仲良し|#シロクマ文芸部(約1900字)
「花火と手裏剣とどっちがいい?」
お祭りの出店でクジを引いたら、当たったは良いけれど困った選択に迫られた。
花火はいろんなのがたくさん入ったやつで、手裏剣は三個セットだ。花火は遊んだら無くなってしまうけど、手裏剣は無くならない。でも… 花火だってやりたいし。
こんな時、ケンちゃんだったらきっと悩まずすぐに「手裏剣に決まってるだろ」と答えるんだろうな…なんて考えていたら、お母さんが勝手に「花火にしようね」って花火を選んでしまった。
半分ホッとしたような、でも半分モヤモヤした気分で花火を受け取る。
次は何をしようかな… 出店を眺めながら歩いていると、なんとケンちゃんに会ってしまった。
「あ、太郎くん。君もお祭り?一緒に金魚すくいしよう!」
「いいよ。お母さん、ケンちゃんと金魚すくいしてくるね」
僕は花火の袋をお母さんにパッと渡し、金魚すくいの出店の方に向かった。
「おじさん、金魚すくい!」
「一回200円な」
出店のおじさんに200円払って金魚すくいをした。
「あの黒くて元気そうなやつにするぞ!」
「僕はなんでもいいや。すくえたら」
「じゃあ、太郎くんはそこの白い模様があるのにしな」
「わかった」
狙った金魚が上の方に来るのを待つ。なかなか上に来ない。ケンちゃんは待ちきれなくて、目の前の普通の金魚をすくい…一匹は釣れたけど、二匹目で紙が破れた。
「太郎くん、頑張れ!」
僕はケンちゃんに言われた白い模様の金魚…ではなく、ケンちゃんに代わって黒い金魚を取ろうと思った。でも、結局一匹もすくえなかった。
「はい、これお土産」
おじさんに普通の赤い金魚一匹をもらい出店を出た。
「あ〜、残念。欲しい金魚すくえなかったな」
「でも、金魚お揃いだね」
「花火でもしてスカッとしようよ!」
「花火?」
僕はちょっとだけ忘れていたクジ引きの花火のことを思い出した。ケンちゃんは、あの花火の袋を見たんだろうか…
「太郎くん。僕ね、さっきクジが当たって花火にするか手裏剣にするか聞かれたんだけど、花火にしたんだ」
「えっ?ケンちゃんなら手裏剣にするだろ?」
「最初は手裏剣って思ったんだけど、三個じゃ少ないし、花火なら太郎くんとも遊べると思ってさ!」
「そうなんだ。僕もクジ引きで当たって…花火もらったんだ。お母さんが決めたんだけど」
「花火、たくさんできるね!じゃあ早く帰ろう」
ケンちゃんはお母さんに、帰宅したら花火を庭でやってもいいか聞いている。僕もお母さんにお願いをした。
「お祭りから帰ったら、ケンちゃんと花火をしてもいい?」
「いいわよ。危ないことはしないでね」
「しないよ!」
僕はスイカを持たされて、ケンちゃんの家で花火をした。
ケンちゃんは僕と花火がしたくて、景品を選んだのに、僕はお母さんのせいにしちゃったな… 僕ってダメだな、自分で何も決められなくて。なんだか少し悲しくなった。ケンちゃんに嫌われたらどうしょう。
「太郎くん、元気ないね。疲れちゃった?」
ケンちゃんのお母さんが声をかけてきた。
「ううん。ケンちゃんはすごいな!って思って。自分がダメだなって思って」
「なんでそう思ったの?」
「この花火選んだのは僕のはお母さんだけど、ケンちゃんは僕と遊びたいから選んだって聞いたから…」
「アハハ… 半分は嘘かな。ケンも最初はどうしようか迷っていたの。だから『太郎くんと遊ぶならどっちがいい?』って聞いたら、花火になったのよ。きっと太郎くんのお母さんも、そんな気持ちで選んだのかもね」
「そうなんだ…」
僕はちょっとだけ心が軽くなった気がした。ケンちゃんも悩んでいたなんて。
「ケンちゃん、花火楽しいね。金魚も一緒だし、花火も同じで本当に嬉しいよ」
「うん。僕も金魚が太郎くんと同じで嬉しい!あの時、太郎くんは僕の代わりに黒い金魚をすくおうと頑張ってくれただろ?あれ、とっても嬉しかったよ。友情って良くわからないけど、こういうこというのかなって」
「ぼくも友情ってわからないけど、きっとそれだよ」
僕とケンちゃんは、花火を片っ端から火を着けて遊びまくった。
「これ… 楽しみにしていたんだ!ネズミ花火」
「これって、危ないんじゃない?お母さんに聞いた方が… ウワッ!!」
僕の注意も聞かず、ケンちゃんはネズミ花火を着けた。パンパンパチパチと音をたて、あちこちに飛び跳ねている。最後にパーーン!とすごい音を立てて…やっと静かになった。
「太郎くんも… 太郎くんは、やらないよね」
「うん」
でも、思わず笑ってしまった。
「楽しかったね」
「うん」
スイカの種を飛ばしながら、暑い夏の夜を過ごす。
友情も親友も言葉の意味はよくわからないけれど、この夏の日の思い出はきっとずっと忘れない…と思った。
たらはかにさんの『毎週ショートショートnote』の方で、たまに登場するおひさま幼稚園のネタで書いてみました。(スピンオフ的ななにか)