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市民厚生委員会 視察報告 1,子ども家庭総合支援 (尼崎市) 2,こども・若者ケアラー支援(神戸市)

<日程>
令和5年11月1日~2日

<視察先>
兵庫県尼崎市・神戸市

<調査事項> 
1,尼崎市
子どもの育ち支援センター「いくしあ」を拠点とした子ども家庭総合支援についてl
2,神戸市
こども・若者ケアラー支援について

※この報告書は、視察当日に尼崎市・神戸市からいただいたパンフレットやレジュメ等の資料を引用するとともに、担当者からのご説明をもとに、また福生市議会における私の一般質問、日野市エール視察報告、府中市、調布市のアンケート等を引用し作成しています。

調査事項
目次

1,尼崎市
子どもの育ち支援センター「いくしあ」を拠点とした子ども家庭総合支援について

(1)設置の背景
(2)コンセプトおよび実施事業
(3)いくしあの組織体制
(4)いくしあ推進課の業務  
  ①総合相談担当  
  ②発達相談支援担当
(5)こども相談支援課の業務
(6)こども教育支援課の業務

2,神戸市
こども・若者ケアラー支援について

(1)子ども・若者ケアラーとは
(2)取組みの背景
(3)取組みの経緯
(4)神戸市における相談・支援体制及び実績・評価
(5)子どもケアラー世帯への訪問支援事業
(6)配食支援事業

3,所感

(1)子ども家庭総合支援拠点の必要性
(2)ヤングケアラーの実態把握の必要性
(3)ヤングケアラーの問題点
(4)ヤングケアラー支援を行うための法整備の必要性
(5)相談情報の電子システム化による一元的管理の必要性

Ⅰ 調査事項

1,尼崎市:子どもの育ち支援センター「いくしあ」を拠点とした
      子ども家庭総合支援について

子どもの育ち支援センター
いくしあ正面入り口

1)設置の背景

 尼崎市の児童虐待件数は令和4年度3604件で県のなかでも多く、不登校児童生徒の出現率全国の平均に比べも多いくこの傾向はかなり前から続いている。子どもの子育てや家庭を取り巻く状況が複雑化・深刻化している。
子どもの育ち支援センター「いくしあ」は、児童虐待の相談件数の増加への対応策として、平成27年に譲り受けた旧聖トマス大学の跡地に設置された。子どもの成長段階に応じた切れ目のない総合的な支援を行う施設として福祉・保健・教育分野に精通した専門職員を配置するとともに、行政以外の関係機関等も含めて、関係者が協力・連携し、子どもが主体となる支援を行う仕組みを構築するに至っている。医師をはじめとした専門家が心理検査や診察などを行って診たてを行い、子どもとの関わり方や方向性を一緒に考え、様々な関係機関、民間団体と協力・連携してチームとして支援を行っている。

2)コンセプトおよび実施事業

 「いくしあ」では、①子どもファースト(0歳からおおむね18歳の子どもが主体となる支援)、②縦の連携(子供の年齢に応じた切れ目なく継続的な支援)、③横の連携(福祉、保健、教育など連携した支援)の3つを基本コンセプトに、主に、1,家庭児童相談支援事業、2,教育相談・不登校のこども支援、3,発達相談支援の3事業が行われている。それぞれの事業は以下のような支援事業が行われています。

「いくしあ」 における実施事業
1,家庭児童相談支援事業
  ①児童虐待防止プログラム事業
  ②子育て家庭ショートステイ事業
  ③要保護・要支援児童等見守り強化事業
  ④要保護・要支援児童等心理的ケア事業
  ⑤ヤングケアラー世帯訪問支援事業
2,教育相談・不登校のこども支援
  ①教育相談
  ②スクールソーシャルワーカー(SSW)の活動
  ③匿名報告アプリ④不登校対策推進事業
  ⑤教育支援室「ほっとすてっぷ」
  ⑥ハートフレンド
3,発達相談支援
  ①子ども支援教室
  ②ペアレントトレーニング
  ③子育てセミナー
  ④グループOT(作業療法)
  ⑤施設支援事業
  ⑥ティーチャーズトレーニング

3)いくしあの組織体制

 組織体制は、所長以下、①いくしあ推進課(いくしあ推進担当・総合相談担当・発達相談担当)、②児童相談所設置準備担当(令和8年設置予定)、③こども相談支援課(家庭児童相談、ユース相談)、④こども教育支援課(教育委員会事務局)が設置されている。4課設置されており、そのうち市長部局3課と教育委員会が配置されていることが大きな特徴である。

いくしあの相談体制

4)いくしあ推進課の業務

ア 総合相談担当
 最初の相談窓口である「総合相談窓口」には、専門の相談員が身近な子育て相談から専門的な相談まで幅広く相談に対応する。主訴だけではなく子どもの背景もしっかり見ながら支援している。より専門的かつ継続的な支援を要する場合は、いくしあ内、または外部の関係機関を連携支援していく。
 また、いくしあの入り口には「サロン」が設置されており、相談員が親子の遊び、何気ない会話を通じながらサポートを行っている(利用者は年間で約1700人)。
 総合相談窓口の実績としては、令和4年度では約6,000人の相談があった。内容的には育成相談(性格若しくは行動上の問題、不登校、通学等養育上の問題に関する相談)が80%を占めている。 
 そして、「いくしあ」に入った相談に関して、どこの部署がどのような支援をしているか分かりやすくするために、相談情報を一元管理できるシステムを使用している。

サロンの様子

イ 発達相談支援担当
 発達相談支援担当の事業としては、①子どもと保護者向けの事業と②支援者向けの事業とがある。
①子供と保護者向けの事業では、心理士や作業療法士、言語聴覚士がおり、専門相談や診察が行われている。子どもの行動観察の方法や問題行動への効果的な対処方法学ぶための「ペアレントトレーニング」や小学生の保護者を対象とした「子育てセミナー」が行われている。
 ②支援者向けの事業では、子育て関連施設に対して、「施設支援事業」および「ティーチャーズトレーニング」が行われている。「施設支援事業」は各施設等の職員が子どもの対応に困難さを感じている場合に、親の同意なしに(条例に基づいている)専門職が施設を訪問しかかわり方の助言を行う。「ティーチャーズトレーニング」は子供の対応に困難参を感じている小中学校の教諭や保育施設の職員を対象に、子どもの行動観察や理解、対応の仕方について応用行動分析学による具体的な対処方法を提供し、改善の一助となる講座を開設している。
 また児童相談所の設置に向けた取り組みとして、個別支援だけではなく、普段から顔が見える取り組みとして、いくしあ及び青少年課と民間事業者とが一緒に研修を組み立て、年に5回、「おなかま」プロジェクトと題して本当の意味での相互理解、ネットワークの構築を心がけている。

感覚統合室


(5)こども相談支援課の業務

 こども相談支援課の業務は、いくしあ、北部保健福祉センター内サテライト、南部保健福祉センター内サテライトの3拠点で運営している。いくしあは、主に事務局を担当し、北部・南部の保健センターは、現場対応を行っている。
 また、児童虐防止法に基づき、要保護児童対策地域協議会を設置し、虐待を受けた子ども、非行、不登校などの要保護児童や保護者の支援が必要な要支援児童、特定妊産婦の早期発見・早期対応を行っている。ここでの相談件数は令和4年度3,738件でそのうちの約7割に当たる3,604件が児童虐待となっている。虐待として認知できるものだけではなく、虐待であるかどうかわからないケースも含めて、もれなくケースワーカーが対応しており、相談件数は多くなる傾向である。
 さらには、保護者が病気や出産で一時的に子どもの養育ができないときに、児童養護施設等で子どもをあずかり、育児負担の軽減図る「子育て家庭ショートステイ事業」、虐待の未然防止や重篤化を防ぐため、虐待に至ってしまった子育てに悩む保護者を対象に、心理職を1名配置し、セルフケアと問題解決力の回復を目指す「児童虐待再発防止プログラム事業」が行われている。

 その他、「要保護・要支援児童等見守り強化事業」「心理ケア事業」「ヤングケアラー等世帯訪問支援事業」「ユース相談支援事業」を行っている。
「要保護・要支援児童等見守り強化事業」では、要保護児童対策地域協議会が中核となって行う事業で、世帯の状況把握や、食糧支援、子どもの居場所の提供等を行っている。食糧支援は1食5000円程度のレトルト食品等の保存可能なものを週に2回提供している。
 「心理ケア事業」は、特に問題行動の強い子どもやその保護者に対し、児童専門の心理士が心理教育・心理治療のための心理療法のプログラムをオーダーメイドで作成・実施している。
 令和4年8月に開始した「ヤングケアラー等世帯訪問支援事業」ではおおむね支援が必要な18歳未満の子どもを含む世帯に、ヘルパー等の訪問支援者を派遣し、世帯の家事・育児支援を提供することで子ども・若者及びその世帯の負担の軽減を図りその自立を支援している。

 ヤングケアラー等は、本人からの相談はほとんどなく、学校からの通報に基づいて、ケースワーカーがアウトリーチをかけ支援につなげている。
 「ユース相談支援事業」は主に中学校3年生から29歳までを対象と事業でいわゆる引きこもりへの支援を行っている。継続的な支援が必要と判断された場合は委託事業者の専門相談員が自宅等に訪問し相談対応を行う。また家族交流会も行っている。

6)こども教育支援課の業務

 教育相談・不登校の子ども支援を行うこども教育支援課の事業は①不登校対策事業、②教育支援室営業事業、③心の教育相談事業の3つを柱に展開している。
 ①不登校対策支援事業の「ハートフルフレンド派遣事業」は、家から外出が困難な児童生徒に対して、大学生や社会人をボランティアとしてその家庭に派遣し会話、ゲームや、創作、スポーツ、公園散歩などの寄り添った活動を中心に行っている。②教育支援室運営事業の「サテライト教室事業」は市内8カ所で週に2回2時間程度の学習を中心とした支援を行う事業で、子ども自立支援員が家庭からより近い場所で学習支援を行っている。
 ③心の教育相談事業で行われている「匿名報告アプリ活用事業」は、匿名報告用アプリ「STAND BY」の導入の意義を学び、いじめを周囲で見ている観衆、傍観者が、仲裁者、報告者になるよう意識変革を促し、SNSを介しての報告・相談に結び付けている。令和3年度の中・高校生の相談件数は合計で5475件の実績となっている。

いくしあ パンフレット


2,神戸市:こども・若者ケアラー支援について

神戸市役所での視察の様子

1)子ども・若者ケアラーとは

ヤングケアラーとは法律上の定義はないが、「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」(こども家庭庁HP)とされている。一般社団法人日本ケアラー連盟のヤングケアラープロジェクトでは、18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」と位置づけている。神戸市では、その支援を進めていくにあたり、18歳未満の子どもだけではなく、20歳も含め施策の対象とし、市民に伝わりやすい名称として「子ども・若者ケアラー」としている。

ヤングケアラーが行っている例

2)取組みの背景

 令和元年10月、20代の若者ケアラー(孫)が同居していた認知症の祖母(90歳)を殺害する事件が発生し、孤立する「ヤングケアラー」の問題が浮き彫りになった。肉体的・精神的に追い込まれる中、認知症で介護を拒否する曾比や若者ケアラーに対する関係者による支援が十分に行えていなかったのではないかとの反省に基づき本格的に事業開始となった。

3)取組みの経緯

 令和2年11月に福祉局、健康局、こども家庭局、教育委員会事務局からなるプロジェクトチームを発足し検討を開始。関係者のヒアリングを行い、「相談・支援窓口の設置」「身近な方々への理解の促進」「交流と情報交換の場の設置」など令和3年度から行う3つの取組みを決定。10代だけではなく20代の若者への支援も行うということで福祉局が中心となって進める。
 令和3年6月に開設した「相談・支援窓口」の設置は全国初であり、教育現場との連携、庁内のネットワークの構築など支援の調整を担う。「身近な方々への理解の促進」では、学校、福祉、児童の関係者に対し、研修や事例検討を通じて、こども・若者ケアラーへの理解促進を図る。「交流と情報交換の場の設置」は、主に高校生以上に対しては、当事者同士が交流・情報交換できる場づくりを行う。小・中学生には、子どもらしく過ごせる場として、子ども食堂や学習支援等を紹介する「ふぅのひろば」を設置した。

ふうのひろば広報チラシ


4)神戸市における相談・支援体制及び実績・評価

 18歳未満の場合は各区役所・支所の子ども家庭支援室が対応。養育環境の課題の有無、子育てに関する支援の必要性を含め状況確認を行う。18歳以上の場合は、子ども・若者ケアラー相談・支援窓口が対応する。専門的な視点からの助言を含め、支援方法を関係機関や関係者と一緒に検討する。必要に応じてアウトリーチ・介入支援を検討・実施する。
 窓口における相談状況は、令和5年9月30日現在で、電話、来所、メールなど合計で363件、相談対象は、こども136、若者35、その他192、合計で363人、相談者は本人・家族が30、関係機関136、関係者5の合計171人となっている。年齢層別に相談件数を整理すると、子どもケアラー(小・中・高)136件、若者ケアラー(学生・社会人)35件、合計で171件となっている。

 これまでの事業に対する評価としては、①学校や福祉などの関係者に、少しずつではあるが、ヤングケアラー支援の視点が広がったことで、相談・支援窓口へつながるケースが出てきている。②教育現場と福祉現場の関係者が、個別支援会議などを通じて、情報共有や支援計画を策定し、家族全体を見る視点をもって、家族支援を行うことで、ヤングケアラーのケア負担が軽減されるケースが出てきている。③庁内関係課による連絡会を定期的に開催することを通じて、全市的な情報共有が図れるとともに、事例検討を通じて、支援の共通理解と支援ノウハウの蓄積が図られえる。

5)子どもケアラー世帯への訪問支援事業

 令和4年8月1日より、18歳未満の、市が支援を必要と認めた、こどもケアラーがいる世帯へ、1回について2時間ヘルパーを無料で派遣し、家事や育児の支援を行っている。

6)配食支援事業

 おおむね30代前半までのケアラーがいる世帯を対象に週に1回家族の人数分を無料で配食。冷凍食を手渡し(クール便)で行う。9月末の実績としては46世帯に配食しており、介入のきっかけづくりにつなげている。本事業は兵庫県とのモデル事業であり終了後は子ども食堂へつなげる方向。

兵庫県 ヤングケアラー配食支援事業チラシ


3,所感


1)子ども家庭総合支援拠点の必要性

 児童虐待の相談対応件数の増加など、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化してきている状況等を踏まえ、令和4年6月に児童福祉法等の一部改正が行われた。このなかで、児童福祉法と母子保健法を改正し、子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化及び事業の拡充のため、子ども家庭支援拠点、「子ども家庭支援センター」と「子育て世代包括支援センター」を一体化した相談機関として「こども家庭センター」の設置を謳っている。
 国は、「子育て世代包括支援センター」と「子ども家庭支援センター」2つの機関で情報等が共有されず、支援が届かない事例が指摘されていたとし、両施設の設立の意義や機能は維持した上で組織を見直し、全ての妊産婦や子育て世帯、子どもに関して一体的に相談支援を行う機能を有する「こども家庭センター」の設置に努めることとした。

 尼崎市の児童虐待件数は、令和4年度3604件で県内でも最も多く、全国平均を上回っている。この傾向は長年続いており、児童虐待の相談件数も増加している。子どもの育ち支援センター「いくしあ」は、この問題に取り組むために設置された。施設内には福祉・保健・教育分野に精通した専門職員が配置され、子どもの成長段階に合わせた総合的な支援を行ってる。医師をはじめとした専門家をはじめ、行政や関係機関との協力体制も整備されており、協力・連携してチームとして支援を行っている。

 福生市においては、以前より妊娠中から支援を要する妊婦や家庭等の支援にあたっては、健康課の「子育て世代包括支援センター」と子ども家庭支援課の「子ども家庭支援センター」の両課で毎月定期的に会議を開催し、支援の内容や役割分担などを検討し包括的に対応している。
 また教育部の教育相談については、3チーム18名の体制で運営がなされている。コロナ禍で、面談や電話相談、巡回相談等の件数が一時的に減少したものの、令和4年度は、平成30年度の相談件数と比較して約30%増加するなど、教育相談室の需要が一層高まっている状況にある。年々多様化する子どもたちの相談ニーズと、それに伴う相談件数が増加している。現在の教育相談室は、学校適応支援室と同じフロアにあり、相談スペースが限られているため、環境整備が望まれる。また、不登校生徒の増加や、共働き世帯の増加等に対応するため、オンライン相談等、新たな相談方法の在り方の検討が求められていることから、教育相談体制の見直しを図る時期に来ている。

 尼崎市の視察を通じて、子ども一人をトータルにとらえて、支援していく体制を構築する必要性をこれまで以上に感じた。将来的には、「こども家庭センター」、児童発達支援センター、教育相談室など、健康と福祉及び教育の総合相談拠点の設置が必要である。子どもに係る相談支援について、公共施設等総合管理計画のなかでも検討していく必要があると考える。

2)ヤングケアラーの実態把握の必要性

 ヤングケアラー・若者ヤングケアラーの背景・要因には、核家族化、一人世帯の増加、要介護者の増加、共働きの増加、地域コミュニティーの衰退、そしてその衰退に起因する核家族世帯の孤立・孤独化などの社会的要因がある。令和2年度に国が全国の中学2年生や高校2年生を対象にヤングケアラーに関して調査している。これによると世話をしている家族がいると回答した中学2年生で約17人に1人(5.7%)、高校2年生で約24人に1人(4.1%)という結果が出ている。国は調査を通じて、ヤングケアラーであることを自身で認識するのは難しいということも指摘している。またヤングケアラーという言葉を聞いたことがない中高生は8割を超えている状況であり、先ずは子どもに対するヤングケアラーについての認識を広めることが大切である。また約半数が、自分がケアをしていることを誰にも話しておらず、家族以外が把握することは容易ではない。しかしながら、支援を必要としている子どもとその家族は確実にどの自治体にも存在する。ヤングケアラーへの具体的な支援が求められている。そのためにも実態把握のためのアンケート調査の実施は必要である。

 福生市の近隣では、府中市や調布市が調査を行っている。府中市は、市立小学校5〜6年生に児童及び市立中学校全生徒と、市内在住の高校世代(15歳以上~18歳未満)までを対象に、学校や家庭のなかでの生活の中で抱える悩みや困りごとなどについてアンケートを実施(令和5年7月18日〜9月1日に調査実施)。なお、令和5年4月、府中市はヤングケアラー支援の強化を打ち出して、ヤングケアラーの支援や啓発活動を行っている日本財団と協定を結んだ。全国では3番目、都内では初となる。
 調布市は、市立小学校5・6年生、市立中学校全学年、市内在住の高校世代、市内在住の大学1〜3年生世代(調査実施期間:小学生·中学生:令和5年1月25日〜2月6日、高校・大学生:令和5年2月13日~2月28)に実施。世話をしている家族がいると回答したものは小学生が11%(国は6.5%)とも最も多く、中学生は6.6%(5.7%)、高校生は3.3%(4.1%)、大学生世代4.1%(10.2%)との結果が出ている。

3)ヤングケアラーの問題点

 ヤングケアラーとは法律上の定義はないが、「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」(こども家庭庁HP)とされている。一般社団法人日本ケアラー連盟のヤングケアラープロジェクトでは、18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」と位置づけている。神戸市では、その支援を進めていくにあたり、18歳未満の子どもだけではなく、20歳も含め施策の対象とし、市民に伝わりやすい名称として「子ども・若者ケアラー」としている。

 周囲から「お母さんのお手伝いして偉いね」と言われると「辛い」と言いにくく、本人も家族から「手伝ってくれてありがとう」と言われると、学校に行けないことがあっても、ケアラーだと気付かないことが多い。核家族化が進み祖父母もおらず、親が共働きのために年長の子どもが兄弟の面倒見るパターンも多く、さらには親が病気でその親の看病というよりは、そのしわ寄せで兄弟の面倒を見るというバターンもある。また、親が介護にかかりきり、あるいは障害をもつ兄弟にかかりきりで、他の兄弟の面倒を見るパターンなどもある。

 神戸市の視察において、お手伝いとヤングケアラーの相違は次の3点あるとの説明を受けた。①その行為が親または保護者の監督の下に行われているか、②友達と遊ぶ時間その他の活動が圧迫しないように管理されているか、③子どもにとってやりたくないことをやらないでよいということが通用するかどうか。

 宿題をするなどの勉強時間が十分につくれない、寝不足で学校を欠席したり遅刻したりしてしまう、授業に集中できない、クラブ活動が十分にできない、修学旅行に行けない、友達と遊ぶ十分な時間が少ない、自分の時間もてない、友達や先生に家族のことを話しづらい、誰にも相談できない、希望する進学や就職が難しいなど、子どもにとって困難な状況が常態化している場合は、子どもの人権そのものが脅かされている状況だと言える。若者ケアラーは、18 歳以上で法的には成人だが、家族介護などを担うには責任が重過ぎる。大学を諦める、就職をあきらめるなどといった若者もいる。若者が仕事に就けない状態は、本人のキャリアの上で問題であることはもちろん、社会的損失でもあり深刻な社会問題と言える。

 ヤングケアラー・若者ケアラーは、子どもの権利が侵害されている可能性が大きくその場合、これはすなわち人権が守られていないことを意味する。庁内の関連部署の聞き取りをはじめ、アンケート調査等により、まずはヤングケアラーの実態を把握したうえで、十分な専門職を確保し、誰でも気軽に相談できるワンストップ型の総合相談窓口を設置する必要がある。子ども家庭総合支援拠点の設置は、ヤングケアラー支援の観点からも当然求められる。

4)ヤングケアラー支援を行うための法整備の必要性

 今回の尼崎市と神戸市の視察で十分なヤングケアラーへの支援を行うために必要なのは、支援される側のヤングケアラーを発見すること、次に支援をする側の十分な体制を構築することが難しいという点であり、ヤングケアラー支援法が整備されていないことがその根底にあると感じた。

 様々な関連部署が連携し、ヤングケアラーへの支援を行うには、ヤングケアラー本人やその家族の個人情報を共有する必要がある。この情報共有の前提として、ヤングケアラー本人や家族の同意が不可欠となる。多くのヤングケアラーは未成年者であるため、支援を行うためには保護者の同意が必要である。しかしながら、保護者から理解を得ることができず同意を得ることが難しい場合もある。現場のスクールソーシャルワーカーがヤングケアラーと思われる児童生徒を発見した場合、市がその児童生徒を支援するために学校が必要な情報を求めたとしても、保護者の同意が得られないことを理由に、本人を特定できなかったり家庭環境の情報を得られなかったりする場合もある。ネグレクトだと判断されれば児童虐待防止法の観点から当事者の情報なしに情報共有が可能だが、ヤングケアラー支援に関しては、情報を共有する法的な根拠がない。神戸市ではこの点、国へ改善を働きかけているものの、良い返事は得られていないとのことであった。自治体においては先般埼玉県が条例を制定し、各自治体での条例制定が進みつつあるが、国による法整備が急務であると考える。

一般財団法人地方自治研究機構RILGケアラー支援に関する条例(参考資料)

 18歳以下のヤングケアラーへの支援はもちろん、18歳以上の若者ケアラーへ支援には、関連部署が連携するにあたり、ヤングケアラーとその家族に関する情報を扱うことを可能にする環境を整える必要がある。法の不備を補う方策として、神戸市では福祉局相談支援課長は生活保護・介護保険・障害福祉の課長を兼務している。これにより必要なそれぞれの関係部署から情報を得ることが可能となり、迅速な支援を可能にしてきた。福祉部門が中心となることで組織間の壁を取り払うことに奏功している。

5)相談情報の電子システム化による一元的管理の必要性

 相談・支援に必要な関係機関が多くなるほど、情報の共有は組織間連携に不可欠である。尼崎市でも行っていた相談情報を一元的に管理できるシステムは大変有効であると考える。先日、会派で視察した日野市の発達・教育支援センター「エール」では、福祉分野と教育分野が一体となって、切れ目のない支援、総合的な相談や支援を実施していた。この事業の要となる「療育支援シート」は、0歳から18歳のうちで、それぞれの段階で受けてきた支援内容を次の段階に確実につなぐためのもので、先進市として多くの自治体が注目しており、日野市は企業と協力し、この「療育支援シート」の電子システムを構築し18歳以降の30歳まで保管している。

 相談の過程や内容などの情報を電子システム化し管理・運営を行っていくことで、支援を行う各関係機関がいつでも、どこからでもその情報にアクセスできるようになり、子ども一人ひとりに寄り添った支援をより充実させていくことが可能となる。支援を必要とする子どもとその家庭と各関係機関を結ぶ柱として、情報の一元的な管理を行うための電子システム構築は福生市にも必要であると考える。一人も取り残すことなく、子どもまんなか社会の実現のために粘り強く訴えていきたい。

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