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【ひと色展】魔法のような|オペラ“きらめく瞬間の色”
その色は母の好きな色
母の持つ小物には
大抵その色がどこかに入っていた
一番よく見かけたのは
お財布
母のお財布は
とても鮮やかなピンク色だった
でもただのピンク色ではなく
赤でもなく薔薇色…とも違う
魔法のようなピンク色!
そんな風に思っていた
お財布の皮の質感もあって
ツヤツヤと輝いていた
化粧台の引き出しの中にも
その魔法のようなピンク色はあった
私はたまにこっそりと借りたけど
すぐにバレた
母みたいに上手に塗れず
いつも唇からはみ出すし
お留守番をしていた時に
母の箪笥から
魔法のようなピンク色の花が描かれた
スカーフを引っ張り出して
体に巻き付けてみたけれど
母みたいにステキになれなかった
きっとそれは
布が短すぎたからだろうな
母の周りにはなんとなく
キラキラしたものが漂っている気がした
でもある日
母は居なくなってしまった
魔法みたいに…
それから約50年経って
母の死を知らされた
ピンク色は残っていた
もう魔法のような鮮やかさは
残っていなかったけれど
別れた父から婚約時代にもらったらしい
ピンク水晶のネックレス
そして
普通の桃色の掃除機
私はネックレスと掃除機を
母の形見に受け取った
キレイ好きな母は
死ぬ日まできっと毎日
この掃除機を使っていたんだろうな…
動かない掃除機だったけれど
もうしばらく私のそばに
オペラ色の思い出が
色褪せないように…
*********
[約600字]
ステキなイラストの企画にもう一作品書きました。
前作もそうですが、心の底のチクッとした部分を吐き出してみたくなったのです。
生みの母の思い出に繋がる色を32色の中に見つけられて、とても嬉しかったです。
イシノアサミさん、ありがとうございます。