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四十年の追憶の先に、オホーツクの海で何を感じたか。

2024年10月26日 記事公開
2024年10月27日 文章一部修正。写真3枚公開


「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ」


 これまでさんざんネットで語っている事だが、私にとっては大きな、そして重要な位置を占めるゲームである。

 アスキーが発行していたパソコンゲーム雑誌「ログイン」の編集部が堀井雄二氏へインタビューを行ったことをきっかけとして生まれた推理アドベンチャー。現在は「堀井ミステリー三部作」とも呼ばれる内の一作。
 1984年12月にPC-6001・PC-8801版が発売され、翌年には他の機種にも移植。しばらくして、1986年にはファミリーコンピュータへの移植が決定、1987年6月に発売された。その後も、ファミコン版をベースとして1992年にNEC PC-9801向けに、2000年代には当時の携帯電話向けに、現在では Project EGG という1980年代のパソコンゲームを提供するサービスにおいてPC-8801版を遊ぶことが出来る。このあたりの事は前にも綴っている。

 私と「オホーツクに消ゆ」との最初の出会いは、1986年に電波新聞社が発行した「チャレンジ!! パソコン AVG&RPG」であった。後にゲーム攻略本制作を手掛けるスタジオベントスタッフを設立する山下章氏が手掛けた当時流行していたパソコンゲームの攻略本であった。雑誌「マイコンBASICマガジン」(ベーマガ)の1コーナーであった「チャレンジ!!アドベンチャーゲーム」から生まれた通称「チャレアベ」シリーズはパソコンゲームの情報を知る上でも重要な本で、当時PC-6001mkIIユーザーであった私も小遣いから手に入れてむさぼり読んでいた。

 当時「ログイン」を購読していなかった私は、この「オホーツクに消ゆ」というゲームの存在すら知らなかった。インターネットも無かった時代に、限られた雑誌からでしか得られなかった情報は今よりも遥かに少なかった。
 学校が終わり部活から帰ってきた後、休みの日、何度も本を読み返してその本の誌面で繰り広げられる世界に心躍り、体験したいと思った。

 その中でも「オホーツクに消ゆ」は北海道の地名が色々登場していた。網走刑務所・屈斜路湖・阿寒湖・摩周湖…。私の父親が旅行好きだったせいか夏休みなどによく旅行に連れていってもらえたので、この「オホーツクの消ゆ」の記事を読んた時には見知っている土地が出ているという親しみがあった。たしか小学校3年か4年生位のときに、網走刑務所の正門前で撮った写真が残っているはず。昔のアルバムを発掘したので、3枚掲載してみた。

摩周湖。おそらく第一展望台。昭和57年の夏頃だと思う。
網走刑務所 正門前。たぶん同じ昭和57年の夏頃だと思われる。左隣は知らない親子。
網走 天都山頂上のニポポ人形。昭和59年10月頃らしい。
いつも父がカメラで撮影していたので、母と一緒に写っている写真が多い。

 ゲームは東京で殺人事件が起きて刑事が解決するという内容もわかっていた。当時、名探偵ホームズや西村京太郎、赤川次郎などの小説を読んでいて推理物が好きであったし、地上波テレビでは2時間物のサスペンスドラマをよく家で見ていたので馴染みがあった。

 しかし、既にPC-6001mkII向けのゲームはそのリリースも数少なくなっており、地元のデパートにあったマイコンコーナーもファミコンに取って変わられ、ゲームを入手する手段がなくなりつつあった。

 そんな中、ある時ベーマガの巻末を読んでいたら、通信販売でゲームを買える事を知った。新しいゲームが欲しい…と考えていたので、貯めておいたお年玉とお小遣いから通販費用を捻出することを考えた。このとき中学2年生。今にしてみれば北海道の田舎の中学生がそれまでにやったこともないような通信販売に手を出すのは大冒険だったのかもしれない。親にも特に言わなかった気がする。今にしてみればちゃんとゲームを購入出来て良かったと思う。その通信販売でどのゲームを買うかって考えたときにPC-6001mkIIで動かせるゲームとして「オホーツクに消ゆ」の他に2~3本掲載されていたと思う。私はその中で「オホーツクに消ゆ」を選んだ。価格は 3,800円だった。

 数日して家に「オホーツクに消ゆ」が届いた。PC-6001mkIIではRGB出力ではなく、ビデオ出力で繋がないと色が出ない。それまでにプレイしたことのあるコマンド入力式ではなく、数字キーを押してコマンドを選択する方式であったことなどを把握した。(ちなみにPC-6001版はジョイスティックでも操作できた)
 東京で殺人事件が始まり、高田馬場から北海道釧路へ。そして次から次へと殺人事件が発生して、道東をまたに駆ける大捜査だった。ファミコン版以降では発生しないトラップだったが、キーアイテムのニポポ人形をとある所で取ってしまうと、クリア不能になるトラップにも陥った。
 クリアまで何日かかったかはさすがに覚えていないが、無事事件は解決した。PC-6001版(とMSX版)で流れるエンディング曲を聴きながら、エンディングで登場人物の刑事であるシュンと真紀子の結婚写真を見ていた。
 ゲームは何度もやり直した。手順をほぼ完ぺきに覚えるまでになったと思う。自分が北海道をまたに駆けて捜査を繰り広げる刑事の気分だったし、オホーツクのエンディング曲といえば、今でもこのPC-6001版の曲なのだ。

 1年後、1987年6月にファミコン版が発売されたが、家の教育方針でファミコンを自分で持つことは叶わなかった。当時ファミコンを持っていた悪友が「オホーツク手に入れたよ」と教えてくれたので、そいつの家に行って2日で解いた。この時にはじめて荒井清和先生のキャラデザインやゲヱセン上野さんのBGMにちゃんと触れた気がする。

 その後、PC-98版には触れず、携帯電話版をプレイした事をおぼろげながら記憶してはいるが、はっきりとは覚えていない。Project EGGのPC-8801版はプレイ済。もうこの頃にはいろいろとパッケージを買い戻したり、関連資料を揃えたり、同人頒布品を含めた関連グッズ等を集めたりしている。PC-8801版の制作に関わった方にネットでお話を伺ったりすることもできるようになった。ここ数年だと同人誌に写真を提供したり、PC-8801版のグラフィックを描かれた方をつきとめる調査に協力している。

 おそらく2014年頃には何とかリメイクしてくれないかな…権利はどこが持っているのかな…と考えていた気がする。


 そんな10年越しの願いは叶った。2024年9月12日に Nintendo Switch及びSteamにてジー・モード(株)より『北海道連殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』が発売された。

 リメイク発表は2月だったが、ファミコン版制作時のメインスタッフが関わっている事に驚いた。ファミコン版をオリジナルとして堀井雄二氏をはじめとして当時のスタッフが制作に携わっている。当時の雰囲気を残しつつ、この2024年に添うような形にキャラデザも絵もBGMもシステムもリファインされていた。さらに、堀井雄二氏監修の下で新規ストーリーが追加されている、というのは二重の驚きと喜びだった。

 リメイク版のプレイは、まずSwitch版で一通りクリアまで。その後、コマンドの動きやメッセージの変化を見たいと思い、動画を撮りながらSteam版を全部プレイした。実績もコンプリートした。動画はおそらく20時間分くらいあると思う。
 ここまで書いて、ものすごく長い前置きであるが、リメイク版をプレイした感想を書いていきたい。

 昔の名作ゲームをリメイクするという場合、ゲームクリエイターの方たちにはどのような方法論があるのだろうか。そういうのを考えるのも一興かもしれないが、所詮私はゲーム制作に関しては素人。

 プレイしていて思ったのは、ベースはもちろんファミコン版であってそのリメイクなのだが、システムのベースとなる部分、メッセージテキスト、コマンド選択はそのままにしている、という点である。当時ファミコン版をプレイしている人たちにしてみれば、こちらの方が圧倒的にゲームに入りやすいのだろう。この中で変化点と言えば、その場面で既に表示されたメッセージはオレンジ色の既読色を付けるくらい。あと、ひらがな表記から漢字かな表記にしていること。
 昔を踏襲しつつも、現代のゲームとして遊びやすくなるようにリファインされていると感じる。また、いわゆる「そうさメモ」をすっぱり切ったこと。当時はセーブデータを保存する機構がまだ乏しい時期であった為、初期ドラクエで使われているようなパスワード入力方式が採用されていた。しかし今となってはパスワード方式は逆に煩らしいものになってしまっている為、現在のセーブデータ保存になっている。ノスタルジィという観点から行けば、有っても面白いのかもしれないが、果たして使う人はどれだけいるだろうか。

 グラフィックは、当時の絵を踏襲しつつ、荒井清和先生によって現代風にリファイン。荒井先生の絵はハッピーミールさんのミステリー案内シリーズでも最近の絵を見ているので、そこまでの驚きは感じなかったが、1987年当時と見比べると、やっぱり絵も変わっているなとも思う。でもそれは問題になるような話ではなくて、そういう変化を見るのも一興かなと思う。背景はたぶん別のデザイナーさんが描かれていると思うのだが、実に細かい。ゲーム上、同じ場所でも1987年の時代と2024年の時代で細かく違っていたりする。そこにすごくこだわりがある。ちなみに、釧路の増田家の外にある洗濯機はやっぱり外にあるままであった。

 BGMも当時の主にゲヱセン上野さんが作曲した曲を「リアレンジ」という形で上野さんご本人や、作曲家の門倉聡さんが編曲している。もちろんファミコンで使われている波形音源ではないし、最近言われる「チップチューン」でもなく、CD-DA音源とでも言えばよいのだろうか。言い方はわからないが人によっては好みが分かれるのだろうか。FM音源の方が良いと考える人もいるかもしれない。ただ、おそらくフルボイスで声優さんの演技が入るので、逆に邪魔になるんじゃないか?とも感じる。
 ちなみにBGMは新曲も作られていて、全部数えると45曲あるらしい。ファミコン版では人気のある「追跡」が私も好きだったが、リメイク版では「北の波濤」も臨場感があって良い感じ。

 クリア後にとある方とお話させていただいたのだが、一番は1987年当時のゲーム内容はなるべくそのままにして余計な手を付けず、2024年の新作ストーリー部分を拡張させた所だと思う。人によって見方は違うかもしれないが、あくまでも主軸は2024年の部分、1987年は当時を回顧する過去の部分。2024年の視点で1987年の連続殺人事件を顧みる事で、1987年の部分はファミコン版のリメイクとして完結しているし、その後の新規ストーリーの導入にもなっていて、これは素直にすごいと思った。
 ファミコン版(その前のPC版もそうだが)では東京から北海道に移動するときに能取岬を背景としたアバンタイトルが表示される。でも2024年における回顧とすると、このアバンタイトルは逆に邪魔になってしまう。なぜならこの回顧はストーリーの主軸では無くなっているから。あくまでもリメイク版の主軸のストーリーは2024年の部分なのだ。

 ということを考えていくと、現在ガイドラインで一切触れる事のできない2024年のストーリーの核心部分は凄いシナリオと言わざるを得なかった。内容に触れないようにして書いてみると、1987年の回顧があるという時点で、2024年のストーリーはその部分と密接に関わっているのはプレイから見て取れた。しかし後付けではあるといえ、よくこんな設定を考え出した物だと思う。シナリオライターの胆力の賜物だと思うし、その才能に嫉妬する。

 この新規ストーリーの内容は1987年に主にプレイヤーだった小学生・中学生だった私のような子供たちが、40年という時を経て初老と言われるような年になり終活みたいな事も考え始めた世代である、ということを踏まえると、このストーリーから感じる時間の経過がいかに残酷なものであるか、いかにこれまでに失ってきた物があるのか、これまでに自分が経験してきた人生を思い返すような心情に駆られるのである。そして私は未来に何を残せるのだろうかと。
 おそらく、このシナリオを当時の子供たちがプレイしても、そこまで響かなかったと思う。この物語は私のような人たちにこそ響くのだろう。

 新規ストーリーは堀井先生が監修されているとのことで、ガイドラインの制限で一切触れられないのだが、ぶっちゃけものすごく公に感想を言いたい。このストーリーの素晴らしさを皆と語り合いたい。ちなみにどこがとは全く言えないが、疑問に思う部分もある。でも、こういうのはどこかで酒でも飲みながらクリアした人同士で語り合うのが良いのかもしれない。今までの自分の人生を思い浮かべながら。場末の居酒屋で。

 この辺で5000文字になったらしい。ほぼ殴り書きの書き過ぎである。

 システム面における関係者相関図と人物の詳細情報は相関関係を見る上でわかりやすくなって良いと思った。初見プレイの方には大変良いと思うシステムだった。多数の人物が登場するので、下手すると誰が誰なのかよくわからなくなる。それほどまでこのゲームは人間関係が複雑なので、良いシステムだった。
 また、新しく追加された北海道の地図も「オホーツク」でよくネタにされる「すごい距離を瞬間移動できる」を少し体験できるのと、更に各場所に置いて少し詳細な説明が出てくるので、観光案内的にも役立つかもと思った。強いていうなら、訪れるのが道東がほとんどなので、道東の部分は拡大図にしたり、距離感を感じさせられるなら移動距離を表示させたりすると面白いかもと思った。よく北海道の広さはネタにされるところであるし。

 もう一つ触れる部分としてプロの声優さんによるフルボイスの演技が大変良かった。メインキャストの方々は第一線で活躍されている方々であり、クリア後のスタッフロールで見た所でも、メインキャスト以外にチョイ役だと思うが、知っている声優さんが何人かいらっしゃった。
 最近、ドラクエ11Sをプレイしていて本当に感じていたことだが、今のこういうゲームでボイス無しというのは逆にありえないとまで感じるようになった。ボイスが有ることで感情移入の入り具合が全然違うのだ。人によってはボイスは邪魔だと感じるかもしれない。でも、私はそうではない。とある場面での演技ではガチで涙がこぼれた。それほどまでにゲームにおける声優さんの演技は重要度を増している。

 ここまで色々書いてきた。何か思いついたらまた書くかもしれないが、とりあえずここまでとさせていただこうと思う。写真とか画像とか見出しとか付けようかと思ったが面倒になってしまった。(写真だけは3枚追加した)

 余談だが、2025年2月1日~3日の日程で、オホーツクに消ゆのファンミーティングツアーの開催が決まり、あっという間に予約で満杯になったそうだ。堀井雄二先生はじめ、塩崎剛三さんや多数の関係者が参加されるとのこと。主催されているのは網走市のMOTレール倶楽部さん。冬季に運行されている観光列車「流氷物語号」とオホーツクに消ゆのコラボレーションを実現させた所だ。今回のファンミーティングでは網走と紋別を訪れるとのこと。もちろん「流氷物語号」にも乗車する行程である。

 行きたくても行けなかった。本当に行きたかった!

 堀井雄二先生はじめ「オホーツクに消ゆ」制作に関わった方々にお会いしてこれまでの感謝を述べるのが私の夢です。
 いつかどこかでお会いできる日を。

(了)


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