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思いがけないプレゼント【創作】2741文字

私はサンタさんに『ドレス』をお願いした。自分用ではない。私だって、そりゃドレスを着てみたいな…とは思うけれど、ドレスが似合うお城に住んでないし、舞踏会みたいなパーティーとか全然無いし。ドレスを着せてあげたいのは、お人形のスカーレットちゃん!サンタさん、お願いします。スカーレットちゃんにピンク色でフリフリがいっぱい付いていて、後ろに大きなリボンがある可愛いドレスをお願い!!!

クリスマスツリーの飾り付けを済ませ、チカチカと赤や緑に交互に光る電飾ライトも点灯させた。お母さんが作ったクリームシチューや鳥のモモ肉焼きとか… あ、モモ肉の手で持つ所の飾り、私が作って手伝ったんだよ。サンタさん、私って偉いでしょ?だから『ドレス』絶対にお願いします!

「お〜い、ただいまぁ〜!」

あ、お父さんが帰って来た!やっとクリスマスパーティーが始められる。お腹空いて死にそうだったんだから。早く食べて、それからケーキも食べて、早くお風呂に入って早く寝て… サンタさんのプレゼント、楽しみだなぁ!

「はい。これ、ユウにプレゼント。」

「え?お父さん、私の誕生日は今日じゃないよ?」

「知ってるよ。今日はクリスマスだろ?だから、プ・レ・ゼ・ン・ト!」

「私、サンタさんにドレスお願いしたの。 それに、これはドレスじゃないでしょ?何、これ…」

平べったい長方形の、重くて硬い木の箱が出てきた。よく見ると手で持つ所も付いている。中に何か入っている音もする。木でできたカバン?でも、全然可愛くないし、とっても重たいから持ちたくない。お父さんはサンタさんじゃないから、私の欲しいもの全くわかっていない!大好きなお父さんだけど、このプレゼントは大ハズレだ。お父さんのこと、ちょっと嫌いになりそうだった。

「いらない!サンタさんからもらうから、これはいらない。」

「これはね『絵の具セット』だよ。ユウはお絵描きが大好きだろ?だから、お父さんからのプレゼント。サンタさんじゃないけどな。箱を開けてごらん。」

「絵の具セット?お絵描きならクレヨンの方が良かったな。」

それでも大好きなお絵描きの道具なら、もらってもいいかな…と、心が傾いた。絵の具って何だろう?クレヨンや色鉛筆と、どう違うんだろう… 硬い木の箱の中から、見たことのないものがたくさん出てきた。

「お〜い、母さん。何か水を入れるものと雑巾をユウに渡してくれ。」

お母さんは「とりあえず…」と、おやつに食べたプリンの空き容器に水を入れたものと、ボロになったタオルを持って来てくれた。でも、何に使うんだろう?

「そうだ。これも渡さなくっちゃ!」

それは、いつも買ってもらうものより大きなサイズのスケッチブックだった。絵の具より、こっちの方が嬉しいよ。スケッチブックだけで良かったのに… お父さん、やっぱりわかっていない。絵の具セットって、使うのが面倒くさそう。何だろうこれ…

歯磨き粉のすごく小さいやつが、クレヨンケースみたいなものの中に12本入っていた。あか、あお、きいろ、みどり…あれ?緑なのに『ビリジアン』って書いてある。なんでだろう?きみどり、だいだい、しゅいろ、ちゃいろ、やまぶき…あれ?さっきの黄色と違うの?『やまぶき』の方が濃いような気がする、ぐんじょう…これも濃い青みたいな色?あとはしろとくろ。白の絵の具だけ大きいけれど、なんでだろう?

「いいか、ユウ。絵の具をこれ(パレット)に少しだけ出して、水をつけたこれ(絵筆)でチョンチョンとのばして描くんだよ。簡単だろ?」

何を言ってるの、お父さん。全然意味がわからないんだけど。しょうがないから使ってみるけれど、今だけだからね。

「チューリップ描いていい?赤と緑で。赤い絵の具と緑の絵の具使えばいいの?そうだ。ねぇ、なんで緑だけ『ビリジアン』って英語なの?」

「なんでだろうね、黄緑と間違えないようにかな。お父さんにもわからないや。」

「絵の具は、これくらい出せばいいの?もっとたくさん?」

「うわぁ!もっと少しで大丈夫だったんだけどな。しょうがない。あと、色が混じらないように、離した方がいいよ…って、もう手遅れかな。」

私はパレットの真ん中に、赤とビリジアンの絵の具をお煎餅の柿の種くらいの大きさで並べてひねり出していた。

「筆に水をたっぷり吸わせて、一回タオルで水を吸い取ってから、また水を付けて、それから絵の具付けて描くんだよ。」

はじめに赤い絵の具でチューリップの花を描いた。筆先がバラバラになるし、色も薄くなったりかすれたりする。

「そうなったら、また水付けて絵の具をもう一度足して描いていいんだよ。」

なんとか花は描けた。次は葉っぱだ。絵筆をビリジアンの絵の具に付けようとすると

「色を変える時には、一回きれいな水で筆を洗わないと、きれいな色が出ないよ。」

慌ててお父さんは注意したけれど、私の絵筆が絵の具に着地する方が早かった。面倒くさかったし、聞こえなかったふりをしてそのまま描いたら…

「うわぁ〜、変な色になっちゃったよ。緑じゃなくて、これは黒だよ!ビリジアンって緑じゃなくて、黒なんじゃないの?」

「せっかくきれいに花は描けたのにな。筆をきれいな水で洗って、もう一度絵の具を付けてごらん。今度はきれいな色が描けると思うけど。」

チューリップの花は3つ描いたので、黒い葉っぱになったチューリップの隣の花に新しく葉っぱを描いてみた。きれいな緑色だった。嬉しくなって、残りのチューリップも葉っぱを書き足した。緑色で、自分の名前も書いてみた。今度は別の色で描いてみたいな。ピンク色とか… あ、でもピンク色の絵の具は無いよ。水色も無い。

「お父さん、今度 ピンクと水色の絵の具を買って!私の好きな色だけど、ここに入っていないから。」

「絵の具はね、自分の好きな色を作ることができるんだよ。ピンクは赤と白を混ぜるとできるよ。水色は青と白。やってごらん。まず、筆をきれいに洗わないとね。」

「その前に、ご飯を食べましょう!お二人さん。」

そうだ!今日はこれからクリスマスパーティーするんだった。お母さんの作ってくれたクリームシチュー食べて、私が飾りつけた鳥のモモ肉食べて… でも、なんだかもうサンタさんにプレゼントもらったような気分だ。サンタさん、ちゃんと来てくれるかな。

お母さん、いつも美味しいお料理ありがとう。お父さんも、思いがけないプレゼントありがとう。はじめは「いらない」と思ったけれど、なんだか大好きになりそう。

お父さん、お母さん、そして大好きなお人形のスカーレットちゃん、メリー・クリスマス!


クリスマスの『家族愛(父と娘)』を描いてみました。自分の幼稚園の頃の思い出がかなり混じっています。

これ、歌にはできないかも…  自己満足作品みたいで、ごめんなさい。登場人物も、お母さんちょっと参加してるからOUTかも。

皆さま、良いクリスマスを。(気が早すぎ)

#才の祭
#才の祭小説

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