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あなたの「探究」がきっと見つかる  高校生のためのAIの事例で学ぶ「探究」のポイント解説(5)

【特徴】
・「総合型選抜」に使えます。
・自分の才能が見つかります。
・自分軸を鍛えることができます。
 

某県立高等学校 再任用教諭 テラオカ電子




第3章:事例で学ぶ「仮説に立て方」のポイント解説

事例:「どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?」の探究活動

 

[1]「仮説の立て方」のポイント:仮説で「探究」の質が決まる

本章では、事例を用いて「仮説の立て方」を解説します。前章の最後に述べたように、「問い」と「仮説」の設定は、ペアになっています。なので、「仮説」が先にあって、後で「問い」が明確になることも多いです。「問い」と「仮説」を往復させながら設定していきます。

 

では、初めに、「仮説」とは何かを定義しておきます。「仮説」とは、設定した問い(リサーチクエスチョン)に対する「答え」の予想です。このような考え方(論)をすれば、また、このような方法で確かめれば「答え」を導くことができそうという予想です。

 

仮説を立てることが重要な理由を、2つ挙げると、一つには、「「問い」と「仮説」の設定は、ペアになっています」ので、仮説を立てることにより、問いが良いものかどうかをチェックできる点です。もし、うまく仮説が立てられないとすると、その問いは具体性に欠けていたり、探究テーマの理解不足があったりと考えられます。

 

二つ目は、仮説があると、これからどのように探究を進めたらよいか計画を立てることができます。仮説がないと、実験や観察、調査を行き当たりばったりで進めることになりかねません。また、何がポイントとなるのか焦点がぼけてしまうので、時間や労力を無駄にしてしまいます。したがって、当然、仮説は検証可能なものである必要があります。

 

ポイント9:

・「問い」と「仮説」の設定は、ペアになっている。
・仮説を立てることにより、問いが良いものかどうかをチェックできる。
・仮説は検証可能なものであること。

 

 それでは、どのようにすれば、良い仮説をつくることができるのでしょうか。

 

 ところで、アメリカの論理学者・科学哲学者のチャーチル・パース(1839-1914)が、仮説について、「アブダクション」という概念で研究を行っています。このパースの「アブダクション」は、米盛裕二先生の著書:『アブダクション 仮説と発見の論理』で詳しく知ることができます。

 

パースによれば、研究の推論には、分析的推論である「演繹」と、拡張的推論である「帰納」と「アブダクション」が含まれるとされます。ここで、先の著書では、「演繹的推論においては結論は前提の内容以上のことは言明しない、つまり前提の内容を超えた知識の拡張はありません。しかしそのかわり、分析的な演繹的推論には真なる前提から必然的(・・・)に(・)真なる結論が導かれる、という重要な論理的特性があります」と「演繹」の特徴が述べられています。

 

一方で、「帰納の拡張的機能は経験から一般化を行うことであり、アブダクションは科学的仮説や理論を発案し発見を行う拡張的推論です。・・・科学には帰納のほかに、アブダクションというもう一つの種類の拡張的推論が存在し、そしてそのアブダクションが科学的発見においてもっとも重要な役割を果たす」と「帰納」と「アブダクション」の特徴が述べられています。

 

 すなわち、「演繹」は、新しい概念は作らないが、「帰納」と「アブダクション」は、新しい概念を作る。特に「アブダクション」にその傾向が顕著だという意味です。

 

 このように、「すぐれた仮説や理論というものは科学者たちの卓越した知力や創造力によって考えだされるものであり、つまり科学的な仕事の中でとくに仮説を形成する過程は科学者たちの知力や創造力の差がもっとも顕著にあらわれる部分」なので、仮説の設定は研究において極めて重要です。

 

 また、「ラッセルがいうように、仮説は観察やデータから帰納的に導かれるというものではなく、むしろ逆に、観察データは仮説にもとづいて集められなくてはならないのであり、実際、あらかじめ何らかの考え(仮説)がなければ、どういう事実を集めたらよいか、関連性のある事実をどのようにして選んだらよいか、あるいはそれらの事実をどのように相互に関連づけたらよいのか、わからないでしょう。」というように、仮説があるから、「探究」を始めることができます。

 

 ゆえに、「探究」では、いかによい仮説を立てられるかが要になります。身も蓋もない結論になりますが、仮説は、自動的な推論で浮かんでくるものではありません。問いに対する驚きからくる飛躍によって得られます。なので、熟考に熟考を重ねるしかありません。仮説は、研究のオリジナリティーそのものです。

 

ポイント10:

・探究の推論には、分析的推論である「演繹」と、拡張的推論である「帰納」と「アブダクション(仮説の生成)」がある。
・科学的発見においてアブダクションがもっとも重要な役割を果たす。
・観察データは仮説にもとづいて集められなくてはならない。
・仮説は、問いに対する驚きからくる飛躍によって得られるものなので、熟考に熟考を重ねてつくり出す必要がある。
・よって、仮説の作り方というマニュアルはないので、様々な事例を参考に自身で試行錯誤するしかない。


 


では、本章で取り上げる事例を紹介します。「いじめ」をテーマにした探究活動の事例です。これは、高校3年生が取り組んだ事例です。結論から言うと、いじめとは真逆の探究活動を行いました。安心してください。なお、生徒が本研究をサイエンスコンテストで発表したものを、私が代読した形ですがYouTubeで一般公開しています。ご視聴いただくと後の話が、良く分かると思います。

 

【テラオカ電子:「どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?」を公開します」はこちらから】

https://www.youtube.com/watch?v=Ke1xIGTH3Mk 

 



[2]研究の背景

今回は、生徒の論文は掲載しません。私の指導ストーリーで紹介します。では、研究の背景です。

 

この研究は、「課題研究」という授業で行ったものです。「課題研究」は、職業高校(工業高校、商業高校および農業高校など)で3年生が取り組む授業です。私が在籍していた工業高校では、一人の教員に6~10名程度の生徒が配置され、それぞれの教員の指導の下で、1年間、同じメンバーで探究活動を行っていました。この「いじめ」の探究活動は、この年のメンバー(8名)での3つ目のテーマでした(初めの2つのテーマについては、YouTube「テラオカ電子」で紹介しています)。

 

最初、生徒たちに、学校生活での一番の問題は何かと問いかけたところ、「いじめ」であると答えました。しかし、「いじめ」というのは、高校生の探究活動としては、大きすぎるテーマなので、難しいと思いました。しかし、生徒の返答が即答(0.1秒)だったので、圧倒された形で、このテーマで進めることになりました。高校生にとって、いや全ての人にとって人間関係は深刻な問題ですから。

 

当初、私は、昨年度の「課題研究」で製作した「感情分析ロガー」(顔の表情を分類できるAI装置)を使って、プレゼンの練習効果を可視化する研究をしようと考えていました。プレゼンは、笑顔で意欲的に行うのが良いのですが、それを「感情分析ロガー」を使ってプレゼンを練習するにつれ、良くなることを客観的に評価するという研究です。これは、斎藤学氏の「AIで人の表情・可視化する -表情解析の理論紹介と、探究授業における感情認識AIの活用-」を参考にしたものです。斎藤氏は、生徒が探究授業で行ったプレゼンの表情の分析を紹介されています。

 

【斎藤学氏の「第4回 情処ウェビナー」はこちらから】

https://www.youtube.com/watch?v=iZaOXkhKfmg 
 

生徒の問題意識の高さから、探究のテーマは、「いじめ」と決まりましたので、この「いじめ」と「感情分析ロガー」を組み合わせて研究ができないかと考えました。また、「いじめ」というテーマは大きすぎるので、絞る必要がありました。

 

ところで、一般に、大きな問題を解決するには、まず細かく分割することが有効です。これは当たり前のようですが、ルネ・デカルトは『方法叙説(方法序説)』の中で、

 

「第2の準則は、調べている難問を、可能な限り、うまく解くのに必要なだけ、部分に分割することであった。」(小泉義之訳)

 

と言語化しました。この教えにしたがって、「いじめ」を、「嫌な言葉をかけられる」ことと、「仲間外れにされる」に、生徒たちと議論する中で分解しました。ここで、「仲間外れにされる」というのは、私が別の授業の余談で「いじめ」の話をした際、「人間が一番怖いのは、仲間外れになることである」と言っていたものです。ちなみに、私が授業で話した「いじめ」の内容は、この高校での離任式でまとめて話をしました。この内容は、YouTube『テラオカ電子』で一般公開しています。ご意見(反論を含めて)・ご感想等があればコメントください。

 

【テラオカ電子:「離任式(2023/04/12)」はこちらから】

https://www.youtube.com/watch?v=puxwtJ--De4 



[3]研究の問いと仮説

こうして、「仲間外れのような言葉をかけられる」と「感情分析ロガーによる表情の計測」を組み合わせた探究活動をやることに決まりました。研究テーマは、「どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?」にしました。そして、研究の問いは、「(いろいろな嫌な言葉があるけれども)仲間外れにされた言葉をかけられると、一番「いじめ」を感じるのではないか?」としました。

 

すると、気の早い生徒が、仲間外れの言葉を他の生徒にかけようとしました。しかし、これは問題です。直ちにストップさせました。たとえ実験であっても、仲間外れにされる言葉をかけられると、いやな気分になります。また、万が一、その言葉で心に傷を負ってしまうかもしれません。このような研究は倫理的に不適切です。心理学的研究を行う際は、十分注意が必要です。

 

そこで、発想を逆転し、研究仮説を「仲間意識を持たせた言葉を受けると逆に幸せになる」と考え、色々な誉める言葉を与えて、その表情を観察することにしました。最終的に、この研究では、色々な誉め言葉を受けた時の表情をAI技術で記録・分析することで、一番うれしくなるかどうかを検証することにしました。そして、そのような結果が得られたならば、逆に仲間外れにされたとき、いじめを感じると推察できると考えるわけです。大きな問題を分解したのち、発想を逆転させて、無理やりですが研究の形にしました。しかしながらこの展開は、後半に述べますが、根拠が不明で論理性に問題があると指摘されます。

 

デカルト先生も、

「第1の準則は、私が明証的に真であると認識するものだけを真として受け入れることであった。言いかえるなら、速断と偏見を注意深く避けること、また、懐疑に付す事由のないほど明瞭かつ判明に私の精神に現れるものだけを、私の判断の内に含めることであった。」(小泉義之訳)

 

と、慎重さの大切さを述べています。それゆえ、本探究活動は、模範的事例を示しているわけではありません。半面教師として参考にしてください。

 

以上、本事例は、紆余曲折をへて研究仮説を設定しました。また、検証可能な仮説にもなっていません。それでも、あれこれ考えてばかりいても、何も始まりませんので、少しでもやれそうだと判断したら、進めるのが良いと思っています。

 

ポイント11:

・「探究」では、研究倫理に十分配慮した活動を行う。



[4]研究方法

研究方法は、①誉め言葉の作成、②表情の計測、③その分析で進めました。当時、マスク生活が日常となっていましたが、それゆえ表情という運動領域のテーマは意味があったと考えています。

 

では、①誉め言葉の作成を説明します。単に、思いついた言葉を繋げて作成してもよいのですが、より合理的で生産性の高い方法を採用しました。よいアイディアの発想法の基本的な「型」として、「発散と収束を繰り返す」というのがあります。この活動では、この「型」にしたがって誉め言葉を作成しました。

 

まず、誉め言葉を一人5個自由に考えます。質にこだわらず、とにかくアイディアの「種」を作ります。これは、発散にあたります(図1に生徒が考えた誉め言葉を示します)。

 

次に、その誉め言葉を横軸の「内面的か外面的」かと、縦軸の「集団的か個人的」かの2次元マトリックスに配置します。この2次元マトリックスにポジショニングする操作は、ビジネスの世界で「コンサルタント」と言われる方がよくやる手法です。今回は、これを真似てみました。軸の名前ですが、横軸の「内面的・外面的」と、縦軸の「集団的・個人的」というのは、自由に考えた誉め言葉を観察することで導きました。手前みそですが、まずまずのできだったと考えています。これは、収束にあたります(図2:誉め言葉の左の番号がマトリックスの位置を示しています)。

 

ポイント12:

・アイディアは、「発散と収束を繰り返して」発想しよう。


 次に、配置した区分に従って誉め言葉をブラシアップします。言葉の意図が明確になりましたので、それを強調します。これは発散にあたります。そして、最後に、マトリックスの第1象限と第2象限を「We言葉」、第3象限と第4象限を「Me言葉」としてまとめました。これは、縦軸で分けたことになります。いじめの本質が、「仲間はずれ」にあると我々は考えていますので、大きくこの軸で分けました。最初から2つに分ければ早かったのではないかという考えもありますが、横軸の「内面的・外面的」の軸をつくることで、バランスの良いものになったと考えています。「We言葉」、「Me言葉」というネーミングも、どこかのコンサルタントが使っていたものです(どこで聞いたか忘れてしまいました)。これは収束にあたります(図3)。

 

このように、発散と収束を繰り返して誉め言葉を作成しました。ここでは、生徒たちは、誉めことばを創作する言語活動を通してアイディア生産のプロセスの「型」を体験したことになります。


次に、②表情の計測を述べます。表情は、ラズベリーパイにAI技術を実装した「感情分析ロガー」で計測します。本装置の外観を写真1に示します。この装置は、前年度の生徒(先輩)が「漫才の可視化研究」で製作したものです(この事例は、第1章参照)。装置のハードウエアはラズベリーパイで構成されており、ここでの表情分類技術は、JellyWare株式会社が公開している『OpenVINO™でゼロから学ぶディープラーニング推論』で公開されているプログラムを参考にしました。「感情分析ロガー」は、表情の時系列変化を記録できます。具体的には、5つの感情(「Neutral(無表情)」、「Happy(幸せ)」、「Surprise(驚き)」、「Sad(悲しみ)」および「Angry(怒り)」)の割り合いをCSVファイルに時系列に記録して、終了時にグラフが表示するようになっています。

  

【テラオカ電子:「感情分析ロガーをつくりました」はこちらから】

https://www.youtube.com/watch?v=1w0854N7p4s 

【「ラズベリーパイ」とは】
英国ケンブリッジ大学の教授らが設立した「ラズベリーパイ財団」が開発した名刺サイズのコンピュータです。教育目的で開発されました。多くのプログラム言語が扱えますが、「Python(パイソン)」が扱えるのが特徴です。

 当時学校では、自作の教材は、ネット環境を使えなかったので、AI技術をスタンドアローンで動かすことができるラズベリーパイを使いました。

 

【「CSVファイル」とは】

CSVファイルとは、Comma Separated Valuesの略で、各項目がカンマ(,)で区切られたテキストデータのことです。データの容量が軽く、読み書きや編集が容易であるという特徴があります。

 

 

計測は、誉め言葉を、2人の被験者(生徒)に、図4に示す順で声をかけて行いました。被験者を「感情分析ロガー」のUSBカメラで顔を撮影しながら、被験者に向かって誉め言葉を言います。誉め言葉は、「We言葉」と「Me言葉」が交互になるように配置しました。これは、言葉の順番によるキャリーオーバー効果を低減するためです。

  

 

【「キャリーオーバー効果」とは】

キャリーオーバー効果とは、前に置かれた質問が、後の質問の回答に影響を与えることです。キャリーオーバー効果を無くすことは不可能なので、影響を最小限に止めるようアンケートの質問の順序を考えなければいけません。

 

最後に③分析を述べます。2人の感情の時系列グラフからその傾向を読み取ります。また、Happyの感情の平均値を求め、「We言葉」と「Me言葉」に差があるかどうかを統計的に検定します。

 



[5]実験・観察結果

では、実験・観察結果です。いきなりですが、生徒2人の誉め言葉をかけられたときの、表情の感情の時系列変化を図5および図6に示します。少し分かりにくいので補足説明をします。4つのグラフは、それぞれの座標が示す誉め言葉をかけられたときの表情の強さを示しています。各グラフの横軸は、誉め言葉をかけられている時間経過で、縦軸は、各表情の感情の強さを示しています。オレンジ色の線が「happy」の感情を示しています。正直申しますと、生徒は、楽しみながら(半分遊びながら)「実験」していますので、計測結果の妥当性も信頼性も低いです。

 

次に、図7に各言葉におけるHappyの感情の平均値を示します。平均値を比較すると、仮説(「We言葉」をかけられるとより嬉しくなる)に反して、「Me言葉」の方がHappyの感情は高い結果となりました。なお、この時の対応のあるt検定では、両側検定(差があるかどうか)において有意にはなりませんでしたので(p=0.69)、「We言葉」と「Me言葉」に差があるとは言えませんでした。

 

  



[6]考察

考察では、以下のように整理しました。

 

①  実験・観察結果からは、「We言葉」よりも「Me言葉」の方がHappyの感情のレベルが高くなったが、「We言葉」と「Me言葉」に統計的な差は見られなかった。従って、本実験・観察結果から、仮説である「We言葉をかけられるとHappyになる」ことを示すことはできなかった。

 

②  実験・観察の妥当性に関しては、被験者が研究メンバーである点が問題である。恣意的なものになっている可能性がある。男女、年齢など幅広く計測する必要がある。また、信頼性に関しては、計測データを沢山とる必要がある。4種類のデータでは、統計的な検定は難しい。

 

③  加えて、誉め言葉についても、様々な状況を取り入れる必要もある。今回は、自分たちの友達同士での誉め言葉に限定されている。さらに、誉め言葉を言われたとき、その時の感情も後で振り返ると変わる場合もあるので、本研究の手法は、その瞬間の感情を捉えたものであることに限定される。

 

 結論から言うと、この探究活動から有意義な発見や知見は得られませんでした。でも言い訳ですが、そう簡単に良い結果は得られるものではないと言うことです。実験方法を再度見直すことも必要ですし、何度も繰り返す必要もありました。ただ、生徒はこの研究活動を通して「感情の可視化」というAIしかできない体験(AIの活用体験)はできたと考えています。

 

【「信頼性・妥当性」とは】

 信頼性とは、「ある尺度が、時間や異なるサンプル間で一貫して同じ結果を出す度合い」

 妥当性とは、「ある尺度が、その尺度が測定しようとするものを正確に測定する度合い」

 

ポイント13:

・結果の考察では、得られたデータの「信頼性」と「妥当性」を検討しよう。



[7]研究のまとめ

まとめです。本研究は、どのような言葉をかけられると「いじめ」と感じるかを明らかにするために、仮説を「仲間外れにされた言葉をかけられると「いじめ」を感じるのではないか」と設定しました。

 

研究方法では、発想を逆転し、仲間意識を持たせた言葉を受けると幸せになると考え、色々な誉める言葉を与えて、その表情を計測しました。その表情の計測には、AI技術を使用しました。その結果、仲間意識を持たせた言葉をかけられるとうれしくなることは示すことはできませんでした。

 

考察では、方法の妥当性と信頼性を検討しました。本研究により、この検証方法の可能性は提案できたので、今後、妥当性と信頼性を確保して研究を進めていくことになります。

 

今回の探究活動では、いじめという、高校生にとって最も関心のある問題に取り組みました。「やってはいけない」と道徳的なアプローチではなく、AI技術を使って科学的に問題を解決するという姿勢を示した研究として意義があったと考えています。

 



[8]研究の評価

最後に、この探究活動の評価を述べたいと思います。この研究は、2つのコンテストに出しています。

 

一つは、県内の大学が主催する高校生対象のサイエンスコンテストです。こちらは、プレゼン発表とポスター発表があります。多くの聴衆の前でプレゼンすることは、生徒にとって貴重な経験ですが、他の高校の発表を聴くことも、「井の中の蛙」になることを防ぐことになります。視野が拡がりました。また、ポスター発表で、大学の先生と「同じ研究者?として対等に議論」できる点が特に良いと考えています。もう一つは、読売新聞社が主催している日本学生科学賞です。こちらは論文審査だけですが、丁寧な講評が記載された「審査カード」を返してくれます。

 

「課題研究」の振り返りとして、これら2つの専門家からの講評をフィードバックとして生徒に伝えています。こうすることで生徒のメタ意識が高まり研究方法の理解が深まると考えています。

 


サイエンスコンテストからの講評では、

 

・顔の表情を使ったビジネスはこれからも進んでいくので、

後輩に引き継いで欲しい。

・誉め言葉の作成は、区分けが難しく手間がかかったと

思います。今後の課題でもある。

・パネル発表は、しっかり説明し、質疑応答もできていた。

 

などが、

また、日本学生科学論文賞の講評では、

 

・高校生に直接関わる問題を取り上げ、情報技術を利用して解決する試みは、意義深く、

好感がもてる。

・研究の目的が、最終的に何を目指しているのか、研究としての体が整い切れていない印象を

覚える。

・検証可能な仮説を設定することも大事。

 

などがありました。

 

ネガティブなフィードバックが多いわけですが、生徒には貴重な情報が入手できてよかったと、ネガティブなフィードバックに対する見方を変えることが重要であると伝えています。

 

「フィードバックを最もたくさん得るものが勝ち残る。」

ケン・ブランチャード(アメリカの作家)

 

という、格言もありますから。

 

また、「課題研究」の終盤にAIの活用を提案してもらいました。ある生徒は、目の不自由な人は対面している人の表情が分からないので不安にちがいないと考えて、相手の表情を教えてくれるAIを提案しました。この探究活動で使った「感情分析ロガー」の新しい活用を考えたわけです。この生徒は、もともと人の感情には敏感でしたが、このようなことを言語化できる勇気がもてるようになったのではないかと考えています。この生徒はAIの活用を考えることを通して人間理解が深まったと思いました。

 


「課題研究」の最後に、生徒の感想をワードクラウドで表現するとこのようになりました。研究に関して、「面白い」、「楽しい」、「興味深い」などの言葉が見られました。この課題研究をきっかけに研究を楽しむ人生を送って欲しいと考えています。

 

【「ワードクラウド」とは】

ワードクラウド(wordcloud)とは、文章やテキストから単語の出現頻度にあわせて文字の大きさを変えて視覚化したグラフのことです。

 

最後に、この探究活動の目標(生徒にどのような能力を身につけさせたいか)は何だったかについてまとめます(本来は最初に述べるものなのですが)。

 

生徒には、「課題研究」を通して「研究の方法を学ぶこと」と伝えています。具体的には、認知領域(知識・思考・判断)としては、

 

①  実験結果の整理(平均値の算出)ができる。

②  研究倫理が説明できる。

③  妥当性と信頼性の意味を説明できる。

 

で、レベルは、「理解」に設定しました。概ねクリアできました。

 

運動領域(技能)としては、

 

①  表情の計測実験を行うことができる。

②  誉め言葉を「型」にしたがってつくることができる。

 

で、レベルは、「模倣」に設定しました。なんとかクリアできました。

 

そして、情意領域(意欲・関心・態度)としては、

 

①  AIの活用を提案してAIの興味を高める。

 

で、レベルは、「反応」としました。良いアイディアを出してくれました。

 

以上、本章では、「仮説の立て方」のポイントを説明し、その後、事例を紹介しました。この事例の「仮説」は、研究倫理の観点から試行錯誤の結果、「仲間意識を持たせた言葉を受けると逆に幸せになる」でした。そして仮説を検証するため、誉め言葉を作り、それを声掛けして、その時の表情をAI技術を使って分析しました。結果、仮説の検証はできませんでした。「探究」はそう簡単には成果は出ないという事例となりました。

 

仮説について、一言付け加えると、仮説は、あくまでも仮説なので、仮説が問いの予想した「答え」になっていなくても問題ありません。逆に、仮説に反する「答え」となった場合、大発見となります。

 

ポイント14:

・「探究」を進めた結果、当初の仮説と異なる結果が得られた場合、時として大きな発見となることがある。

次章、第4章では、事例を使って「実験・観察」のポイントを解説します。

 

 

 

 

 

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