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BUNGEI-BU10|#シロクマ文芸部(約1500字)
「海の日をテーマに書こうなんて…」
能戸高校文芸部が発足し、夏季休暇前の部誌発行で部長がテーマを出してきた。今までだって部誌…いや同好会誌は発行してきたが、テーマなんて人それぞれ自由に設定して書いてきた。同好会時代は自称部長や会長も二人で共通のテーマは作っていたかもしれないけれど、全員が同じテーマで書くのは初めてだ。
カオルは悩んだ。自由に書いていたのにテーマが設けられた。しかも国民の祝日の『海の日』というテーマだ。そもそも海の日って何?ただの休日、登校しなくて良い日程度にしか思っていなかったけど。
「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」
ハッピーマンデー制度により、七月の第三月曜日が『海の日』となるそうだ。
ふーん… 部長なら、思いっきりこの祝日が生まれた経緯を綴りそう。後輩くんは海を寿ぐ詩を書きそうだし、例の二人もそれなりに海の物語を書きそうだ。じゃあ自分は?海の日がテーマの物語…
カオルは、自分の中の海の日の思い出等を思い出そうとしたが何も浮かばなかった。そもそも海の日だから何かをした… そんな記憶はない。夏にどこかへ行った記憶はあるが、それが海の日だったのかもわからない。海の日に山へ避暑していたかもしれないし。海に行った記憶も…もしかしたら小学生の時以来無いかもしれない。
「書けない…」
初スランプかもしれない。テーマを課せられて書けなくなった…というか、『海の日』というどこか超現実的な言葉の響きに、カオルの想像の翼が開かないという雰囲気だ。
「海の恩恵に感謝とか海洋国日本の繁栄を願うって…ん〜〜、そんな大仰な意味が込められている祝日ってなんなのよ!山の日もそうなのかな。山の恩恵に感謝して…とか言いながらも、海に対抗して作った気が満々なのに」
カオルは国民の祝日に怒りすら湧いてきた。
「海や山に感謝したり、法律ができたことを祝ったり、子どもたちや年配の方を労ったり祝う日があるのに、なんで父の日や母の日はただの日曜で祝日にしないのよ!多分、一番身近で感謝の対象になるのは親だと思うのに… 」
いろんな家庭の事情とかもあるかもしれない。それにしても不可解だ。そもそもハッピーマンデー制度って何?調べれば調べるほど憤りが高まってくる。
「海の日は海に感謝して、山の日は山に。じゃあ川とか平地には感謝しなくて良いわけ?それに感謝する日はいつでもいいんじゃない?海に感謝する日が夏じゃなくたって… たとえば牡蠣は夏場は食べられないから、牡蠣養殖の人たちとかは海の日が夏である意味を感じていないんじゃないかしら。ホタルイカだって春の名物だし、初鰹と戻り鰹は夏を挟んだ季節だし… 夏が旬の海産物もあるけれど、海のイメージが夏で海の日を作ったようで、なんだか海に対していろいろと失礼な感じがする祝日だわ」
カオルは海の日という祝日に対しての不満を… たまたまそばにあった分厚い六法全書に向かって吐き出した。広辞苑も近くにあったが、カオルのお気に入りなので難を逃れた。
「さてと、…」
カオルは図書準備室にいた。今日も異常に暑い。熱中症アラートが発令されているかもしれない。隣がエアコンの効いた図書室のおかげで涼しく過ごせる。
「暑いわ…」
窓は開けずにガラス越しの外の世界を覗く。暑すぎるからかセミも鳴いていない。セミは鳴くとうるさいけれど、生命をつなぐ必死さは感じる。朱夏という言葉の意味を一番感じるのはセミの大合唱かな…と思いながら、カオルは想像の翼をゆっくりとひろげ始めた。
セミの声や海水浴客の喧騒から離れた静かな湖畔のようなところで、なぜかシロクマが小舟に揺られながらのんびりと昼寝をしている…
「私は私の書きたいことを書くわ」
カオルは六法全書を机代わりにし、原稿用紙に彼女の世界を描き出し始めた。
『BUNGEI-BU』シリーズも10までいきました。いつもは自称部長と会長の掛け合い漫才風会話で始まるのですが、今回は影の部長?カオルの視点で書いてみました。イメージ壊していたらごめんなさい。
※ 今までテーマ統一して作品を作ったことがない…と書きましたが、BUNGEI-BU7 で、俳句『風薫る』をひねくり出そうとしていたことがありました。まぁ、この時はオリジナリティーが感じられなかったということで没にした…という設定にします😅