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ちゃんと さよなら したかった…|#恋文求ム(約700字)

約20年前、今の地に越してきて… まだ土地勘の無かった私に、誰かがいわゆる裏道を教えてくれたとき出会ったんだと思う。

車が通れない細くて曲がりくねった道路の途中、突然右手にまるで公園のような広がりを見せる家があった。キレイな水色の平屋、窓枠とかは白の洋館。奥の方にはバスケットゴールが一本。

道路から玄関まで芝生上にS字を描くような小道ができていて、小道の途中にトップ画像にあるような郵便受けがあった。あのタイプの郵便受けがあんなに似合う家は、そんなにないんじゃないかな…と思う。

初めてこの家を見た時、絵本『ちいさいおうち』を思い出した。あの本の家は赤かったけれども、この水色の洋館も絵本の中の世界みたいで…なんだか異世界に迷い込んだような不思議な気持ちになった。

この家が建つ裏道を通る用事はそんなにしょっちゅう無かったけれど、家を見たさに通ることは何度かあった。あまりにもあの空間が夢のようで 確かめたくなるのだ。その家に住む人にも思いを馳せた。ただ、何度かその家の前を通り過ぎたが、人の気配は全く感じられなかった。もしかしたらモデルハウス的な家だったのかもしれない。

数年前の世界規模で蔓延した感染症のせいで近所を気ままにブラリと散策することをしなくなって… いつだか久々に裏道を通ってみたら… 

あのメルヘンな世界は無くなって駐車場になっていた。ものすごくショックで、泣きたくなった。例えるなら…クラスに片想いの人がいて、自分が風邪かなんかで数日休み、治って登校したら片想いの人は転校していた…みたいな。なんで教えてくれなかったの?な気分。

あの家は絵本の世界に帰ってしまったのだろうか…
ちゃんとさよならをしたかったな。


人ではなくて、私の中のちいさいおうち宛にしました。大好きだったのよ…😭 ↓

#恋文求ム

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