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【SS】隣|#ストーリーの種

何度引っ越しても隣がラーメン屋になる。

生まれた時から、家の中は隣のラーメン屋のスープの匂いに包まれていた。まぁまぁ美味しいラーメン屋だったので救われていたが、父の転勤で引っ越した先は酷かった。

次の住まいは社宅で、すぐ隣がまたラーメン屋だった。独身の男性が多く住む社宅なので、繁盛はしていたが、安くて大盛り以外には褒めるところがない。家族全員、その店のスープの臭いに耐えられなくなり引っ越すことにした。

通勤に便利な駅のそばの商店街のアパートに越した。気が付かなかったが、またしても隣がラーメン屋だった。今度はスープに独特のこだわりがある店のようで、今までの豚骨系のガツンとした匂いとは異なり、和風の出汁みたいな香りがする。昆布と鰹節、それに鶏ガラを使っていたのだろう。

美味しいスープの匂いが漂うアパートも、改築工事をするというので、引っ越すことになった。

今度は、中古の建売住宅に住んだ。閑静な住宅街の一軒家だ。さすがに隣はラーメン屋… ではなかったが、まさかのラーメン屋だった。お家カフェならぬお家ラーメン屋。元ラーメン屋の店主が、1日限定3組までとかいう、超こだわりのラーメン屋だった。日によってラーメンの味が異なり、とても美味しそうな匂いの日もあれば「なんだ?これは!?」と思う日もある。毎日一喜一憂だ。

そして、今。

俺も所帯を持つことになり、いよいよ新居に引っ越すことになった。隣近所にラーメン屋があるかどうかは事前に調べた。いい加減、ラーメン屋のご近所さんからは卒業したい。そうやって決めた新居だったはずなのだが…

家の前、通りをはさんで向かい側に『近日開店』の看板が!やはり、案の定ラーメン屋だ。

隣ではないけれど… 近所っちゅうか、そば!

書き出しに、 Sheafさんの『ストーリーの種 01』からお題をいただきました。

#ストーリーの種


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