北風とお月さま|#冬ピリカグランプリ
北風は、実はとっても悔しかった。おひさまに負けたことが。
ー そもそも、暑けりゃ誰だってマントを脱ぐじゃないか。
北風は『マントを先に脱がせる競争』の勝利の行方は初めから決まっていたようなもんだ…と、後悔していた。
ー お月さまなら、勝てるかな。
ある満月の夜、北風はお月さまに声をかけた。
「こんばんは、お月さま。僕は北風です。少し僕と遊んでくださいませんか。」
お月さまはにっこりと笑い、
「こんばんは、北風さん。私もこんな寒い夜は誰かとおしゃべりとかしてみたいな、と思っていましたから。」と答えた。
「お月さま、僕と勝負してもらえますか。あそこを歩いている男の人のマントを、どちらが先に脱がせるか… 面白いと思いませんか?」
「いいでしょう。どうぞ、北風さんからお先に。」
お月さまは、にっこり返事をした。
ー 今度こそ、僕の勝ちだ。
北風は早速口を尖らせ、男のマントめがけてヒューッと風を吹いた。それはもう、地の果てまで音が届く程に。
「うわぁ!なんで急に風が強くなってきたんだ。」
男は飛ばされないよう身体を丸め、下を向きながら少しずつ歩いて行った。
「あともう少し…」
北風が、ヒューヒューと風を吹き続けるうち、男は歩くのをやめうずくまってしまった。
「北風さん、このままだと男の人の命が危なくなるわ。今度は私がマントを脱がせる番よ。」
お月さまはそう言うと、男に向かって光をまっすぐ投げかけた。
「おや、風がやんだようだ。今のうちに、早く家へ帰らないと。」
男の目の前には月明かりに照らし出された道が、はっきりと映っていた。
「ありがたい。」
男はマントの襟元を抑えながらも、しっかりとした足取りで家路を急いだ。
「あぁ、家の灯りが見える。」
男は家に無事たどり着いたようだ。
「おかえりなさい、あなた。心配してたのよ。」
「大丈夫だよ。ありがとう。ただいま。」
男はそう言って、着ていたマントを脱いだ。
「あぁ、また僕の負けか…」
北風はがっかりし、もしかしたら自分は、ただ寒いだけの迷惑な存在なのではないかと、悲しくもなってしまった。
「北風さん、ご覧なさい。」
お月さまは、さっきの家族の様子を照らし出す。
「今夜はシチューにしたの。あなたは、シチューが好きでしょう?」
「そうだね。それに、今日みたいに北風が吹いた日は、ひときわ美味しく感じるよ。寒さも悪くないね。」
北風は、そんな言葉を聞いて嬉しくなり、ちょっとだけピュ〜ッと口笛を吹いて
「お月さま、今夜はありがとうございました。またいつか、話し相手になってくださいね。」
そう言うと、どこかへ飛んで行った。ほんの少し暖かい風になって…
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