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笑顔の約束(金)|#あなぴり
※ スマホ編集なので、元記事のコピペができず、画像でコピペしています。ごめんなさい。
前半は、紫乃さんが書かれています。
↓↓
《前半》
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《後半》
僕とヒカル、そしてヒカルと双子の妹カオルとは、実は幼なじみだ。
ヒカルは金で、カオルは銀。
幼い頃はカチューシャの色、小中学校の頃は前髪をとめる髪留めの色で、と、見分けられるようにしていた。
ずっと二人を見てきた僕には、金や銀のアクセサリーが無くてもわかるけれど。
それに、二人には決定的に違うところがある。
ヒカルは絵に、カオルはアイススケートに才能を光らせていた。ヒカルは進学先を芸大方面に決めて、早い頃から、ほぼ毎日絵画教室へ通っている。参考書や問題集だけではわからない、芸術のセンスをヒカルは磨いていた。カオルも、スケートを続けられる大学を目指している。
今まで、いつもそばにいた幼なじみだけれど、進学では、僕にはない才能を持つ彼女たちと離れることで、一抹の寂しさを感じる昨今。
僕は進学コースを選んだけれど、特になりたいものは見つけていない。なんとなく、医者にでもなれたら良いかな、そんな風に思う自分のことを、情けなく感じる。
・・・・・
「ツカサ、マックに行かないんだな」
「悪い。また今度な」
「13日の金曜日に、また声かけるよ」
「なんだよ、それ!嫌味か」
「ははは。今日は、ツカサに悪いことが起きないことを、マックで食いながら祈ってるよ」
「まじだよー」
「うん、祈ってる、祈ってる」
「お前たちも、食い過ぎて腹壊すなよ」
僕は、教室に一人残った。
数Ⅲの問題集はカバンにしまい、誰もいない教室で、しばし瞑想の時間を過ごす。
・・・・・
今日は、13日の金曜日か。
クリスチャンでもないくせに、13日の金曜日という響きが苦手で、ハメを外してはいけない、そんな思いが募る。それはきっと、ヒカルとのあの思い出が、トラウマになっているんだな、と、わかっているんだけれど。
・・・・・
小学2年の冬の、13日の金曜日だった。スケート教室に行くと、カオルは先に教室を出て、僕とヒカルは二人で帰った。そして、途中の公園で、ニャーとか細い声で鳴く、仔猫を見つけた。
「かわいい!こっちにおいで。うわぁ、本当にかわいい」
「野良猫なのかな」
「あ、金色の目をしている、この猫ちゃん。なんだか、私みたい。猫ちゃん、私の家に来る?」
「ヒカル、飼うつもり?」
「もちろんよ。お母さんに、お願いするから、ツカサも応援して!」
「うん、いいよ」
でも、野良猫なんか飼えません!と叱られて、元のところへ返すように言われた。その仔猫のお母さんも探しているよ、そう言われたら、それもそうだと思った。
公園の片隅に仔猫を置いてきた。ニャーと鳴いて、追いかけてくる。ダメだよ、お母さんのところにお帰り、そう思いながら、二人で駆けって家に帰った。
次の日、公園の片隅で冷たくなっている姿を見た時は、どうしたらいいのかわからなかった。なんで死んだのか、わからなかったけれど、僕たちが気まぐれで、連れていかなければ、こうならなかったのかもしれない。
あの日から、ずっと心に棘が刺さっている。僕の13日の金曜日の、小さな呪い。
・・・・・
ガラッ
「ツカサ、まだ帰ってなかったんだ。」
なぜか、ヒカルが立っていた。
「えっ、お前、先約があるって帰ったんじゃ?」
「そう。だから、用事はもう済ませてきた」
「早いな。で、なんで戻ってきた?」
「そんなの、あなたと一緒に帰るためじゃない。今日は、13日の金曜日でしょ」
「意味がわかんねぇよ」
「今日は絶対にいいことがある、そう信じて、戻ってきたの。まだ帰っていなくて、良かった〜」
「だから、何なんだよ」
「だから、一緒に帰りたかったのよ!バカ!」
「は?」
僕は、頭が混乱した。僕と一緒に帰ることが、ヒカルの『いいこと』になるなんて、意味がわからない。からかわれているのだろうか。
よくわからないながらも、久しぶりに二人で家に帰ることにした。
裸の銀杏の下を、並んで帰る頃には、夕焼けで空が黄金色に輝いていた。ちょっとだけ、何か良いことが起きそうな気分になった。
・・・・・
「ツカサは、仔猫のこと覚えている?」
突然、思いがけないことを聞かれて、僕は急に夢から覚めた気分になった。それに、ヒカルこそ、仔猫のこと覚えていたのか、と驚いてしまった。
「もちろん、覚えているよ。飼おうと思っていたけど、家族に許してもらえなくて、元の公園に返したら、次の日に、、」
「私も、悪いことしちゃったな、ってずっと後悔していた。ツカサもでしょ?そして、13日の金曜日になると、思い出して心が痛くなるんでしょ?」
「そうだよ、ずっとそうだ」
「私はね、あの仔猫の分まで幸せにならなくちゃ、そう思って生きているの」
「僕は、ただ、ごめんねって心の中で謝っているだけだよ。いつまでも、こんな弱い気持ちの男なんて、全然魅力的じゃないだろ。それに、ヒカルやカオルみたいに、特技みたいなもの、持っていないし。何となく勉強ができるから、医者にでもなれたら、少しは世の中の役に立つかな、そんな程度で進学も考えているし。僕は、最低の男だよ」
「そんなことない!!」
何故かヒカルは怒りたっている。
「ツカサはね、ずっと、あの仔猫のことを助けられなかったことを悔やんで、だから、そういう生き物たちを助けられる人になろうと、勉強していたんじゃないの?自分では、気がつかないうちに。私は、ツカサを見ていて、すごいな、っていつも思っていたんだよ。心が優しくて、自分より弱いものに、いつも寄り添って、怖い思いをさせないようにする気遣い持っている人だよ。ツカサは、なんとなく生きてなんかいないよ!最低なんかじゃない。最高、私にとって、最高にカッコいい男子だよ。」
「えっ?」
ヒカルが、僕のことを最高にカッコいい男子だって?それに、いつも見ていただって?どういうことだ?それって、、、
「ツカサは、最低なんかじゃない。決して」
ダメだ。僕がいつも、特に13日の金曜日には、浮かれた気分になってはいけないと、気持ちを封印してきたけれど。
僕は、ずっとヒカルが好きだった。でも、あの仔猫のことがあってから、なんとなく、自分が幸せな気持ちになると、死んだ仔猫に悪い気がして、気持ちを出さないようにしてきた。でも、、
「僕が、医者になろうと思ったきっかけを、ちゃんと思い出させてくれてありがとう。ヒカル、君も僕にとって、明るい道標のような存在だよ。いつもキラキラ輝いていて、君がいない世界なんて想像できないよ。ずっと、そばにいて欲しい。」
「私たち、大学は別々かもしれないけれど、自宅は近いし、会おうと思えば、いつでも会えるでしょ。今から、卒業しても会える時は会おうって、約束しない?ツカサは医者の勉強して、私は絵を学んで。
勉強の合間には、デートして。あ、気が早すぎる?
マックでもいいのよ。とにかく、会って。」
「うん。そうだね。デートしよう。」
「やったー!で、私が怪我したり病気になったら、ツカサの勉強のモデルになってあげるから、ツカサもたまには、私の絵の題材になりそうなものを提供しなさいよ」
「どこか景色の良さそうなところへ、旅行に連れて行くとか?」
「えーっ、旅行!?私は高級な食器と果物を想像していたんだけれど。ふふふ。旅行もステキだわ」
・・・・・
ヒカルのおかげで、13日の金曜日の棘が抜けたようだ。そして、受験への心構えが、定まった。
僕は、獣医を目指すことにした。あの日、助けられなかった命の分まで。そして、住まいのない動物たちの保護活動も、協力していきたいと思う。
そして今日はクリスマス。
デートの予行演習だ。駅前の、大きなクリスマスツリーの前で待合せ。ツリーのてっぺんの金色の星が、なんだかやけにキラキラと輝いているように見える。でも、一番輝いているのは、ヒカルの笑顔だった。
来年の春には、二人でもっと笑顔になりたい。
心から、そう願った。どこかで、猫が小さく鳴く声もしたようだが、とても優しく聞こえた。
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メリークリスマスです🎄