風の色|#シロクマ文芸部(約750字)
同じゼミの小鳥遊くんが「風の色って、どんな色だと思う?」と聞いてきたから、そんなふうに答えたけど、やっぱり可愛くなかったな。
かっこいいとか勉強ができるとかじゃなくて、彼の独特な感性には惹かれるものがある。私の気づかなかった世界を見せてくれるというか。大学の講義で彼の考察を聴いていると「そんな見方もあるんだ」と世界が広がる気がいつもしていた。「ひねくれた考えしてるよな、アイツ」と呼ばれたりもしているけれど、私はそうは思わない。
夏休みが明けて久しぶりの講義で小鳥遊くんと会った。なにか音楽を聴いていたからなんの歌か尋ねたんだけど、全然知らないシンガーの曲で話が続かなくて… そうしたら急に「風の色って、どんな色だと思う?」と聞いてきた。
「小鳥遊くんは、どんな色だと思うの?」
「僕も透明かなと思うけれど、何にでも染まる白みたいな色…それでも時々染まらないこともあるような」
「ふ〜ん。で、なんでそんなこと聞いてきたの?」
「今聴いている曲からなんとなく」
小鳥遊くんが聴いていたのは日本の女性の古いシンガーソングライターの歌で、それも特にヒットしていたわけじゃない曲… 何でそんな曲を選んだのかも不思議な感じだが、彼らしくもある。
ピロン…♪
小鳥遊くんのスマホにメールが入ったようだ。
「じゃあ」
メールを読むと、小鳥遊くんは実験棟の方に歩いて行った。文学部の青年がどうして?
実験棟脇の欅並木の緑のこずえが揺れ、彼の姿を隠す。
私は実験棟の向こうに彼の思い人がいるかもという不安な気持ちを、風の色で消した。
小鳥遊くんの聴いていた曲は、読者のみなさまの想像でお願いいたします。(一応モデル曲はあった)