【SS】自己紹介草②|#毎週ショートショートnote
「おい!井上。この草を見たまえ!」
植物博士の木下は、助手の井上を呼びつけた。最近、よくある在来種を新種と間違えた悔しさから、今まで以上に観察欲に熱が入るようになった。
「これは… アブラナ科ナズナ属のナズナ、ぺんぺん草ではないのですか?」
「今度こそ新発見だ!」
見ると、ぺんぺん草のぺんぺんと呼ばれる由来の三角形の部分が、なんと五本指のようになっている。
「本当だ!この草だけですか?」
「いや、この辺りのは全部、五本指みたいになっている。なんだか両手を挙げて歓迎されているようだ。」
「大勢に握手を求められているようにも見えますね。」
「いや〜、初めまして。私は木下慎一郎という、しがない植物学者をしている者ですが、貴方様に出会えて大変光栄に思います。」
博士は、おそらく新種となる植物に向かい、感激のあまり自己紹介まで始めてしまった。
井上は「博士おめでとう」と心の中で呟いた。
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前回、新種発見し損なった博士たちのその後を書いてみました。蛇足みたいですが、個人的には「おめでとう🎊」と祝っています。