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ハワイは日本の未来予想図か?ゲームチェンジャー・ライフスタイルの科学

日本でもアメリカでも世界的に健康ブームです。

食事、運動、睡眠、ストレス、社会的つながり、そして嗜好品

ライフスタイルに密接に関係したこれらの要素が、感染症以外の実に多くの現代病の原因につながっている』ことが、実は30年以上前からわかっていました。

しかし、当時は科学的根拠に基づく医療(EBM: Evidence Based Medicine)の走りの時代であったこと、製薬会社による創薬が医学の研究の本流であったため(今でもメインストリームではありますが)、ある意味必然的にデータの取りづらい分野は研究が進まなかった、という個人的な意見です(これについて語ると何時間もかかりますので今回は割愛します)。

ようやく、現代の病気の根本的な原因にアプローチする時代が来たのです。

ここで、興味深い事象があるのでご紹介しましょう。

日本人の移民がハワイにやってきたのは100〜150年前。
アメリカでジャンクフードが蔓延し、肥満が右肩上がりで増え、いわゆる3大死因である心筋梗塞、脳卒中、がんが増え始めたのが1970-1980年代で、今から50年ほど前になります。
アメリカ人がどんどん肥満になっていく中、日系移民は数十年遅れてアメリカ人化していく、という時間のズレがみられました。これについては有名な研究がいくつかあります。
また、日本人に多い胃がん。15年ほど前までは日本人のがんのトップ2でした。近年ではアメリカと同様、大腸がんや前立腺がんが増え、胃がんは少なくなってきています。
実は、ハワイの日系移民をみると、日本で胃がんが減って大腸がんが増え始める20年近く前から、胃がんが減って大腸がんが増え始めていたのです。同様のことは糖尿病や心筋梗塞などにも言えます。
ごく簡単にこれらの現象をまとめると、

ハワイの日系移民がアメリカのライフスタイルにどうやって適応したのか
イコール
日本の日本人が欧米のライフスタイルにどうやって適応していくのか、その数十年先の未来がみえるかもしれない

つまり、ハワイの日系移民は「今のまま日本人がアメリカ的な西洋のライフスタイルで生活した場合の未来像」であると言われており、それを裏づけるデータも発表されているのです(詳細は後日記事にします)。

そう、ライフスタイルは国や人種差を超えて広がるのです。

まだ歴史の浅い、発展途上の医学領域にライフスタイル医学(Lifestyle Medicine)というものがあります。文字通り、ライフスタイルにアプローチすることで健康を維持、病気の予防、治療に結びつける分野です。

日本では馴染みのない分野ですが、多数の学術雑誌で特集されるようになり、アメリカでも爆発的に広がりつつあります

実際に、世界の五大医学雑誌(Big 5)と言われる

New England Journal of Medicine
JAMA
The Lancet
British Medical Journal
Annals of Internal Medicine

これらに掲載されることは大変名誉で、「今日明日の診療を変えうる内容」と言えるほど、どの論文もハイインパクトなのですが、その中でも、ページビューの高いトレンド記事はライフスタイル関連の記事です。

個人的にその専門医資格を持っているのですが、まだまだ認知度が低く、その重要性を広め、より多くの人に健康かつ幸せになって欲しい、という思いがあります。

アメリカで10年ほど前から始まった健康ブーム。

その流れを受けて、ライフスタイルや健康とは何か?幸せとは何か?どうすればいいのか?という、根源的な疑問を解決するために、ライフスタイル領域の科学的な研究がますます盛んになっています。

すると、医師として興味があるのは

科学的根拠(エビデンス)がどのくらいあるのか?

ということになります。

個人的な見方ですが、医学における科学(サイエンス)とは、

再現性があること

が最も重要な要素の一つと言えます。

再現性とは、ごく簡単にいうと、見つかった法則に対して、同じような状況で同じような方法をとると、同じような結果が得られることです。

これは非常に重要です。
例えば、「偏差値◯◯からの大逆転!子ども3人を東大に入れた勉強法」という本があったとします。ストーリーとしては面白いですし、私もこういった話を聞いたり読んだりするのは大好きです!
でも、大抵の場合、たとえば「お金があったから」「両親の頭がよかったからじゃない?」「いい先生に会えたから」というような疑問が湧き、「これって自分(や子ども)に当てはまるのかな?」と疑ってしまいます。
こういう話は再現性を確かめるのが非常に難しいし、その本の内容を真似しても、みんながみんな同じ結果を得られるわけではないでしょう。

再現性のある法則を見つけ、それを証明する(=科学的根拠・エビデンスを見つける)』ことが、現代の医学的アプローチの基本になっているのです。

再現性のあるデータがないと、自信を持って患者さんにオススメできないものです。こういったエビデンスがそろって、初めて個別化医療が洗練されていくという側面もあります。ルール・エビデンスが当てはまらない人に個別対応する場合、あてになる標準化されたエビデンスがないと、標準以下の治療になってしまう可能性があるからです。

ライフスタイル医学の領域では、何となくの医療ではなく、基本的に科学的根拠のあるデータをもとに推奨しています。

大事なのは、患者さんがすぐに実行できて、健康と幸せを両立できること。定期的にライフスタイル医学の各領域についてのトピックを紹介し、みなさんのお役に立てるような情報をシェアしていきたいと思います。

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