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生き生きと自堕落。「ハイ・ライフ」を観て
Bad boysがそのままBad BIG boysとなり、ドラッグのために強盗を企てるジャンキーの物語。生き生きと自堕落な彼らから、トム・ウエイツの「I don't wanna grow up」が聞こえるようだった。
秀逸だ、と感じたのは、東出さんがベルトを抜くシーン。逸(はや)る気持ちが伝わってくる。そしてそのベルトを駆血帯にして、足の裏に注射針を刺す。強烈だった。最初は友人に打たせる。2回目は自分で。最初のシーンでこの芝居への扉は完全に開いた。入るしかない「生き生きと自堕落な世界」の扉の奥へ。
結論を言えば、面白かった。ロードムービーを観た感じ。不思議なものだ。銀行強盗のための車は路に止まったままだし、ほとんどが東出さん演じるディックの部屋での話なのに。
彼らが部屋にいない時に何をやっているか・何をやってきたかは、(真実であろうとはったりであろうと)会話で伺い知れ、彼らの世界は一つの部屋にとどまらなかった。缶ビール、煙草、ドラッグ、注射器。もの言わぬプロップがトラッシュカンに投げ込まれるたびに音がする。その後の一瞬は迷い込んだ深い森の奥の、シーンと静まった湖のようでもあった。「愛」「友情」。彼らの辞書にはそんな言葉はなく、いま共に在る、ことだけがそれを物語る。観ているわたしも、愛すでもなく蔑むでもなく、(上手最前列であったこともあり)ただそこに有る空気のひと粒であった。