那須塩原市と会津若松市を視察(議会基本条例・政治倫理条例)
議会運営委員会の視察で両市の議会基本条例と政治倫理条例に関する視察を行いました。
<日程>令和6年10月29日~30日
<視察先>那須塩原市・会津若松市
<調査事項>
那須塩原市 調査事項
議会基本条例及び議員政治倫理条例について
(1)議会基本条例制定の背景・経緯について
(2)議会基本条例の運用及び検証について
(3)議員政治倫理条例制定の背景と経緯について
(4)議会取組実行計画について
(5)議会報告会及び意見交換会について
会津若松市 調査事項
議会基本条例及び議員政治倫理条例について
(1)議会基本条例制定の背景と経緯について
(2)議員政治倫理条例制定の背景と経緯について
(3)市民との意見交換会について
(4)広報広聴委員会の役目について
(5)政策サイクルに基づく議会活動について
(6)議会評価特別委員会について
所感
1,那須塩原市議会
(1)議会基本条例の基本的な立場と特長
那須塩原市議会は、「自らを律すること」「市民参加を拡大すること」「あるべき市政を実現すること」を目的に議会基本条例を制定し、この条例は市民との約束・契約と謳っている。議会基本条例の条文は「なるべく市民に分かりやすいものにする」とし、また、議員間討議を盛り込んでおり、常任委員会においては、執行部の説明の後、質疑、議員間討議、討論、採決と運用を図っている。約束の内容は相手方が理解しうるものであるべきだろう。そして市議会は委員会中心主義をとっており、委員会で行われる議論とその結論は重要であり、議会制民主主義の本旨からすると、市民に議論の過程がより伝わる環境を整えるべきだ。そして執行部側への質問と答弁だけではなく、議員同士が討論という形で議論を深めること、そしてその過程を「見える化」することが重要であると考える。福生市の議会基本条例において議員間討論の機会を設けるべきだと考える。また委員会のネット中継も当然になされるべきだといえる。
(2)市民との意見交換(議会報告会)
那須塩原市議会の議会報告会は、議会基本条例の第 8 条に明記されている。平成 24 年 8 月に初めての議会報告会を開催し、これまでに 20回行ってきている。初期は4 班体制でスタートしたが、議員定数の削減に伴い現在は、3班体制で常任委員会毎で実施している。議会報告会は、スクール形式(正面に司会席があり、対面する形にテーブルが配置されているレイアウト)が基本であるが、班によっては意見交換会の際には、車座型等のワークショップ形式で行われており、 この形式によると多くの意見が出やすいとのことである。
第 4 回(平成 26 年 11 月)の議会報告会からは、意見交換のテーマを会場(地域)ごとに設定し、更に第 6 回(平成 27 年 11 月)から各会場共通のテーマを設定した。また会場をこれまで公立公民館としていたが参加しやすさを考慮し撤廃(平成 30 年11 月から実施)した。そしてワールドカフェ方式を導入(平成30 年 11 月に実施)カフェのようにリラックスした雰囲気の中で出された意見を否定せず、メンバーの組み合わせを変えながら4~5人単位で話し合い、参加者全員が話し合っているような効果が得られているとのことであった。
ICTを活用した議会報告会・ホームページに専用のページを作成し、そこに動画とアンケート機能を記載(令和2年7月)した。その後も様々な工夫を凝らして、議会報告会や意見交換会を実施。市民の評価・参加された市民からの評価は概ね高いと捉えており、課題として、参加者の減少に対する対応であると考えているとのことであった。
常任委員会の議員が班を構成し、初期はスクール形式を基本としつつワークショップ形式、さらにはワールドカフェ形式で市民との意見交換が行われた。回数を重ねる中で、会場もより市民が参加しやすいように、またより市民と密に意見交換できる形式にしてきた点は議会基本条例の精神が生かされている。報告を行う議員だけではなく、議員一人一人全員が市民との意見交換を行うことが重要である。またICTの活用などによりHPから市民の意見聴取を行える点は刮目に値する。
(3)議会基本条例に基づく活動の検証につて
市政を取り巻く環境が変化していく中で、市議会としての活動の振り返り、目標の達成度を評価するとともに、課題の把握と今後取組むべき事項を明らかにするため、議会基本条例第21条の規定に基づき検証を行っている。
検証手順は「3ステップ方式」で、具体的には「(1)検証チェックシートによる自己評価」「(2)PDCAサイクルシートによる検証整理」「(3)第三者による外部評価」の順で進めた。第三者による外部評価は、①PDCAサイクルシートによる自己評価の整理、②早稲田大学マニフェスト研究所によるアドバイス、③早稲田大学マニフェスト研究所による取組・手法評価、④評価結果のフィードバック、⑤今後の取組検討及び検証まとめとなっており、専門家による客観的な評価とアドバイスを受けることで議員の意識改革をさらに促すことができると考える。
独自に作成した「PDCAサイクルシート」は、成果指標、取組内容・結果、課題及び改善点等が、条文ごとに視覚的に整理されたものになっている。平成30年9月、上記の検証を踏まえ、議会活動の総括を行うとともに、「議会基本条例検証報告書」としてまとめている。
2,会津若松市議会
(1)制定までの取組み
会津若松市議会のHPによると次のようにある。平成19年7月に公募市民1名と学識経験者1名の外部委員を含む議会制度検討委員会を設置し①議会改革の基本理念に関すること、②議会改革の基本方向に関すること、③改革検討事項の抽出及び検討主体に関すること、④改革検討事項の優先順位に関すること、⑤(仮称)会津若松市議会基本条例及び(仮称)会津若松市議会議員政治倫理条例の原案作成に関すること、⑥その他議会改革に関することの6つの所掌事務に基づき議会改革を検討している。また、この2つの条例の素案に対して市民意見公募を行い、さらには、これ以外にも、市民との意見交換会での意見に基づき、さまざまな角度から検討して条例原案を作成している。その結果、2つの条例は市議会6月定例会に上程され、平成20年6月の本会議に諮られ、賛成多数で可決された。
公募市民1名と学識経験者1名の外部委員を含む検討委員会を設置し一年をかけて検討している。さらには市民意見を公募しこれに基づく原案を作成している。市民を巻き込んだ点は、制定過程の透明性はもちろん市民参加の機会を設けたことは、制定される議会基本条例の趣旨にも合致しており、大いに評価できると考える。また議会改革の基本理念等の検討も行われており、議員一人一人が議会の在り方、あるべき姿を熟議し、共通の認識をもったうえで制定し、その運用においても持続可能なものとすることに寄与していると考える。
(2)議会基本条例の趣旨と特長
平成19年平成20年6月に会津若松市議会の議会基本条例の前文には、住民自治を根幹とした地域民主主義の実現には、「議会から」自治体の政策形成に責任を持ち、積極的に関わっていく必要があるという趣旨が込められている。「議会からの政策形成」を謳っており、政策形成サイクルが確立している点が大きな特長となっている。この政策形成サイクルは常任委員会である予算決算委員会が起点となり進められていく形となっている。
(3)市民との意見交換(常任委員会による意見交換会)
会津若松市議会は常任委員会である予算決算委員会を柱とする他の常任委員会による政策形成サイクルが確立されている。
常任委員会は、総務、文教厚生、産業経済、建設、予算決算委員会となっている。そして、予算決算委員会は、予算審査・決算審査のほか、①調査研究活動を各分科会(第1~第4分科会)の所管事務調査として位置付け②市民との意見交換会は予算決算委員会の所管事務調査として実施されている。各分科会はそれぞれ総務委員会委員、文教厚生委員会委員、産業経済委員会委員、建設委員会委委員により構成される。
会津若松市議会が開催する市民との意見交換会は、会津若松市議会が、地域民主主義の実現のために主権者である市民の声を聴き、意見交換する場として設けたもので地区別意見交換会(市内15地区、5班編成、各班が3地区で実施)と分野別意見交換会が設置されている。
このうち、分野別意見交換会は、予算決算委員会各分科会において、政策立案に向けた、所管事務調査として実施。各分科会のテーマに沿って、各種団体等と意見交換会を行う(予算・決算委員会委員長が承認)開催内容を書面で提出し、予算・決算委員会で報告する。
(4)通年議会の導入による効果
議会がこうした市民の意見を政策に変換する機能につては、通年議会の導入により、1年を通して議会及び常任委員会が活動能力を有する点が大きく寄与している。つまり、議会閉会中に行ってきた市民との意見交換会及び政策討論会における調査研究活動を、通年議会導入に合わせて、常任委員会である予算決算委員会の所管事務調査として再設計した。これにより市民意見を聴取、政策研究、予算審査、決算審査までの政策サイクルを1つの委員会で1年を通じて一貫して行い、専門性を高めることができるようになった。通年議会の導入は、委員会の所管事務調査は、議会が政策を話し合い学び合える場、政策づくりの場に変え、これにより議会活動は市民意見を政策に変換するものとなった。
3,政治倫理条例について
(1)那須塩原市議会の政治倫理条例
平成24年度から議会活性化検討特別委員会を設置し制定の検討を始める。先進市であるつくば市を行政視察、また講師を呼んでの研修・素案(事務局作成)をベースに検討し、平成27年3月議会にて制定。特徴は、一部ではあるが、資産公開(第6条)を行うこととした点にある。(ア)資産土地:所在、面積、固定資産税の課税標準額建物:所在、種類、床面積、固定資産税の課税標準額、(イ)税の納付状況前年度分の市県民税、固定資産税、軽自動車税、国民健康保険税となっている。
主な項目は、以下の通り。
①その地位を利用していかなる金品も授受しないこと
②工事等の請負契約、業務委託契約、物品納入契約その他の市が行う契約及び市が発注した建設工事に係る下請契約並びに指定管理者の指定に関し、特定の者を推薦する等有利又は不利となる取り計らいをしないこと
③市職員等の公正な職務執行を妨げ、又は市職員等の権限若しくは地位による影響力を不正に行使するよう働きかけないこと
④市職員等の採用、昇格及び異動に関し、推薦をしないこと
⑤政治活動に関し、企業、団体等から寄付等を受けないこと
⑥セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメントその他のハラスメントを行わないこと
⑦故意に議会運営を妨げる行為を行わないこと
⑧犯罪その他の事由により議会に対する市民の信頼を損なうことのないようにすること
(2)会津若松市議会の政治倫理条例
会津若松市議会の政治倫理条例は、議会基本条例と同時に制定された。議会基本条例は市民参加による新たな仕組みづくり・運営方法を示すものとして、政治倫理条例は議員の行動基準を示すものとして平成20年6月に制定された。
前文には次のようにある。会津若松市議会が目指している市民参加を礎とした新たな議会づくりは、議員に対する市民の揺るぎない信頼があって初めて実現できるものである。そのためには、議員は公職者としての高い倫理観と深い見識により、自ら考える明確な政治倫理基準に基づき、誇りと自信をもって市政を担いつつ、説明責任を果たしていくことが必要である。ここに、議員と市民との信頼関係を築く基盤として、この条例を制定する。
視察の際に特徴として挙げられたのは、政務関連犯罪による逮捕後の説明会(第7条)、政務関連犯罪による起訴後の説明会(第8条)、政務関連犯罪の有罪半ける後の説明会(第9条)、政務関連犯罪の有罪確定後の措置(第10条)、審査の請求(第11条)で、こうした条文を明確に盛り込むことで犯罪の抑止効果が期待できると考えたが、生活保護受給の不正受給により有罪判決を受けた議員がいたとのことであった。
4,まとめ
福生市議会は、議会改革の一環として議会の憲法である議会基本条例の制定に向け議論を重ねている。以前の議会改革の議論から大きく進み、今回は制定することに決定している。
さて、議会は公正・公平で効率的な行政が行われるよう執行機関を監視する役割をもつ。しかしながら、このような受動的な役割にとどまらず、令和5年の地方自治法の改正以降、より積極的・能動的に政策を立案していく役割が期待されていると考える。そして、議会の役割をとらえ直し、より多様な意見を政策へ反映を可能にする環境を整えることは、議会改革の目的に一つだといえる。そして、そうであるならば、議会改革にこれでよいという終わりはなく、不断の努力により、より良くしていこうといった主体的な取り組みが継続しなければならない。それには人の気まぐれな意志によるのではなく、自ら制定した法によって自らを律していくことが民主主義の本意でもあり、そこに議会基本条例を制定する意義があると考える。
全国初の議会基本条例は、北海道栗山町議会で平成18年5月に制定された。視察した那須塩原市は平成19年に議会改革に取り組み、平成24年3月に制定にこぎつけた。また、会津若松市は平成23年3月に施行されている。両市ともに議会基本条例を制定しこれに沿って先進的な議会運営を行っている。
議会基本条例を制定するにあたり、公募市民や専門家を含む委員会の設置や視察、専門家を招いての研修などを行い、相当の時間をかけて準備し制定に至っている。福生市議会も議論を重ねる中で、専門家を招いて研修を行うことが予定されている。議員一人一人が二元代表制の意味と議会に期待されている役割を深く理解し、議会基本条例と政治倫理条例を制定する意義を明確に認識したうえで制定することが望ましい。
市民との意見交換については両市ともに重きを置いており、開催の方法や市民との対話方法、テーマの設定、対象とする市民など、議会基本条例に基づいて、それぞれに工夫されているが、いずれも委員会の役割が大きい。委員会中心主義の観点からも当然のことと考えるが、ルールを条例に明記することはもちろん、委員長のリーダーシップ並びに委員一人一人が職責を果たしていこうという明確な意思をもたなければならないと感じた。また議会基本条例の制定とこれに基づく議会報告会あるいは市民との意見交換の場の設置、そしてこれを通じての議会による政策形成及び議会運営の評価については、専門家の助力と評価が必要であると感じた。
政治倫理条例は、会津若松市議会の説明の際に「議員を縛るものではなく議員を守る為のもの」であると述べられていたことは印象的であった。制定に向けてハラスメントに関する研修等の機会を設ける必要性がある。また、過去を振り返ると、政務関連犯罪に関する項目は福生市議会も設けるべきであると考える。
制定後は、市民にも倫理条例の存在と内容を周知していく事が大切であると感じた。そして、議会基本条例を基づき新たな議会を創っていくのであれば、運用主体として議員の行動基準を市民との契約として示す政治倫理条例は、議会基本条例の施行と同時かあるいはその前に成立していなければならないと考える。
そして、市民が議会基本条例と政治倫理条例を自らの宝とし、その価値を認め民主主義を実現していくためには、主権者教育、シチズンシップ教育を地域社会全体に行きわたらせていく事が必要である。これには長い年月がかかるが、私たちは、その出発地点に存在する者なのではないだろうか。ドイツのある社会学者は政治家の資質として「情熱、判断・洞察力、責任感」を挙げている。一政治家として諦めることなく情熱を持ち続け、現実を冷静に突き放して観察し、安きにつくことなく先を見据えた最善の判断をし、未来に向け責任を果たしていく事が必要だと考える。