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卵サンドと彼女|#あざとごはん

★主人公
西村樹(にしむらいつき、27歳)SE。独身。最近、交際3年の彼女と雲行きが怪しい。「君のことも大事だけど仕事だって大事だよ。」の一言で破局の危機目前。

「なんだよ。そんなに非常識な発言か?」
学生時代は同じサークルのただの同僚だった。お互い社会人となって数年ぶりに会った時、懐かしさと気やすさで何度も会ううちに、交際しているのかな…な関係となった。将来のことも考えている。だから仕事をきっちりし、収入に不安がないようにと頑張っていた。デートだって大切だとは思うけれど、誕生日とか交際記念日を仕事より優先しろって、どうなんだろう?忘れていた訳じゃないけれど、祝うのは当日じゃなくてもいいんじゃないか?俺の考え方って古いのかな?

私と仕事とどっちが大事なのかを聞いた訳じゃない。いつも仕事に追われている気がして、たまにはお仕事優先を休んだら?と提案したつもりだったのに… 私の言い方が悪かったのかな。辛い。


俺は、自分の誕生日を祝うよりは納期の迫っている仕事を優先し、出張をいれた。彼女はものすごく不満な顔をしている。そんなことで怒るようなら、この先きっと続かないと思う。趣味や味覚とか似ていて、一緒にいて楽しかったんだけど。

俺は出張した。1泊なので、ゲストハウスを選んでみた。食事は提供されないから、夜は外食にしよう。朝は… 気が向いたらサンドイッチでも作ってみるか。パンに何かはさめば良いんだし。27歳の自分の誕生日なんか、別にどうでもいい。


あの人は、自分のことは後回しにしてしまうとても優しい人。今日の出張だって、自炊する安い宿にしたって聞いたわ。きっと買い弁当とかを食べるんだろうけれど…栄養とか大丈夫かな。せめて一言、お誕生日おめでとうを伝えたい。身体のことが心配で、つい仕事頑張り過ぎなことを注意してしまうんだけれど… 


仕事はデバッグにだいぶ時間を取られ、夕飯を店で食べる予定が崩れてしまった。地方なので夜の8時になれば、ほとんどの店が閉店してしまう。コンビニみたいな店で、弁当とパンとゆで卵1個とハム、あと缶ビール2本買った。


「何でサンドイッチ作ろうと思ったんだ…」
別に朝も買い弁当で良かったのに、わざわざ手作りのサンドイッチを思いついたのは何故だ?

「あぁ、彼女の影響だな。」
今は喧嘩別れしている彼女だけれど、いつも朝はサンドイッチを作ってくれる。サンドイッチ屋でも開けそうな見た目と美味しさだった。知らないうちに、胃袋をつかまされたという訳なのか?


ゲストハウスに着いた。俺は自室ではなく共用のリビングで弁当を食いビールを飲んだ。単に食事テーブルで食べたかっただけなのだが、宿泊者が声をかけてくる。

「こんばんは〜!初顔だね。僕は旅行で2泊するんだ。宜しく!」
「ワタシ、アメリカカラ、キマシタ。リサデス。ヨロシクオネガイシマス。」
「一緒にお酒飲まない?コップは、そこにあるからさ。弁当食い終わったら飲もう!」

全然知らない人たちだが、一期一会の出会いを大切にする…そんな感じだ。俺もなんとなく気持ちが柔らかくなった気がした。

お酒のご相伴に預かり、自己紹介とかした。仕事のため1泊しかしないけれど… と話している最中に、スマホが鳴った。彼女からメールだ。でも今は、せっかくの交流時間。後で見よう…と思っていると、みんなが騒ぐ。

「彼女からじゃないの?」
「いいんだよ。大した用事じゃないから。」
「ナゼ、ワカル?」
「誕生日おめでとう、と言いたいだけだろう。」
「誰の誕生日だって?!」
「あ、俺。実は今日誕生日…」

突然、♪Happy birthday to you 〜♪の歌声がリビングに響き渡った。驚きと恥ずかしさで逃げたくもなったが、正直…嬉しかった。そして、この輪の中に彼女が居ないことが、実はちょっと寂しかった。誕生日なんかどうでもいいと思っていたのに…

「おやすみなさい。」
俺は自室へ戻り、届いたメールを読む。

『樹、お誕生日おめでとう。身体に気をつけてね。帰ってきたら、プレゼント渡します。』

俺は『ありがとう』とだけ返信して眠った。本当は声が聞きたかったんだけれど。

「卵サンドくらいなら自分でも作れるさ。」
朝起きて、早速調理開始。ゆで卵をみじん切りにする。マヨネーズで和えて、ちょっと塩コショウして…パンにはさめば、ほら、出来た!不味くはない。不味くはないんだけれど、何かが足りない。彼女のは、もっとこう…優しい味がする。ハムサンドも作ったけれど、なんか違う。

「おはよう。サンドイッチ、美味そうだな。」
「彼女が作るのは、最高に美味いんです!」

何故か、彼女のことを褒める俺。

「そうか、早く帰りたいんだな。」
「へへへ…」

俺は『美波の作る卵サンド、早く食べたい』とメールしていた。


[1995字]

#2000字のドラマ
#あざとごはん



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