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【没投稿作品】風雷|#うたすと2…出しそびれ(10/21〆切)(約1800字)

歌のイメージからの創作… 参加させてください。

って、気がついたらもう〆切(10/21)過ぎていたから没になりました。(書き始めたのが10/21の22時頃)

けれども、ちょっと気に入っていたので自己満足記念に投稿します。
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能戸高校文芸部の部室、図書準備室に積読部と兼部している一年生男子部員:木下がいつものように来ている。

「今日の読書の相手は… 君にするよ」

木下は書架の中から一冊の本を選び出し、床に体育座りして徐ろに読み始めた。彼の周りには積読部によってタワーリング(独特の感性で本を積み上げること)された本の山が、まるで森のように乱立している。本の森の中で静かに読書する世界がそこにあった。

木下の選んだ本は分厚い辞書。文芸部に入部して物語を綴ってはいるものの、どこか言葉に深みがないというか… 語彙力が足りない気がしたので、言葉を調べようと思った。適当に思いついたページを開き、そこに書かれている文字を読むことは楽しい。

とは…思いやり。思いやりとは…自分以外の人のために気遣いをすること、相手の立場になって考え、思いを共有すること、同情する気持ち。同情とは…他人の気持、特に苦悩を、自分のことのように親身になって共に感じること。かわいそうに思うこと。あわれみ。おもいやり。。。  なんか元にもどってしまったな」

開いた本の中から、風に乗ったように文字がこぼれて来るような気がした。堂々巡りのような言葉はつむじ風のように、つながる言葉はそのままどこまでも風になり流れる。 それらの文字は後から後から本の中から外へとあふれ出て、積まれた本の山を崩し窓を突き破ってさらに世界へと広がる。

「知らないことが多すぎる…」

木下はあふれる文字の列が天に昇り、雲となりやがて雨へと変わって地上に降り注ぐように感じはじめた。

雨は水たまりを作り川となって流れ始め、川もいくつか合流し広い海へ化していった。文字の言葉の大海原… 人類が生まれ文字が誕生してから、ずっと続いている数々の言語や文字、物語の創作… 

「滅んでしまった言葉もたくさんあるんだろうな」

この図書準備室の目の前にあるさまざまな本たちも、天変地異的なことがあって世界が滅んだら、誰も読めない謎の書物…もしかしたら書物とすら認識されない物体となり、言葉の海の深淵に沈んでしまうのだろうな… と思うと不思議な気持ちになり、心がヒヤッとする。

改めて本に目を向ける木下。辞書ではあるが、ハッとする言葉にも出会う。

あらがう…従わないで争う。抵抗する。逆らう。言い争う。賭け事で人と張り合う。。。」

なんでこんな言葉に目が止まってしまったのだろうと思いながら、またもや文字が本から躍り出し、彼らが争い合う映像までもが浮かび出してきた。

ひらがな、カタカナ、英文字、ギリシャ文字、よく知らないどこかの国の文字… 様々な国の言葉がぶつかり合いながら天に昇り、そこでも争っているのか雷鳴にも似た音を響かせ、時には稲光まで起こしている。

バベルの塔の物語を思い出した。

初め人々は皆、同じ言語を話していた。彼らは知識を共有し、神々が住む天までも届くような塔を作り始め…神は怒り彼らの言葉を乱し、お互いの言葉が理解できないようにした。人々は塔を作るのをやめ世界の各地へ散らばった。

いったいどのくらいの言葉や文字の種類があるのだろう。神によって生み出された様々な言語により、様々な文字も生まれて…  それぞれの文字により彼らの知識が本となり後世に伝えられる。世界各地へとバラバラになった知識ではあるが、本の中で命を吹き返す。知識はまた新しい知識をキラキラと生み出しながら…

「雲外蒼天… 雲の上は晴れていることから、困難を雲で表し、雲の向こうの青空を明るい未来と表す。困難があっても人生は山あり谷ありで、悪いことが起きても必ず明るい未来があるという希望。。。 ふむふむ」

天上で暗雲の中、雷鳴と共に稲光を発していた言葉たちだったが、次第に収まっていく。

「感奮興起… 言葉や物事に心を動かされ、感銘を受けて奮い立つこと。。。 」

木下は、校歌の一節を思い出した。木下の通う能戸高校の校歌には、四字熟語が多用されている。あまりよく知らない言葉もあった。

戮力協心りくりょくきょうしん… 心を一つにして協力しあうこと、か。。。」

図書準備室は一心不乱に辞書を読み耽る木下ただ一人の世界となった。

彼は今、本の世界の中に…


記事の中に登場した能戸高校の校歌はコチラ ↑↑
です。
作詞は私で作曲は見据茶みすてぃさんです。

とても素敵な校歌(音楽)なので、聴いていただけたら嬉しいです。

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