短編⑭
今回はお題.comでランダムに引いたお題で書いてみました。
テーマは『夜明けのコーヒー』。
本当にこの通りいっているか自信無いですが、とりあえず最後まで書けたので投稿しました。ここまでテンプレ。
今回は一発書き書ききりじゃなく、途中でなんか違うな、と1/3ぐらい消して書き直したので、どうかな、という感じです。万人向け、のはず。
では本編どうぞ。
* * *
私の朝は早い。 午前4時には起床して、活動を始める。その際に必須であるのが、かなり熱めに煎れたコーヒーと、 芸人のコント映像集である。
その習慣を始めたのはごく最近のことだ。
私は笑うのが下手だ。 しかし、 笑わずにいると血も涙もない冷酷なヤツだとか、仏頂面で面白みに欠けるヤツだと思われてしまう。
自意識過剰かもしれないが。 随分前に後輩から言われた言葉が小さな棘のように今も胸に刺さっている。
『先輩ってなんか恐いんスよね。
いや、ホントの所知る前はマジで恐かったっス。
いっつも無表情だし、 笑わないし、冗談言っても黙ったまんまだし。
今は無口でちょっとシャイなだけって分かってますけどね。』
そう言われて、私は初めて同僚や部下たちからそう思われていることを知ったのだ。
確かに、私はほとんど笑わない。 だが、それは決して感情がないわけではないのだ。ただ、その、口角が上がらないだけで。
それに、 人前で笑うことに抵抗がある。
理由はある。 小学生だったか、とかく子供のころに、何か大笑いすることがあって、その時に仲が良かった友達から、
『〇〇の笑い方ヘンだからずっと笑っちゃうんだよな!
止めてくれよマジで!』
と言われたことがあり、それから我慢するようになった。そして同時に、その頃から友人が少しずつ減っていったことも覚えている。
そしてそのままエスカレーターを昇っていくように会社勤めとなり、 そんな私にひたすらに声を掛けてくるようになったのが例の後輩だった。
彼女はとかくひたすらに話をしていないと落ち着かないタチらしく、何かにつけて口を開いては彼女の同僚や後輩に鬱陶しがられていた。
そんな彼女が最終的に来たのが私の所だった。
最初のやり取りはこうだ。
『先輩って何が好きなんスか?』
『……』
私は別に無視をしたつもりはなかった。
主語が不特定多数を指す先輩であったこともあり、 私に向けられた言葉だとは思わなかったのだ。
しかし、 彼女は諦めなかった。いや、その程度のことは彼女にとって茶飯事だったのかもしれなかったが。
『私は最近コンビニスイーツにハマってるんスよ。
あ、でも先輩って甘い物食べるんス?』
『……』
『意外と食べなさそうな人が甘党だったりしますもんね。
今度買ってきてあげましょーか?』
『……』
ここで私は周囲をゆっくりと見まわし、周辺に彼女しかいないことを知ってようやく答えを返した。
『いりません』
『ですよねー!いや、イメージ通りで良かったっス!』
たったそれだけのやり取りで、彼女は私に目をつけ、何かにつけて話しかけてくるようになった。
基本的に私から答えは返さず、彼女が延々と話し続け、時折、返事をせざるを得ない願いや施しを口にした時のみ否やを返し続けていた。
ある時、それを同僚から見とがめられたことがあった。
『おい、○○が困ってるだろ。 ほどほどにしておけよ。』
『あっ……やっぱ迷惑ですかね?』
『……』
そこで、私はじっくりと考える機会を得た。
本当に彼女の話は迷惑であっただろうか、と。
彼女の世代の話に妙に詳しくなったが、それだけかもしれない。 元々私は自分から話しかける方ではないし、話しかけたとしても事務的なことしか話さない。
そのせいで私は流行という物に疎かった。 最低限すら知らない私に、偏ってはいるものの流行を教えてくれたのは彼女だった。 そういう意味では情報源と言えなくもない。
『いや、迷惑ではない』
ただ、そう答えたときには注意を呼びかけた同僚はおらず、彼女もどこかへ消えた後だった。
それから何となく彼女とは疎遠になり、日々の物淋しさにふと私は笑い方を指摘されて黙り込んだあの日のことを思い出した。
あれからの日々はあまり居心地がよいとは言えないものだった。では、そうならないようにするにはどうすればいいのか、少し悩んで、答えは出た。
私が笑えるようになれば良い。笑いでなくとも、少なくとも感情を出せるようになれば良い。
とはいえ、感情を抑えることとなったきっかけはあの幼き日の指摘なのだから、 まずはそこを解決せねばと。 そう考えて始めたのが笑う練習をすることだった。
幸い、残業が多い会社ではない。夕方早くに寝て朝早くに起き、その時間で笑う練習をすることにした。
しかし、ここで2つの問題が発生した。 眠気と、笑う練習とは何か、である。
実のところ、私は甘党である。但し、間食は午後三時と決めている。話を戻すが、つまりコーヒーなど論外であるのだ。
しかし、コーヒーを飲めば目が覚めると聞く。 やむを得ないか。そう思った私は粉コーヒーをひと瓶買った。
そして、笑う練習は、コーヒーを探していた時に寄った商店街で、偶然目に付いたお笑い芸人の広告を見て、そのDVDを買った。
これが、大当たりだった。 私はこれまでにないほど笑った。 今までの無表情が嘘のように。 未だ不器用な、 カエルが潰れたようなうめき声しか出ないが、それでも面白かった。
ふと思い返せば、テレビではニュースばかり見ていた。 単に目に入らなかっただけかもしれない。意外と下品なやり取りでも笑える自分に驚いた。
思えば今まで食わず嫌いだったのだろう。無意識のうちに笑うことから距離を取っていたのかもしれなかった。
そうやって朝笑うことを繰り返していると、ある日、例の後輩、ではなく、あの日、注意勧告をした同僚が話しかけてきた。
『なんか最近機嫌いいな。何かあったのか?』
どうやら着実に笑う練習の効果が出ているらしいことに安堵し、私は頷いた。
お笑い芸人について話すと非常に驚かれ、その話をどこからか聞きつけた例の後輩が話しかけてきた。
『お久っス!』
『……ああ、お久しぶりです。』
そう答えれば、彼女は大きく目を見開き、一瞬、泣きそうに瞳を潤ませた後、これまでに無いほどいい笑顔で私に笑ってみせた。
私は深く安堵し、思いの外、彼女を心配していたことに思い至った。
私は慣れない話題探しの後、初めて彼女に自分から話しかけた。
『……苦いコーヒーは飲みますか?』
それから、彼女はこれまでの距離が嘘だったかのように、よく話しかけてくるようになった。
あの同僚も、今では偶に輪に入るが、彼は彼女のことは少し苦手らしい。
そうやって今日も私は朝早く起きる。好きなお笑い芸人のコントを見るために。
そして、不自然でない笑い方が出来るように。
ひっそりと賑やかに練習を続けている。
終わり
蛇足 あのあとの会話
『……苦いコーヒーは飲みますか?』
『え…っと、飲まないっス。先輩は?』
『実は嫌いで。甘党なんですよ。』
『えぇえええぇ!?それマジっすか!?』
『この間、コンビニでプリンを買いました。』
『うっわ、似合わなっ。あ、すません』
『ハハ、オススメってありますか?』
『んー、そっすね。クリーム入りのヤツとか』
『美味しそうですね。今度買ってみます』
『あと、ティラミスとかチーズケー……
終われ
※コンビニスイーツエアプなのに、なんで書いたんだろう……。
* * *
あとがき
夜明け、とは入ってないのでどうだろう。うーん。と思うも、まとまりは良い感じだと思います。良い感じですよね……?
ちなみに主人公の性別は不詳です。どちらでも。でも、言動的には男性に思える、かな?とは思ってます。
別にLGBTに配慮しているとかではなく、単にどちらとも取れたら面白いな、と思ってるだけです。それぞれで印象が変わるかもしれないし、受け取り方が単一なものより幅がある方が好きなだけですね。
あ、LGBTについても同じような考え方です。多様性って素晴らしい。
特に創作をしているとよく感じます。如何様にも取れるということは、読み手の数だけ物語が在るということですから。いいですよね、そういうの。
さて、今日はちょっとあとがきが長くなりましたが、また機会があればよろしくお願いします。では。