シール|#シロクマ文芸部
紅葉鳥乃… なんだろう、全く読めない。多分、秋の紅葉が綺麗な頃が誕生日で… うん、やっぱりそうだな。10月26日が誕生日だ。そして、鳥は… 鳥が大空を自由に羽ばたくように人生を生きて欲しいとか、そういう意味なのかな。で、乃は女の子の名前っぽく… 「もみじ・とり・の」と書いて、「しかの」と読むのか。よし、覚えたぞ。
入学式の前の準備で、各学級担任は自分のクラスの子どもたちの名前を覚える。だいたい一クラス30人前後だ。そして入学式で顔を見て…顔と名前を一致させる。
小学校の一年生だから、自分の名前は読めたり書けたりする子もいるだろうけれど、お友だちの名前まではまだちゃんと読めないだろう。クラス全員の下駄箱、机、椅子、ロッカー等にひらがなで名前を書き、そこが各自の場所であることを知らせる。「紅葉鳥乃」ちゃんも、「しかの」とひらがなで表した。
なんとなく今年の新入生には雅な感じがする名前が多いようだ。「七五三太」で「しめた」とか、「秋桜子」で「さくらこ」とかあるから、「向日葵」が「ひまわり」と読むのは普通に感じる。隣のクラスの「珈琲人」くんなんて明らかに親の嗜好品からかもしれないけど「かいと」くん… ちょっとカッコいいとも思う。「凍星」くんも「りゅうせい」と読ませるらしいが、風流な印象だ。
どの子にも、そのご家庭の夢や希望のこもった名前がついている。だから、絶対に間違えないようにしよう。顔も忘れないようにしよう。
入学式が終わり、初めての教室。名前を呼んで「あなたの席はここですよ」と誘導する。机の右肩上に貼ってある名前シールと出席番号の数字をながめて、自分の席であることを確認する。
「先生!ここに私のシールを貼ってもいいですか?」
元気な質問が突然教室に響き渡った。誰かと思ったら紅葉鳥乃ちゃんだった。
「私、自分の印のシールを持っていて、それを自分のものに貼っているの。ホラ、これ!」
なんと、可愛い鹿の絵のイラストシールだった。保育園や幼稚園で良く使われる、マークシールと同じ趣旨だろう。うーん… どうしようかな。
「しかのさんのそのシールは、自分の鉛筆やノート、消しゴムとかに使ってもいいですよ。自分の家に持って帰る持ち物なら…ね。机や椅子は、持って帰りますか?」
「持って帰らない…」
「では、机には貼りません。いいかな?」
「わかりました!」
「まだ、字が読めない人もいると思います。でもみんなで一緒にお勉強して、わからない人には教えてあげて。そして自分の名前もみんなの名前も覚えて…あ、先生の名前も忘れないで欲しいな。そして仲良くなりましょう」
「「「はーーい!!」」」
ふとみると、紅葉鳥乃ちゃんは、ピカピカのランドセルのあちこちに、鹿のシールを貼っていた。
明日からの授業が楽しみである。
[約1200字]
美しい字面だなぁ… もみじどり? 赤い鳥のことかしら…なんて思ったら、まさかの鹿!紅葉の季節に鳴く鹿の声が鳥のように聞こえるからって… 古の人は謎かけみたいなのがお好きなようですが、さっぱりわかりませんでした。「はぁ〜ん」と昔の人は通じたのでしょうかね。
いろんなことを想像した「紅葉鳥」から、またもや学校ネタ(能戸高校ではない)でお話を作ってみました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?