短編⑬

 今回はお題.comでランダムに引いたお題で書いてみました。
 テーマは『引き裂かれる思い』。
 本当にこの通りいっているか自信無いですが、とりあえず最後まで書けたので投稿しました。

 個人的にはなんか違う仕上がりになりましたが、割と万人向けにはなったんじゃないでしょうか。誰でも読めると思います。面白いかどうかは別として。結構大人なお話になりました。
 では、本編どうぞ。

* * * 

 私は淡白な方だと思っていた。
 そうではないと分かったのはつい最近のことで、それも知りたくない形で知ってしまった。

 私には出来た夫がいる。いわゆる主夫というやつで、料理洗濯掃除といった家事は全て夫任せ。一方で私は会社で働くOLだ。
 ひょんなことから知り合って、何かと息が合い数ヶ月と掛からず電撃結婚だった。それも大して後悔はしていないぐらいに、私と彼の好みは一致していた。
 服のセンスから味の好みまで、何もかもがそっくり同じで、二人とも至って温厚だから喧嘩にもならない。むしろ譲り合いが発生して面倒なことになるからと、先に見つけた方に優先権があることになっている。
 
 そんな彼と私の間にある問題が発生したのはほんの数週間前のことだった。むしろ、それまでに何の違和感もなかったことが不自然だったのかもしれない。

 私はその日、珍しくケーキを買って帰った。
 私は基本的に食品を買って帰ることがない。基本的に彼が財布の紐を握っているからだ。私が使えるのは彼から貰うお小遣いだけで、それらはほとんどが趣味の小説や漫画で消えていく。
 その時の気まぐれは、私の同僚が話していたサプライズを真似してみようという気になったからだった。

 その同僚がしたサプライズとは、『ある日突然ケーキを買って帰って日頃の感謝を伝えようサプライズ』という名前だった。ネーミングのセンスの欠片もない同僚だが、説明の手間が省けるのはいいことだ。
 それを私もやろうとしたわけだ。

 けれど、それは失敗に終わった。

 私が買って帰ったケーキは、甘さ控えめのショートケーキだった。味の好みは同じだから間違いないと思って買ったものだった。
 けれど彼はそれを一口口に含むなりこう言ったのだ。

「あー……もうちょっと甘いほうが好きかも」

 そんな言葉が苦笑いの口の端から溢れ落ちた。

 衝撃だった。
 まさかこのタイミングで好みが違うことが発覚してしまうなんて思いもよらなかった。

 私はつい、もう食べなくていい、とお皿を隠してしまった。そしてそのまま、風呂にも入らず寝てしまった。

 幸い翌日は休日で、だからこそ憂鬱だった。
 こんな形で裏切られるなんて、と思う反面、あんなことで機嫌を悪くしてしまった自分に嫌気が差した。それほど好みが一緒ということが私にとって大事だったのだろう。
 私がベッドで落ち込んでいると、ノックの音が聞こえた。居留守を使おうか、迷う間に、合鍵を使って夫が入ってきた。

「ケーキを買ってきたんだ。」

 彼はそう言って、ケーキをベッド横のテーブルに置いた。そしていらないと言いかけた私の唇に人差し指を当てて、一言だけ。

「フルーツタルトだよ。」

 そう言ってその上半分を私の口の前に差し出した。
 私はフルーツタルトはあまり好きじゃない。フルーツの下のカスタードが甘すぎるからだ。だから上半分なんだろうけれど。
 私が彼を見上げると、彼は眉尻を下げて、こう言った。

「ずっとフルーツタルトの下だけを食べてみたいと思ってたんだ。協力してくれない?」

 その言葉に私は悩んでいたのが馬鹿らしくなって、彼のスプーンから奪い取るようにフルーツを頬張った。


 私と彼でタルトを食べ終わる頃、彼は私に話をし始めた。何もかも、好みが一緒だったわけではなくて、特別こだわりのなかった彼が、私のいい笑顔が見たくて合わせていたという話と、どうしても大好きな甘いスイーツだけは譲れなくて隠し通してきたという話を。
 
「だけどね、思うんだ。フルーツタルトみたいに、半分こしないと分からない美味しさだってあるし、僕が主夫で君がOLなのだって、見方を変えれば半分こでしょ?」

 だから、このまま今まで通りやっていきたいな。と、そう言って彼は私に笑いかけた。
 そんな風に言われて、私に否やは言えず、渋々、という体で頷く他無かった。

 けれど同時に納得もした。

 確かに思い返せば、お菓子関係ではなにかと彼はつれなかった。それはたまたま機嫌が悪いのかもとか、タイミングが悪かったのかもとかで片付けていたものの、よく考えてみると不自然だった。

 例えば、我が家は食事のみならずお菓子も共通だ。夫が纏めて買ってきて、無くなりそうになると次を買ってくる。
 けれど、それは基本的に私が消費するばかりで、彼に自分の分は?と尋ねれば、僕の分は別に取ってあるから、といつも返ってきた。

 そんな小さな、よく考えると不自然な違和感をよくこれまで隠し通して来たものだと、逆に感心してしまった。
 彼はいつバレるかと冷や冷やしていたなんて言うけれど絶対嘘だ。嘘に決まってる。飄々としてたの間違いだと思う。

 だからいつかこのサプライズを成功させて、彼を驚かせてやろうと、そう思った。今はまだその時じゃない。まだ記憶に新しすぎるからだ。

「なんだか悪い顔してるね。御手柔らかに頼むよ。」

 ほら、バレてる。だから忘れた頃にもう一度。
 今度はちゃんとしっかり甘いケーキと、甘さ控えめのケーキを揃えて、一緒に食べるんだ。

終わり

* * *

あとがき
 引き裂かれた思いとは何だったのか。綺麗に修復して、何なら雨降って地固まるまでセットでした。ハピエン厨の悪い所出たな…。シリアスを期待していた方には申し訳ない。でも逆にこういうのしか書けないんだ、と知れたいい機会でした。

 なんかいつもより短くて物足りない感じに仕上がりましたが、これはこれで良かったのかも。いつも短編(笑)ぐらいの長さだから。続編及び閑話は皆さんのご想像にお任せします。ってな感じで。
 また機会があればどうぞよろしくお願いします。

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