ロックダウンはエネルギー増幅期間
コロナウイルスは私たちの生活をガラリと一変させました。
でも、本当に大事なのは、実はこの感染症を乗り越えるプロセスと、そのさきにある「今までとは違う新しい未来」を予想しながら、自分を成長させることだと思います。
病気にならないように注意することはもちろん、かかった時に跳ね返せるくらい体調と意識を整え、エネルギーを蓄え、成長し、そして、未来への希望を持ち続けること。
そのために、エネルギーを減らさない方法を考えてみました。
エネルギーを意識してみる
エネルギーと言っても、なかなか想像がつきにくいかもしれません。
エネルギーには体力・気力・やる気や意志力などなど、いろいろな表現形があります。ここでは単純に、生きるのに必要な活力として考えてみます。
エネルギーの話はとても一つの記事では収まりきらないので、どんなことがエネルギーを下げ、回復したり上げたりするのはどうするのか、ということを、医学的な観点と合わせて考察していきます。
さて、暗いニュースは不安をあおり、エネルギーを浪費し、疲弊します。
私たち人間は良くも悪くも、感情のアップダウンによってエネルギーを消費するようデザインされているのです。
エネルギーが下がると疲れやすくなります。
すると、手軽にエネルギーを補給するために、ジャンクフードを食べたり、ゴロゴロしたり、目的なくYouTubeやNETFLIXをつけっぱなしにしたり、お酒に飲まれたりします。
しかし、これらの行動は、ドーパミンという生体活性化ホルモンを刺激してエネルギーが上がるようにみせかけたドーピングのようなもので、結果として良質な睡眠も阻害され、エネルギーが回復することはありませんし、むしろリバウンドで疲れやすくなったりします。
すると抵抗力が落ち、感染症にかかりやすくなるだけでなく、慢性疾患があると、それが悪化したりします。実際に、COVID-19で入院が必要な患者さんをみると、基礎疾患があって、それが悪化してより重症になることが圧倒的に多いです。
中国やイタリアなどの報告でわかった、重症化に関係した基礎疾患として多いのは高血圧、糖尿病、心血管疾患、喫煙と喫煙関連疾患、慢性腎臓病、そしてがんです。
また、アメリカのデータではこれに肥満と、病気ではないですが、低所得者 (正確にはLow SES: Socioeconomic Status)が加わる見込みです。
こうしてみてみると、ほぼ、リスクを上げるのは生活習慣病になります(最近は非感染性慢性疾患とも呼ばれています)。
そしてこれらのおおもとの原因は、実は遺伝よりも、ストレス、食事、運動、睡眠、嗜好品(タバコ、お酒、薬物など)、社会的なつながり、(そしてそれらが影響を受けるマイクロバイオーム(腸内細菌叢のもつ遺伝情報・エピジェネティクス))が関係しています。
これらの基礎疾患は日の単位でなるものではなく、年の単位でなるものですから、今は関係ないと思うかもしれません。
ところが、日常生活を改めると、早くて数週間で変化がみられますので、基礎疾患のある人はそれを今の時期に改善することは大事です。
もちろん、タバコ(吸入式含む)は百害あって一利なしですし、実際にコロナの重症化に関連しますので、すぐにやめるべきでしょう。
そして、基礎疾患のない若い人も、生活のガラリと変わったコロナの世界では、このような慢性疾患になってしまうライフスタイルになりがちなので、常に気をつける必要があります。具体的には、エネルギーの高い生活を送ることが重要だと思います。
では、エネルギーの高い生活とはどんなものでしょうか?
ここでは、すぐにできることを中心に考えてみます。
ニュースは客観的な事実に注目・感情は横に置く
ハワイのみならずアメリカはほぼ全土にわたってロックダウン(Stay-Home Order)しています。
そしてロックダウンによる影響はすでにさまざまなところに出ています。
身近なハワイの状況を見てみると、仕事を失った人、食料や日用品の備蓄に奔走して疲弊する人、外出して罰金(最大5000ドル)を受ける人などが続出。
学校もオンライン授業(Distant Learning)なので、子どもはずっと家にいますし、アメリカ人は料理しない・できない人が多いので、ファーストフードのドライブスルーが混雑し、冷凍食品が売り切れ続出になったりしています。
アメリカのロックダウンはまだまだ続きますので、治安の悪化、貧富の差の拡大などの悪影響も徐々に出はじめています。
さて、概してニュースというのは暗いもの、悲しい内容が多いので、それを聞いた人のエネルギーは下がり、社会全体の雰囲気が悪くなる、という悪循環が生まれがちです。
また、この情報社会において、ニュースは「読まれる・見られる」ために、感情をあおった表現がなされることがあります。
身近な例を挙げましょう。
知人医師のブログに「アメリカ全般」の救急医療の悲惨な状況が書かれていましたが、それを取材したニュースでは、「ハワイが悲惨な状況」と解釈されても不思議ではない書き方がされていました。もちろん、注意深く読めばそうではないとわかるのですが、タイトルだけを見るとわからず、それを読んだ友人から、「ハワイ大丈夫?悲惨らしいけど」という問い合わせが私のところに殺到。
もちろん、ハワイはCOVID-19は少しずつ増えていますし、その対応もしていますが、現段階では幸い、ニューヨークのような悲惨な状況とはほど遠く、まだ嵐の前の静けさを保っています。
ニュースを見ない、というのも選択肢ですが、安全情報や社会ルールの変更など、客観的な事実をのべるニュースに限り必要でしょう。
ニュースを見るときは、信頼できる情報源なのか、一次情報なのか、誰が加工しているのか、といった基本的なことは抑えつつ、感情を操作する情報が練りこまれていないのか、考える必要があります。
というのも、「極端な一例」が、さも当たり前に起こるかのように表現されることが頻繁にありますので、そのニュースが「どのくらい自分に当てはまりそうなのか?」という見積もりをすることが重要です。これを妥当性と言います。あるいは、リスクの見積もり、と考えてもいいでしょう。
コロナウイルス感染症によって分断された社会の意味を考える
医師としてコロナウイルス感染症(COVID-19)をみていると、日本とは違って、アメリカでは若い健常人の死亡例も稀ならずあります。肥満などの要素もありますし、医療従事者などがかかる例も多いため、一般の人にすぐに当てはまるわけではありませんが、決して侮ってはいけません。若い人も、他の年齢層と比較して同じくらい感染するが重症化は少ない、というデータ↓があります(過去の記事です)。
イタリアと中国の状況を比較したデータが出ていますが↓、若い人の死亡率は0.5%以下です。肥満や貧困の多いアメリカでは少し違ったデータが出る可能性があり、そちらは今後の報告待ちでしょう。いずれにしても、侮らない、でも怯えすぎない、というスタンスが重要です。
なので、感染しない万全の対策をとったうえで、しっかりと充実した日常生活を送って、エネルギーを落とさない・免疫力を落とさないことが重要と言えます。
ハーバードの疫学者Marc Lipsitchが2月中旬に表明した「世界の人口の40-70%が1年以内にかかるかもしれない」という前提で考えた場合、どのようにして軽症でやり過ごすのか、そしてどうしたら他の人にうつさないのか(これは誰が重症になるのかわからないこと、社会を守ること、医療崩壊を防ぐこと、などの意味があります)、というのが重要です。そして、現在の戦略が「感染の拡がるスピードを抑えること」にフォーカスしているということは、「集団免疫がつくのに時間がかかる」ということですので、有効な治療薬やワクチンができない限り、長期戦になる可能性が高いといえます。
すなわち、「コロナウイルスと共生する」という感覚を持って、十分に対策しつつ、自分のエネルギーをためる行動を取ることが大事でしょう。
この時期だからこそできること〜人とのつながりを考える
恐怖も、笑いも伝播します。そう、感情は波紋のように拡がっていくのです。強制的に社会的距離をコントロールされている状況では、誰と過ごすのか?を考えさせられます。
表面的なつきあいは不要となり、本当に大事なつながりだけに断捨離されると言えるでしょう。
オンラインコミュニケーションは物理的な距離の壁を乗り越えてくれますので、大切だけど離れている人とは割と簡単につながることができます。
リアルで会うのは大切な家族や近しい友人。
私は幸い、仕事をすることが許されていますので、まだ職場でいろいろな人と会いますが、外に出られない家族はストレスも溜まっていく一方です。だからこそ、普段よりも、いろいろな人と連絡をとりあっています。
恐怖の感情は、ストレスを増幅し、免疫力を低下させます。
SNSに依存したコミュニケーションをしていると、うつになるリスクが1.6倍高まる、という2016年の研究結果がありますが、コロナによって社会的にSNSの必要性が高まったため、この研究結果の解釈も変わるでしょう。
↓こちらは2010年の研究結果。148の研究、のべ30万人以上のデータをメタ解析し(複数の研究をまとめて新しい結果を導くのをメタ解析といいます)、ざっくりいうと、社会的なつながりが強い人は最大で50%生存率が高かったという結果です。
他にも、1997年に高名なJAMA誌に掲載された興味深い結果があります。
この研究では、社会的なつながりがある人は感染症にかかりにくい、という仮説を検証したものです。
なんと!!276人(18-55歳)の健康なボランティアに風邪ウイルス(ライノウイルス)を投与し、誰が風邪を引いたのかを見たのです!
社会的つながりは、以下の12の項目のうち、1週間に2回以上連絡をとる人が何項目当てはまるのかを数値化して比較しています:
夫婦、両親、義理の両親、子供、近しい家族、仲のいいご近所さん、友達、職場の同僚、同級生、コミュニティの仲間、非宗教的なつながりのある人、宗教的なつながりのある人
結果として、つながりが3つ以下の人は、6つ以上の人と比較して、4.2倍風邪に感染したのです。
もちろん、これが新型コロナウイルスに当てはまるわけではありませんが、全世界的に社会的距離を取るという戦略を取っていますので、近しい人としっかりとコミュニケーションを定期的にとることは、感染症をもらいにくくする可能性があると思われます。
ストレスを軽減しポジティブになる
先ほどと同じ研究者が、1991年に医学誌の最高峰、NEJM(New England Journal of Medicine)に同じような研究結果を発表しています。
こちらは、394人の健康な人に同じように風邪ウイルスを投与し、ストレスと風邪の発症率を検討した研究結果です。
ストレスの度合い(横軸)と風邪に感染する率(縦軸)が比例しています。
つまり、ストレスが免疫力を低下させ、感染を成立させやすくなった、とも言えるでしょう。
さらにこの研究者は2006年に、ポジティブな感情が感染率や症状と関係するという研究結果を発表しています。
ここでのポジティブの定義は「楽しい」「幸せ」「生き生きとしている」そして「穏やか」です。
一方でネガティブの定義は「不安」「イライラ」「うつうつ」です。
ポジティブであればあるほど感染しにくく(最もネガティブな人と比べて2.9倍)、また、感染しても症状が軽度だった、という結論です。
つまり、ポジティブな人は免疫力が高まっている、といえます。
こんな時期だからこそ、悲観的にならず、ストレスを軽減させ、ポジティブになることが重要なのです。
食に気をつける・ジャンクフードや加工食品を避ける
生きていく上で最も基本的かつ重要な食事ですが、健康によい食事というのは、実はいろいろあります。しかし、各食事の内容やタイミング、そして狙っている効果が異なりますので、細かいところは今回は割愛します。基本的にはホールフーズ・プラントベースドの食事(野菜やマメ類中心、なるべく加工されていないもの、ただし調理は可)で免疫力を増強する効果が示された研究が多いです。だからといって、他の食事法が劣っているというわけではありません。ただし、いわゆるSADダイエットと言われる、Standard American Diet(コテコテの欧米食)は加工食品やファーストフードが多く、免疫力が低下します。
適度にかつ定期的に運動する
実は、運動単体での感染症に対する防御効果ははっきりと証明されていません。
運動の免疫力増強効果を示した研究は数多いですし、いろいろな慢性疾患に対する効果があることは論を待ちませんが、感染症を防ぐことを証明したものは割と少ないです(注:免疫力増強と感染症の防御は必ずしも同じではないのです)。
また、有名なパラドックスで、定期的にハードトレーニングを毎日たくさん(1日1.5時間以上)しているスポーツ選手はむしろ免疫力がやや低下し、ウイルス感染症にかかりやすい、という報告もあります。
そして最新の解析(システマティックレビュー・複数の研究をまとめて解析し直したデータ)では、日常的な運動が直接ウイルス性気道感染症を減らすかどうかの結論は出ていません。ただし、この解析に含まれた研究には、ウイルス性気道感染症にかかっても、症状が軽く、病気の期間が短く済む、というデータはあります。
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD010596.pub3/abstract
今の段階では、「適度の運動は感染症にかかった時の症状を抑え、回復が早くなる」というのが妥当なテイク(解釈)でしょう。
私見ですが、定期的に運動する人は、食事や睡眠など、健康そのものについて意識の高い人が多く、また、運動する仲間・コミュニティを持っていることも多いので、合わせ技で考えれば、定期的な運動は大きな意味を持ちます。ただし、ハードにやりすぎない方がいいのかもしれませんね。適度な運動、というのは年齢によっても違いますが、ガイドライン上の一般的な推奨運動量は、中等度の運動(軽く息が上がる、話をしながらできるかできないか程度の運動)を週に150〜300分です。
良質な睡眠をとる
睡眠と免疫能をみた研究も多いです。
睡眠が短いと風邪を引きやすい、という研究はこちら↓。
睡眠時間(横軸)が短いほど、風邪を引く人が多かった(縦軸)という結果です。
ここで重要なのは、睡眠の質は計測されていないことです(睡眠効率は計測されています)。
現段階でのテイクとしては、「しっかりと睡眠をとることが感染リスクを下げる」と言えるでしょう。
私見ですが、このトピックについては、睡眠の時間だけでなく、睡眠の質に注目した研究も待たれます。ただ長ければいいのか?というのはいつも睡眠医学では問題点なのです。良質な睡眠モニターの普及により、明らかにされると思われます。
まとめ・コロナウイルス感染症のもたらす意味を考える
先日、世界有数の大富豪で慈善活動家のビル・ゲイツさんの「コロナウイルス感染症が考えさせてくれたこと」という文章がネットで世界中を駆け巡りました。
実際には、ビル・ゲイツさんが書いたものではないらしいのですが、本当に大事なものが何か、どういう意味をもたらすのか、など、人生の意味を常に考えることは、とても重要です。
コロナウイルスは生活を大きく制限し、私たちが大切にしなければならないものをあぶり出そうとしています。
ウイルス感染症によって生物が進化し、文明が進歩してきた歴史もあります。ウイルスは生物という増殖装置がないと増殖できないので、ウイルスの立場から考えると、人間を殺そうとは思っていないでしょう。
コロナウイルスによって、
誰と一緒にいるのか
誰とつながっていたいのか
どうしたらかからないのか(食事・運動・睡眠・ストレスマネジメント・嗜好品)
など、健康に生きていくために必要なことを再確認できます。
この感染症にかかる人はきっと多いでしょう。
誰が重症になるのか、はっきりとわからない部分が恐怖の原因ですが、
今のところ、年齢と健康状態が保護的に働いています。
なので、健康状態を管理し、いい状態で保つことは必須と言えます。
それには、エネルギーを意識して蓄え、浪費しない生き方が重要と言えます。
この記事で提示したデータが全てCOVID-19に当てはまるかはわかりませんが、過去の研究の結果を統合して考えると、妥当で、やっても損しないことだと思います。
エネルギーを蓄え、健康に気をつける習慣をここで身につけると、きっとコロナウイルス感染症によって分断され、再構築された後の未来が輝かしいものになるはずです。
今後は、そのようなことを考えて行動し、励まし合い、高め合い、健康とエネルギーレベルを維持するコミュニティを作って活動していきますので、ご興味がある方はご期待ください!
(学術的には、日本ライフスタイル医学会の立ち上げをお手伝いさせていただいております。医療従事者、企業会員を募集していますので、ご興味のある方はご連絡ください。)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?