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1週間で編めなかった彼のセーター|#私と編み物【11/24限定企画】

確か結婚する年のバレンタイン頃だったと思う。いや、本当はその2ヶ月前の12月、彼の誕生日に渡そう…そう思って編んでいた。

私は刺繍や洋裁関係は(独学だけれど)説明図があれば作れる… まぁ器用な方だと思っていた。カギ棒編みなら小学生の時にマフラー(模様編み入り)やミトンが作れた。ただ、棒針編みは何故か下手だった。ゲージが安定していず、編んでいるうちに、だんだんキツい目になっていく。

自分でも『私は棒針編みは下手くそだ』の自覚があった。あぁ、それなのに… 

「お誕生日には、手編みのセーターをプレゼントするね!」

将来旦那様になる人に、見栄をはってしまったのだ。同期入社の同僚で、私がどんな人間なのかを一応わかっていた彼だから「無理しなくていいよ。気持ちだけで。」そんな返事をしていた。でも私は(この期に及んで)好感度更にUPさせたかったのか、どうしてもセーターをプレゼントしたくて、「楽しみにしててね。」なんて言っていた。自分では、無事に完成品を渡せる明るい未来を、その時は確信していた。

『1週間で編める彼のセーター』とかいう本を買い、とても太い棒針と、彼に似合いそうなモスグリーンの高級羊毛毛糸も買った。「これで編めないなんて勿体ないから、絶対に編みきってみせる!」

1週間で編めるセーターはメリヤス編みと二目ゴム編みだけでほとんど直線編みの超簡単なものだった。太い毛糸と棒針でザクザクと編んでいけば1週間… 遅くても1ヶ月あれば完成する…はずだった。

まず、ほとんど長方形の後ろ身ごろから編んで、ゲージもそれほど狂わずすぐに完成。前身ごろも襟ぐりに若干苦労したくらいで、完成した。

私は「イケる!」と思った。棒針編み苦手を克服できた…そう思った。しかし、現実はそう甘くはなかった。(なんか『プロジェクトX』のナレーション風)

袖は、ただの長方形ではなく、細長い菱形…そんな感じだ。数段編んで両端編み目を増やす、または減らす作業がある。どうも、この編み目の増減で毛糸を引っ張りすぎるようで、丸まってくるのだ。編んではほどき…を繰り返して、袖の編み生地はなんかヘロヘロだったし、例のキツいゲージになっていた。身ごろに対して、つんつるてんな袖丈。しかも2枚編まねばならない。

気を取り直して、袖をもう1枚頑張って編んだ。で、編んでから気がついた。右袖を2枚編んでいたのだ。ガーーン… しかも、同じものを作ったはずなのに、ゲージが狂っているから、サイズが違う。私は、ゆるく編めた2回目の袖を正式に右袖として採用し、改めて左袖を編むことにした。

ここまでで、12月になってしまった。まぁ、誕生日が過ぎてもクリスマスがあるし… いざとなったらバレンタインの頃には完璧なセーターが生まれているはず!気持ちを奮い起こして作業を続けた。

左袖は編めたが、右袖とサイズが違う。なんかびろーんとしていた。編み直し…だな。そんなことを繰り返して、年を越した。

未来の旦那様は「ところでセーターはどうした?」なんて聞かない。私が不機嫌になったり困るような話題は触れないようにする…そんな気遣いができる人だから。でも、思いっきり『早くしないと冬が終わっちゃうよ』と、伝えていたっけな。

何とか身ごろと袖が編めたので、あとはくっつけて襟ぐりと袖ぐりを編めばおしまいだと思った。バレンタインデーに渡せる…と思った。しかし、問題発生!

いざ身ごろとかはぎ合わせてみると、襟ぐりが小さい!私でも頭が通らないよ?どうする?また編み直しか…  首周り辺りの部分をほどいて、編み直した。
手首周りも同様。でも袖なんて、手首の方から編むから、最初から編み直しになるでしょ?どうしよう…何で今まで気がつかなかったのかと、自分に問いただしたい!時間がないから、袖口はそのままにした。

気がついたらバレンタインデーも過ぎていた。チョコは渡した。「バレンタインにはセーター渡すね」とも言ってなかったし。

何とか完成したけれど、あまりにも不細工なセーター。これ… 自分がもらっても嬉しくない。こんなものプレゼントしたって、役に立たないし迷惑だろうな…と思った。

「あのさ、私、ずっと前にセーターを編んでプレゼントするって言ったでしょ?編めたんだけど、下手すぎて渡せない。ごめんね。」

「見たい!編んだやつ。すごく見たい。持ってきて。」

「ええっ?本当に?」

それで私はバレンタインデーをだいぶ過ぎた頃に、一応リボン付きの袋にセーターを入れて、彼に渡した。

「キレイな色だね。暖かそうだし…頑張ったね。ありがとう。」

「あっ、着るのはちょっと…」

でも、彼は着た。キツキツの襟ぐりから頭を出し、つんつるてんな袖から腕を出して…ニコニコして「着れたよ」と一言。

「もういい。着てくれてありがとう。脱ぐのを手伝うよ!」

あまりのセーターの下手くそっぷりに、私も彼も大笑いしてしまった。

「僕のために編んでみたかったんでしょ?本当に気持ちだけで十分だよ。」

「うん。編んでみたかったの。上手く編めたらペアのセーターとか作りたいとか、いろいろ考えていたけれど、私、編み物向いてないみたい… 不器用でごめん。下手くそで恥ずかしい…」

「編み物できなくても、他のこと頑張ればいいし。いつもいろいろ頑張ってるじゃん。そのままでいいよ。しかし… 本当に下手くそだな。もしかしたら僕の方が上手いかも…」

「もう、棒針編みはやらないわ。赤ちゃんに毛糸で靴下とか編むのに憧れていたけれど、辞めておく。」

「まだ諦めなくても… まぁ、今回のセーターはお蔵入りだけれどな。」

セーターはほどいて… ほどいた毛糸でも可なバザーに出してお別れした。

[約2400字]

私の編み物の黒歴史です。
棒針編みは、それっきりですが、カギ針編みはアクリル束子作りとかで少々復活。最近孫も生まれたので、カギ針編みなら何か作れるかな…なんて思っています。


#私と編み物
#エッセイ



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