【短編】年賀状|#ストーリーの種
引っ越していないが、住所が変わった。
住んでいる所の市町村合併で、市名も町名も番地も何もかも変わった。おまけに県境だったので、なぜか隣の県になってしまい、本当に引っ越したようになってしまった。まぁ、元の県よりも今度の県の方が、県庁所在地が近くなり便利にはなったけれど。
年賀状に、引っ越してはいないけれど住所表記が変わったことを書いた。少なくとも1年間は、古い住所表記でも転送してくれるだろう。メールでも住所表記変更のことを知らせた。
住所表記変更して2年目の年賀状が、さっぱりと来なくなった。そして「お前、いつ引っ越したの?」と、今更のようなメールや電話が年明けから届くようになった。
また改めて、自治体のご都合で引っ越してはいないけれど住所表記がまるっきり変わったことを伝えた。「そんなことってあるんだ!」相手は笑っているけれど、僕としては少しムッとした。
なんだか自分の存在が、そんな程度だったのか…と思えてきたし、なんとなく毎年続いている年賀状交換も、年賀状出しあうほど仲が良かったっけ?と思えてきた。
「元気ならいいよ。引っ越していないのなら、今度会いに行くよ!しばらく会ってなかったしな。駅前の…ほら、やってるのかやってないのかわからない変な飲み屋があったじゃないか。ボロい赤提灯のかかっている…あの店ってまだある?あるなら、そこでお前と飲みたいな。」
「あぁ、あの店まだやっているみたいだよ。地元の隠れ家みたいなところだからな。多分あの店も、引っ越したようになっているはず… 俺も、あの店は久しぶりかもしれない。一緒に行こうぜ!いつ会おうか…」
年賀状、細くて切れそうな縁を繋ぐもの… かもしれない。住所表記変更したことに気づかず、切れてしまった縁もあるかもしれない。
今年の年賀状にも住所表記変更のことはしっかり書いた。気がついてくれたら、嬉しいな。
気がついてくれた友達がたくさんいることに感謝したいと思えてきた。
[約1100字]
Sheafさんの『ストーリーの種 37』から、書出しをお借りしました。
「そろそろ年賀状を書かなくては!」と思いながら綴りました。
あ、郵政省(古っ)のまわし者ではないです。