ハンスとマリーと…|#シロクマ文芸部(約1000字)
「星が降るように輝くこんな夜は、思い出すんだ…」
「私の鏡を拾ってくれた日のことね」
ハンスはカーテンを少し開け、夜空を見上げた。今夜はとても星がきれいだ。大好きな北斗七星の柄杓から、星がこぼれてくる…そんな気もした。
「あぁ、マリー。そうだよ。僕たちが出会うきっかけになった、あの日のことさ」
「おばあさまからもらった大切な鏡をどこかに落としてしまって、悲しみの底にいた私を、あなたは救ってくれたのよ」
「本当に不思議な夜だったな」
ハンスは隣に寄り添うマリーの肩を抱き、そっと髪の毛にキスをした。マリーは、そんなハンスにやわらかな微笑みを返し、二人で夜空を見上げるのだった。
◇
「ねぇ、本当に狼と話をしたの?」
「本当だよ。『僕を食べに来たの?』と聞いたら『今は腹がいっぱいだから食わん。お前は何してるんだ』と答えたんだ」
「お腹空いていなくて良かったわ。でも、お腹が空いていたとしても、優しそうな狼だからあなたのこと食べなかったかもしれないわね」
「そうだね。僕が星を眺めるのを不思議そうに見て、何故か一緒に並んで見ていたんだ」
「その頃私は、枕を涙でぬらしながら眠っていたんだわ」
「でも、君が鏡を落としたから、こうして出会えたんだし…」
「不思議だわ」
ハンスはまたマリーにそっと、今度はおでこにキスをした。
「星が流れるのを見て、狼が追いかけて行って『星を拾ってきたぞ』と言って…」
「私が無くしたと思った鏡を持ってきたのよね」
今度はマリーがハンスの頬に軽くキスをした。
「鏡に、名前が書いてあって良かったよ。落とし物を届けに行ったら君に出会ったんだ。花屋さんの可愛い女の子が君で… 一目惚れっていう言葉の意味が初めてわかったよ」
「私も… 自分だけの騎士ってこの人かも、って感じたのは初めてだったわ」
「ありがとう、マリー」
「私もよ、ハンス。そして狼…にも」
「そうだね。狼に出会わなかったら、君とも出会えなかったかもしれない」
「狼にも、すてきな彼女ができたかしら」
「幸せになっているといいね」
◇
二人のそばのベッドから、小さなくしゃみの声がした。
「あ、カーテン開けていたから寒かったかしら」
「僕たちも早く眠ろう。ルイスと一緒に」
二人はカーテンを閉め、幼い息子ルイスの眠るベッドにそっともぐり込んだ。
「良い夢を…」
夜空には、こぼれるほどたくさんの星が輝いている。
なんとなく、以前書いた作品の続きが浮かびました。 ↓