主力事業に成長した、新素材スタートアップが挑む資源循環ビジネスの現在地
#1. 現在の資源循環事業の全体像
ーまずは、資源循環事業本部として現在取り組んでいる内容から教えていただけますか?
杉田:現在の資源循環事業本部は、「Maar事業部」「プラント事業部」「横須賀サーキュラー工場」の3つの組織で構成され、組織間で連携しながら以下の4つの事業に取り組んでいます。
1つ目は「資源循環プロデュース事業」です。これは排出される廃プラスチックや、市場に流通する再生可能な資源を有価で買い取り、必要とするエンドユーザーやリサイクラーとのマッチングを提案します。この事業では、排出元からいかに材料を確保するかが非常に重要なポイントで、取り扱っている材料の量や種類が競争力に繋がります。Maar事業部のセールスメンバーが全国各地を飛び回りながら、マッチングの実績を積み重ねています。
2つ目は「資源循環プラットフォーム事業」です。これはトレーサビリティや環境負荷をDXの力で可視化し、効率的な再生材調達と再生材売買を支援する取り組みです。今年発表した再生材のマッチングプラットフォーム「Maar再生材調達」がこの取り組みに該当します。「売り手(排出元)」と「買い手(調達先)」のニーズをプラットフォーム上に集め、これまでのマッチング事業で培ったノウハウとセールス人材が再生材の各取引をサポートし、高確度での再生材取引のマッチングが可能になります。
佐々木:3つ目は「リサイクルプラント運営事業」です。2022年に稼働を開始した横須賀サーキュラー工場は、廃プラスチックと使用済みのLIMEX製品を自動選別・再生利用できる世界初の工場として立ち上げました。現状は、容リ(容器包装リサイクル)ルートや大臣認定ルートによる行政からのプラスチック資源の受け入れを行い、再資源化を進めています。また、横須賀サーキュラー工場をモデルとしたリサイクルプラントの多拠点展開の計画も進めています。
4つ目は「再生材・再生材製品の開発・販売事業」です。素材・製品メーカーとして、素材や製品の機能性や付加価値を高めた開発と販売に取り組んでいます。これまで再生材が使用されてきたのは物流資材や建築資材など、一般消費者が手に触れない用途が多かったですが、私たちが調達した廃プラスチックを使用して、ごみ袋や傘などを製品化し、再生材を使用することの価値向上に取り組んできました。
#2. 「Go Circular」で、メンバーの共通目線を高く持つ
ー2021年に掲げた野心的な目標「TBM Pledge 2030」の中で「Go Circular」を掲げていますが、改めてこの目標の背景を教えていただけますか?
羽鳥:まず「TBM Pledge 2030」を策定した経緯からお話しします。
2020年に企業理念体系を整備し、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を見直しましたが、そのMVVの下でどのような具体的なゴールがあるのかをあまり示せていませんでした。その問題意識から、2021年の創立10周年を迎えるタイミングで、具体的なゴールとして「TBM Pledge 2030」が誕生しました。内容を検討する際に、我々の事業内容を踏まえても「気候変動」と「資源循環」をテーマにしようということは比較的スムーズに決まりました。
資源循環事業も立ち上がったばかりでしたし、当時はこの数字の実現可能性を精緻に検討するよりも、高い目線を共有することがこのゴールの役割だと考え、設定に至りました。具体的な数字として100万トンや50か国という目標を設定しましたが、これらの数字は目標の高さを示すものであり、我々の事業の最終目標ではありません。
ー実際に、「Go Circular」の実現に向けた進捗度はどう捉えていますか?
杉田:実際の数字で言えば、マッチング事業では昨年の取引量が約35,000トン程度です。これまでの業界の先輩企業が数十年で10万トンを達成している点を踏まえれば、本格的に事業を開始して約3年間でこの規模まで成長できたのは、これまでのメンバー一人ひとりが靴の底を減らして、走り回ってくれた努力の賜物だと思います。
ただ、100万トンを1つの山と見立てたら、まだ1合目にも至っていないですし、目指す目標はもっと高い所にあります。TBMは「1年で10年分の成長」を目指していますので、これまでの活動を強化するだけでなく、大胆なイノベーションへの挑戦が必要だと考えています。
#3. 過去の経験を駆使し、前例に捉われない大胆な発想を
ー杉田さんは、廃プラスチックの業界に身を置いてきた視点で、TBMの資源循環事業における強みはどこにあると考えていますか?
杉田:資源循環領域のビジネスは、今後、国内外で大きな成長が期待されているマーケットの一つです。しかし、プラスチックのリサイクル業界は、そのマーケット規模と期待に対して、現実の状況やリサイクル現場の感覚には大きな乖離があります。
だからこそ、TBMのようなスタートアップが市場拡大のために果たすべき役割は大きいと考えています。テーマは「不易流行」。これまで長きに渡りリサイクル業界を牽引してきて頂いた方々に感謝し、その歴史から謙虚に学び、イノベーションをTBMが起こし、業界発展に貢献するべく圧倒的な規模とスピードで挑戦しています。
リサイクルプラントを運営し、市場を牽引するために業界全体でのルールメイキングを進める協議会を立ち上げるなど、業界の前例に捉われない大胆な発想と行動を取ることができる点は強みの1つだと思います。
また、「人材の多様性」も大きな強みです。この数年で業界経験者も増え、TBMの方針やビジョンに共感し、挑戦したいと飛び込んでくれる人が増えています。自分たちが今までやってきた経験を活かし、これまで見たことのない景色を見ようとしている組織なので、非常にドラマチックに感じます。
一方で、セールスのメンバーや工場スタッフには業界未経験者も多く、これまでの業界に縛られない大胆な発想やアクションが生まれています。こうした多様な人材が集まり、志高く挑戦できることは、TBMならではだと思います。
#4. 世界の資源循環マーケットの牽引役を、自分たちの手で掴み取る
ー今後、「Go Circular」の実現を加速させるために、力を入れていきたいことを教えてください。
羽鳥:まず個人としては、再生材を使用することへの価値観の変容が必要だと思います。
企業や消費者が再生材の使用をポジティブに捉えるためには、安全性や環境性に関する情報の透明性が欠かせません。そこはサステナビリティ担当としても、サプライチェーンでの環境社会配慮や環境影響評価に拘り、その情報が見える化されている再生材を世に出していきたいと考えています。
将来的にはプラスチックやLIMEXに限らず、技術・仕組み・価値観を駆使してごみを資源に変えていける会社を目指していきます。
佐々木:私はテクノロジーセンター出身なので、再生材における技術競争力を生み出していきたいです。再生材のニーズが高まっているとはいえ、物性、色、量、価格、品質保証など多岐にわたる要求を満たせる再生材はまだ多くありません。したがって、技術力で高品質な再生材を、市場により多く投入していくことが私のミッションと考えています。
現状、TBMの開発アセットはLIMEX事業に関連する領域が多いですが、今後は再生材の技術開発にも力を入れていきたいですし、再生材開発に特化した組織づくりにも挑みながら、TBMの事業成長に貢献したいです。
杉田:TBMは「未来意志」の会社なので、大きな追い風をしっかり掴み、これからも様々な仕掛けを通して、業界にイノベーションを起こしていきたいと思います。
例えば、先ほどお話した「Maar再生材調達」もまさにその一例です。このDX化のように、他業界での当たり前やイノベーションを取り入れることで、新たな価値を創造し、業界全体に革新的な動きを生み出す可能性を秘めていると思います。
将来的には、TBMだけでなく業界全体のイメージを変え「ごみを処理する」「売買する」というイメージにとどまらず、性別や年齢の多様性を高め、社会的に意義のある仕事として次世代にも認知してもらいたいです。
そうした未来を現実に変えるために、世界の資源循環マーケットの牽引役を自分たちの手で掴み取りたいと考えています。
ー最後に、どのような人材とこれからの壮大な挑戦をしていきたいかを教えてください。
杉田:TBM全体としても、資源循環の領域においてもグローバル志向やイノベーション志向は欠かせません。
業界知識や経験は必須ではありませんが、これから自分が作りたい世界やマーケットを自分の言葉で語れる、TBM Compassを体現しながら、泥臭く前向きに挑戦を楽しめる、そんな頼もしい方々と一緒に事業を加速させていきたいです。