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ザオリクを本気で唱えたいと願ったあの日

ザオリクって知っていますか?
年齢モロバレですが、ドラクエというゲームに出てくる、
『キャラクターを生き返らせる魔法』
なんですが、そんなザオリクを唱えたいと切に願ったあの日を
思い出す出来事がありました。

日々、忙しいつもりで生きています。

以前、自分のやる気と気持ちを調べるために、
スケジュール帳にでき事、その時のやる気レベルと感情を
記録していたことがあります。

こうやって記録をつけると面白いもので、
日常がルーティーン化・タスク化していることが、
手にとるようにわかるのです。

いわゆる、視覚化して認知し、行動を見直すという、脳科学的アプローチ。

ざっと見ても、
朝の出勤時間(7:00スタートですが、大体少し遅刻)
ざっくり仕事を終わらせる時間(診察、記録、コンサルト、検査オーダー)
遅めのランチのタイミング(いつも仕事を一区切りさせてから食べます)
フォローアップ(患者さんの家族にあったり、検査結果を説明したり)
帰宅
帰宅から寝るまでの行動

記録したことがある方はわかると思いますが、
日常の90%はほぼ同じ行動の繰り返しです。
時間も、大体同じなので本当に!びっくりします。

ルーティーンというか、タスク化されているので、
プレッシャーもあまりないし、淡々とこなす感じです。

むかしは、それがカッコいいと思っていました。
できるドクターみたいな感じで、サクサク仕事をこなしていく。

駆け出しの頃はどうしても、わからないことを先輩に聞いたり、
スキマ時間に必死で調べたり、マニュアル片手にプレゼン、
みたいな感じでしたから、その場でなんでも
即座に判断して行動できる上級医を見て、憧れたものです。

さて、すっかりタスク化した日常を過ごしていたのですが、
それを一変させることがありました。

患者さんの急変です。

日本ではなぜか急変がしょっちゅうあった気がしますが、
アメリカに来てからはめっきりありません。

いろいろな理由があると思いますが、
一つはRapid Response Team(RRT)という、
急変を未然に防ぐチームがいることです。

患者さんのバイタルサイン(生きている証である、体温、血圧、心拍数、呼吸数、意識状態など)に異変があると、自動的に召喚されて原因を調べたり、
主治医に報告してくれたりします。

今時は日本にもあるかもしれませんね。
私が日本で医師をしていた頃はまだまだ浸透していませんでした。

さて、回診中にRRTがいるのでまずいぞ、と思って近づくと、
患者さんの呼吸がかなり微弱で、時折大きく頑張って呼吸しています。

これは下顎呼吸といって、死の淵でよく見られる現象です。

おっとまずいぞ、と思いなおしながらRRTと評価をしていき、
集中治療チームに連絡をして、家族に状況を電話して、
集まってくるデータを解析して原因をある程度同定しながら、
少しずつ軌道修正しながら最悪のケースに対応できる準備もします。

結果的に患者さんは人工呼吸管理が必要になったので、
集中治療チームに引き渡しました。
かれらはとても優秀なので、あとはお任せです。

集中治療チームも、
「いい対応だ、集中治療医にならないか?」
と、アメリカ人特有のベタ褒めなお世辞を言ってきます。

死を目前にした患者さんが病院には少ないアメリカでは、
日本にいるときほど急変対応することがありません。

あっても、たいていはRRTや集中治療チームが
すぐに駆けつけてくれるので、かなり安心感を持って対応できます。

でも、急変対応に慣れたつもりでも、
そして仮に頭と体がスムーズに動いても、
心の中は焦りと緊張感で満ちているものです。

急変対応する時はいつも、ある歌詞が思い浮かんでくるのです。

それは、ミスチルのHANABIです。

2008年に出た曲で、コードブルーという、
3年目の天才救急医が大活躍するドラマの主題歌です。

3年目でこんなに凄い医者いないだろ、とかつっこみながらも、
毎回楽しみに見ていたのを思い出します。

この歌詞はいつ聴いても、何かの答えを与えてくれるので不思議です。

医師として落ち込んだ時や、難局面立たされた時に
よく効く復活の呪文的な感じです。

HANABIを聞くと、必ず思い出す情景が二つあります。

一つは、自分が最初に本気で心肺蘇生をしたときのことです。

まだ本当に駆け出しの頃で、初めて急変対応を任された時のこと。

何度も暗唱して完全に覚えていたつもりの心肺蘇生のアルゴリズムが
一瞬で完全に吹き飛び、頭が真っ白になり、でも何かしないと
目の前の患者さんを失うかもしれない。

そんな恐怖と焦りの中、上級医と同級生の3人で必死に
心配蘇生をしたあの日のことは、今でも忘れられません。

片田舎の病院で、ナースの方が医師の100倍くらいできる。
わからないことは的確に教えてくれるが、最終判断は自分。

とにかくすがる思いで全身全霊をこめて心配蘇生をし、命をつなげる。

途中で心拍が再開しても、すぐに不安定な状態に。

一瞬も、目が離せない。
離したら、死神に患者さんを連れ去られてしまうかもしれない。

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なんとかオンコールの専門医が駆けつけるまでの30分。
正直、あの時ほど本気で『ザオリク!!』と
唱えられたらいいのに、と願った日は後にも先にもありません。

そしてもう一つは、がん患者さんの死に目で本気で泣いた日。
自分よりも若い、不幸ながん患者さん。
初診からずっと診続け、最後までいっしょに過ごした、あまりに短い1年半。
漫画のNARUTOが好きで、『最終回まで生きられるかな?』が口グセ。

「先生、私が死んだら、NARUTOの最終回、お墓にもってきてね。」

冗談ではなく本気で言われたあの時の力の入った言葉。

「最終回まで、生きたい。少しでも長く生きたい。でも、無理なのはわかっている。」

そういう目で見つめられたあの目の奥の光、なんとか一日でも生きて欲しいと必死に治療法を考えた日々、そして頭の中にこだまするHANABIの歌詞。

さよならが迎えに来ることを
最初からわかっていたとしたって
もう一回 もう一回

「もう一回」はない。だからこの歌詞がひびく。
「もう一回」はない花火のような刹那のきらめき。

患者さんの死を紡いで、つないで、誰かの生命力に変換している。
それが、自分に与えられたお役目なのかもしれない。

アメリカに来てだいぶ経ち、少し忘れかけていたこと。
ひさしぶりにHANABIが頭の中で流れて、取り戻すことができました。
HANABIは、落ちても救われて次につなげていける、まるで復活の呪文。

忙しい時ほど、いろいろなことが同時に起こるものです。
一生懸命生きていると、「忙しさ」という圧力が、
自分の中の何かを凝縮して、新たな価値や気づきを生み出してくれます。

それを大事にして、未来につないでいく。
そのためには、一瞬一瞬を大事にして、
時間の密度を濃くする必要があります。
やると決めたら即とりかかり、やらない理由を探さない。

最後に、時間密度を濃くして人生を変えるための秘訣を:

時間を決めること(締め切り効果)
目的を口に出して言ってから仕事・作業を始める(脳にあらかじめ命令する)
誰かのためにおこなう(相手を明確に想定できるほど効果大)

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