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初めての朝食当番|#あざとごはん

★登場人物
上山正(かみやまただし・28)SE。独身。大学も就職先も自宅から通い、一人暮らし経験無し。食事は『腹が空いてれば、そこにあるものを食べる』こだわりがないタイプ。

「新潟に転勤…」
上山は初めての転勤に少し動揺はしたが、何事も経験だと割り切って考えた。

人事部へ寄り、社宅があれば利用申請しようと思った。しかし、社宅には空きがなく、代わりに借上げのシェアハウスを勧められた。賃貸住宅の一種だけれど、共有スペースがあるのが特徴で、そんな共有のリビングや台所を利用して、他の部屋の住民と交流が持てるのが人気だそうだ。
「ちょっと考えさせてください。」
「今、空きは一人分しかないから、早く返事してね。」と言って担当者は席を離れた。

「ただいま。俺、今度新潟に転勤になったよ。」

父や弟は「まぁ、頑張れ。」しか言わない。
母だけが心配してくれた。
「正。あんた食事はどうするの?社宅に賄いとか付いていたら良いけれど…」
俺は飯をかっこむ合間に、左遷ではなくむしろ栄転であることや、社宅がないのでシェアハウスを利用しようか考えていることを話した。

「シェアハウスで誰かに料理を教わりなさい。」
それも良いか…と思い、翌日入居申請をした。

辞令を片手に新潟支店に向かう。簡単な挨拶をして、さっそく仕事開始。
「…でしたら、こちらのB案の方がお客様の所には合っているかと思うのですが。」
「上山さ、のめしこいてねーな。ずくあるな。上山さにかけるこて。」
「??」
「ハハハ、上山さんは真面目だから担当を是非って言っているんだよ。」
仕事の滑り出しも好調のようだ。

しばらくビジネスホテルで過ごし、シェアハウス入居は今度の土曜日。職場までの通勤路の確認や日用品・飲食品等の買える店のチェックも済んでいる。

土曜の朝、シェアハウスに向かった。俺が入居して満室となったから、オーナーは「これで収入も安定だ。」とニコニコしていた。

「上山正と言います。宜しくお願いします。」

他の入居者4人も、それぞれ安藤・鈴木・西田・星野と名乗り、西田が最古参のようで、ゴミ出しのこととかシェアハウスのルール説明をした。

「で、日曜の朝食は順番で食事を作るんだ。月曜から土曜は、オーナーさんが作ってくれる。早速だけど、再来週の日曜に上山くんに朝食当番をお願いしたい。大丈夫かな?」

「俺、料理したことないんです。」

「みんな最初はそうさ。まず飯炊きは炊飯器に任せて、おかず一品考えればいいよ。」
「そうそう!僕なんか、納豆用意しただけだったよ。一応、薬味のネギとかは切ったけど。」
「俺も卵かけご飯にしたから、卵用意しただけだったな。」

先輩たちのデビューご飯を聞いて、少しだけホッとしたが、同じメニューはできないな…と思った。

おかず… どうしよう。簡単にできて美味いおかず。刺身は楽だろうけど朝から刺身もなぁ。干物とか鮭とか焼いたら良いのかな。でも、焼いたことないし。ネットで調べるか!

頭の中が仕事以外におかず作りのことも残っているので、何かの時お客様との会話で「朝ごはんのおかずって何が一番美味しいですかね。」なんて話しをしたりした。

「鮭の焼漬けだこて!」「そうだこて。焼漬けはうんめぇこてな。」
俺は鮭の焼漬けを知らなかった。
「やきづけ…ですか?」

仕事の合間に調べてみた。新潟の郷土料理らしい。生の鮭を四角くお餅のように切り分け、白焼きにする。で、焼けた鮭を作っておいたタレに漬けこむ。一晩おいたら出来上がりだ。改めて焼いたりしなくて良いらしい。なんとなく出来そうな気がする。土曜の夜に鮭を切って、ホットプレートで焼いて、漬け込むタレ(日本酒:醤油:味醂が1:1:1)も簡単そうだ。よし!これで決まり。

オーナーに調味料の場所やホットプレートの使い方を教わった。まぁ、ホットプレートくらいなら使える。

魚を焼く時は、クッキングシートを使うと焦げつかなくて良いらしい。温度は170度、蓋をして片面ずつ5分位焼き、中心まで火が通っているならOK。熱いうちにタレに漬け込む。タレを作る時、日本酒と味醂は火を通して酒気を飛ばすのもコツ。そしてタレをファスナー付のビニール袋に入れ、焼いた鮭を投入。そのまま冷蔵庫の片隅に置けば邪魔にならない。

ご飯も久しぶりに炊いた。米を研ぐのは調理実習以来かもしれない。しかも一升!力がいるし、けっこう米粒をこぼしてしまった…  次は失敗しないようにと思いながら、タイマーセット。

そして朝が来た。米はちゃんと炊けているようだ。でメインの鮭の焼漬けはというと…

「すげぇ!焼漬けがある。良く作ったなぁ!」
「まるで定食屋みたいだ。」

見た目は高評価。さて、お味の方は…

「「「「うんめぇ!ばっかいいて〜!」」」」

新潟弁はまだよくわからないが、褒められたようである。


[1996字]

旦那の故郷:新潟をちょっとモデルにして書いてみました。

#2000字のドラマ
#あざとごはん

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