-15ぐらいです。3000字弱。
 久しぶりの投稿なので後で手直しするかも。

* * *

 今日は勤務先からの帰路で、ケーキを買って帰ることにしていた。そう、これは前々から計画していたことだ。私はケーキはあまり得意ではないけれど、特別感の演出にはやっぱりケーキだろうと、結論が出たからだ。
 その計画の発端は今から数ヶ月前のある日のことだった。

 職場の休憩時間に偶々、ドラマの話題になって、そのドラマであるシーンがいいよね。という話になったのだ。私はドラマを見るより本を読みたいタイプの人間だから、ドラマは話題作り程度にあらすじを調べておくだけなのだが。
 そのワンシーンが好きすぎる同僚が熱演した結果、私もその内容を知ることになったのだ。

『ただいま』
『おかえり、先お風呂にする?』

 と、帰ってきた夫の方を一瞥もせずに言う妻。

『えぇと……』
『どうしたの?……それ』

 そこで言い淀む夫にようやく振り返り、妻は夫の手に提げられた白い箱に気づく。

『ケーキをさ、買ってきたんだ』
『あれ?今日って何か特別な日だったっけ?』

 と、疑問に思う妻の方へ歩み寄り、夫はその耳元で愛してるよ、と呟くのだ。

 その後はお察しである。
 そんなベタベタな展開をやられて、私と他の皆も砂糖を吐きそうになった訳だが、そこでふと気がついた。
 私は愛する人と一緒になってから、これまで何度愛してるとか、そういう言葉を言っただろうか、と。

 幼馴染の関係だったから、何となくそのまま一緒になって何年も経つ。けれど、私は言ってもらったことはあれど、自分から言ったのはプロポーズした時の一度きりだった気がする。
 そんな風な上の空から現実に戻ってくると、話は浮気だの二股だのという内容に変わっていた。

 そこで私は考えてしまったのだ。これまで問題なく私は仕事一辺倒でやってきたが、もしかしてもう愛想を尽かされていて、離婚秒前なのではないかと。
 そう思うと急に怖くなってきて、私はケーキを買って帰るドラマの二番煎じをやってみようと思い立ったのだが。

 私はなんとお相手の好みをまるで知らなかったのだ。甘いものが好きとは知っていたが、それ以上の情報が全く思い出せない。
 それとも知らなかったのか、いやいやそんなはずは、と、つまらない意地を張り続け、気がつけば1週間が過ぎていた。

 このままでは駄目だと気付いた私は、食事やオヤツからどんなものが好きそうか推定して、ケーキを選ぶことにした。
 しかしだ、ここでも問題が発生した。
 何をどうしても、好みだろうという想定が私の好みと被るのだ。そんなはずはない。何しろ、私は甘いものが苦手だ。
 甘いものが好きな相手が甘くないものを好きなはずがない。

 ここでも私の目論見は頓挫した。
 もうサプライズにこだわるのは諦めて直接聞こうかとも思った。
 だが、それで近々離婚するのだと切り出されたら、私は耐えられない。それならば少しでもサプライズをして、繋ぎ止められる確率を上げなければ。

 そこで私は中庸中の中庸を選ぶことにした。
 即ち、ケーキ屋さんのオススメ、である。

 臆病者だと笑え。もうこれしかないのだ。

 そうやって、今、私は緊張しつつ、玄関ドアを開けた。なるほど、ドラマ中の夫役が緊張していたが、もしかするとそれ以上かもしれない。
 私はガチガチになる手足を懸命に動かしながら、リビングへと向かった。

「おかえり」

 夫は、私の目を見てニコニコしながら言った。

「ただいま。えぇと……」
「あ、ご飯食べてきたの?」
「いや、そうじゃなくて」
「ん?体調悪いの?なんかこのところ、心ここにあらず、って感じだったよね」
「あ、はは。いや?そんなことないよ」
「じゃあ、その手に持ってるやつ?」

 夫はちょっとずつ間を詰めてきて、私の持つ白い箱に気付いてそれを指さした。
 私は、う、うん。と小さく返事をして、それをテーブルに置いた。

「あ、もしかしてケーキ買ってきたの?
 ……今日なんかの記念日だったっけ?」
「あ、いや、えぇと、あの……」
「ん?何?ゆっくり言ってみて?」

 そう言われて私は自分の失敗を悟った。
 さっさと近付いて耳元で言えば良かったのだ。
 それがこんな、公開処刑もどきになろうとは!
 と、ここで後悔しても仕方がない。言え、言うのだ。愛していると!口に出して!

「あ」
「……?」
「あ、あ……」
「……」

 い、いい、言えるかっ!
 こんなに見つめられて!!言えるわけがない!
 そこで私は彼をキッと睨んで、席を立った。

「りっちゃん……?ご、ごめん、何か怒らせるようなことを」

 そのまま戸惑って私を見上げる彼の耳元に口を近付けて、距離感を間違えてそのままキスしてしまった後、私はわけが分からなくなりながら、愛してると言ったかも分からないまま。
 そのままもたれ掛かるようにその場に倒れ込んだ。

 このまま気を失えたらいいのに、と思いながら、私はぎゅっと目を瞑り、助け起こされ、声を掛けられた。

「りっちゃん。頑張ってくれて、ありがとうね」
「にゃ、にゃにを」
「正直、スゴいグッと来た。このまま押し倒したいぐらいに」

 そんなことを言うから、私は薄目を開けて彼を見た。彼はいつもの柔らかな笑みを浮かべながら、その頬は紅く染まっていた。

「だけど、そんなつもりじゃないんでしょ?
 どうしたの?理由を教えてよ」
「っ……それは……」

 そこからは今までのことが全部流れ出すみたいに、私の口から止めどなく全てのことが溢れ出してきた。話さなくてもいい仕事の同僚の話から、愛してると言いたかったことまで、本当に全部が流れ出して、それを彼はうんうんと頷きながら聞いてくれた。

「そっかそっか、不安だったんだね、ごめんね」
「そんな!私だって……言わなかったから」
「それは、ボクもそうだから、おあいこだよ」

 そう言って、彼は意を決したように頷いて__

「待って、待って!」
「え?」
「折角だから、私から言わせて欲しいのだけど」
「いいの……?」

 そう言われて、私も意を決して頷く。
 こういうのは勢いだ。躊躇ったら終わり。
 そう思って。

「愛してます」
「んん、これって思ったより恥ずかしいね」
「いや、私の方が恥ずかしいんですけど」
「顔真っ赤だもんね」

 そう言われて頬に手を当てると、確かに温かい。すると、彼は私の空いてる方の頬に手を当てて、そのまま___

 まさか、私たちがベタベタな展開をするとは思わなくて、ふわふわとする思考の中で考えを纏めようとしていると。

「続き、する?」

 なんて言うものだから。

「お風呂……入ってから」

 辛うじて残っていた理性を総動員して、そんなふうに返した。クスッと笑われたけれど仕方がない。何年ぶりだと思ってるの。

 その後のことはあえて語るまでもないことだけど、私の妄想は杞憂で、仲はより深まったことをここに記しておく。

後日談

「そういえば、なんで甘いもの買わないの?」
「え?買ってるよ」
「だって置いてないよ」
「そりゃ、ここには置いてないもん」
「……どういうこと?」
「だからさ、甘いものはりっちゃん、食べないじゃん。だからこっちに布巾かけて置いてるの」
「ああ、そういう……それなら料理は?」
「りっちゃんと僕とで味付け変えて……あー、もしかして嫌だった?」
「いや!嫌とかじゃなくて……えぇと」

 その後、理由を聞き出されて、とても頭をナデナデされた。

終わり

* * *

あとがき
 かなり久しぶりに書きました。このところ夏バテが酷くて……。暑くないですか?暑いですよね?
 毎日溶けるので大変です。マスクの中がヤバい。これでも死なないってんだから人間ってスゴいな。だけど過信は禁物。熱中症には気をつけてくださいね。
 それではまた、機会があればお付き合いください。

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