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【SS】涙鉛筆②|#毎週ショートショートnote

「もうすぐ七夕だな、井上。」

植物学者の木下は、助手の井上と七夕飾りをどうしようか相談している。研究所では季節に触れて地域住民と交流を持つようにしているのだ。

「今年も門の所に、イネ科タケ亜科の孟宗竹でも飾りましょうかね、博士。」
「そうだな。そして、短冊を地域の方々に書いてもらおう。」
「では、折紙とか買ってきますね。」

買い物の準備をする井上に、博士は質問した。

「短冊の由来を知っているかい?井上」
「いいえ。」
「織姫のように機を織る技術が向上する様に、と願を掛けたのが始まりだ。元は習い事や勉強等の向上を短冊に書いていたのだよ。」

語り出すと話が長くなるのは博士の常、井上は黙って聞いていた。

「願い事もな、里芋の葉にたまった朝露を集めたもので墨をすり、その墨で書くのが正しいのさ。」

「では、墨や筆も用意しましょうか?博士。」

「鉛筆で十分だろう。汗や涙にまみれて鉛筆で書けば、願いも本物だろうて。」


[409字]

七夕の短冊は、昔はお稽古事の上達を願って書いていたようですが、いつの頃からか願い事の幅が広がったようです。
芋の葉にたまる朝露は、天の川の水の滴と思われていたようで、芋の中でも里芋はたくさん実を付けるので子孫繁栄の願いもこもっているみたいです。
涙鉛筆はどこへやら… になってしまいました😅

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