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第34首 たれをかも知る人にせむ〜|#百人百色(約2000字)

三羽 烏さんの企画に参加いたします。
百人一首の34首目の歌に絡めた物語を書きます。

34.   たれをかも知る人にせむ
   高砂の松も昔の友ならなくに
               
(古今集 雑 909)藤原興風ふじわらのおきかぜ

《意訳》これからは誰を親しい友としよう。長寿の高砂の松に心を寄せても、昔からの友ではないし。



 偲ぶ会にて


出会ってから、気がついたら50年近く経っていた。

自分は途中で転職したが、Aは転勤こそあれ入社した会社にずっと勤めていた。職場が別れてからはほぼ年賀状かメール程度の交流しかなかったが、それでも10年前には「久々に会おうぜ」と飲み会を開催。共に白髪が多くなり腹も出てきた姿を披露し合った。しばらくぶりで会っても、少し長めの出張から帰ってきたかのような… そんな阿吽の呼吸というか、違和感のなさ。お互い所帯を持ち、子どもも生まれて良いパパ?となっているのも… 同士感を覚えていた。

「じゃあ、また近いうちに会おうよ」
「そうだね」

今度会う時は、どこの店を予約しようか。温泉に泊まるのも良いかもしれない。いつ頃再会できるかな…
リタイアした頃がいいかな、とかボチボチと企画を立てていたのに。

ある日、Bからメールが届いた。

「A、亡くなったらしいよ」

「えっ、マジで?なんで?病気?事故?」

「よくわからない。奥さんに問い合わせ中」

Aと自分、そして連絡をくれたBは同期入社の仲間だった。他に同期数名と、Aが面倒を見ていた後輩たちにAの訃報メールを届け、数週間後に『Aさんを偲ぶ会』が行われた。

幹事はB。そして後輩のC。Cも転職せず、Aと同じように地方転勤とかありながらも、再び本社に戻ってきた口だ。

Aを偲ぶ前に、お互いの近況報告をした。まぁ、見えないけど居るであろうAに対して自己紹介って感じだ。Bも転職していたから、C以外の報告は誰にとっても年賀状以上の初耳話だった。それぞれが、それぞれの人生を歩んでいたんだな…と、面白く聴かせてもらったが、割り切れない思いも募るばかりだった。

『Bには亡くなるような経過というか近況を伝えていたようなのに、なんで俺には言わなかったんだよ。水臭いじゃないか。俺たちは仲間だったんじゃないか?病気だったのなら、お前を治せる名医を探してやりたかったよ。寂しいよ…』

全員が近況を語った後に、ようやく幹事のBが「奥さんから預かった手紙を読ませていただきます」と口を開いた。まだ、Aの亡くなった経過は知らされていなかったのだ。B以外は…

「そんなことが…!」

手紙の朗読が終わり、誰もが絶句した。
【失踪宣告】だった。

7年前のある日。その頃Aは単身赴任で地方にいた。で、自転車で散歩に出かけたまま… 遠くの公園に乗り捨てられた自転車だけ残され行方不明になったそうだ。もちろん捜索も何度もされたし、借金や人間関係とか諸々の調査も行われたが、全く問題は無かった。何か事件か事故に巻き込まれた…しか考えられないが、そのまま7年経ったという。法的に『死亡』とみなされた…というわけだ。

確かに「義父が亡くなりました」と喪中欠礼だったり「年賀状もメールで良くないか?」みたいな話もしたことがある。コロナ禍の時は年賀状を書いて新年を寿ぐ気持ちも自分はなかったから、Aから便りが届いていないことに違和感は無かった。メールもいつからか届かなくはなっていたけれど、機種変の通知を忘れているからだろう…と軽く思っていた。いつでもAは『居る』と信じていたから。

体調を崩して亡くなったことしか考えていなかった自分は、まるで小説のような失踪というものが現実に起こるのだということ、そして身近な友の身に起きたことにショックが隠せなかった。

『A… 俺たちも、Aのご家族も皆心配しているよ。どうしたんだ?何があったんだ。でも、このような状況になったことを一番悔やんでいるのがAなんだろうね。もしかしたら全ての記憶を失って、どこか知らない地にいるのかもしれないけれど』

Aが多分最後にいたと思われる地方の公園… いつか自分も立ち寄ってみたい。今更Aの手がかりになるようなものなど残ってはいないとわかってはいるけれど。公園の木々たち、松とかの声が聞こえたら良いのに… もし聞こえたら、あの日あの時何があったのか教えて欲しい!そんな思いが募るばかりだ。

Aは真面目で誠実な奴だった。まだ若手だった頃、Bも交えて社内弁当を一緒に食べながら仕事の話しを良くした。自分やBは愚痴みたいなのが多かったけれど、Aは人の悪口とか絶対に言わない。「すぐ口答えしてくる女がいてさ…」と、いつか相談ともつかない話をしたら「もしかしたらお前のこと意識しているんじゃない?」と、気づかせてくれたのもAだった。その女と結婚したのはAのせい、いやお陰かもしれない。自分の人生の大切な部分に、いつもそっと『居る』Aだった。

Aのような友は、もう二度とあらわれないのだろうな。

[約2000字]

物語は脚色してあるけれど…
最近、そんなようなことがありました。
正直ショックです。(私はCの同期・友人位置)

#百人百色

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