Googleマップの中の家
町内を歩いていると、今まで家があった場所が更地になっていたりする。
しばらく空き地のまま時間が過ぎて、気づくと新しい家ができている。
そうなると、以前どんな家があったのか思い出せない。
目にしていないものは、スルスルと記憶の引き出しから滑り出て行ってしまう。
誰かがそこで暮らしていた記憶のよすがが失われてしまい、なんだか落ち着かない気持ちになる。
わが家の向かいに、新しい家が2軒工事中である。
この2軒分の敷地には、去年までとても素敵な家が立っていた。オレンジ屋根のスペイン風の邸宅で、お庭にはシュロの木と、毎年ピンクの花を咲かせるサルスベリの木が生えていた。
笑顔のすてきな女性が住んでいたが、高齢になり施設に入ってしまったので、住む人がいなくなってしまった。
子供が小さい頃は、いつのまにかお邪魔していて、リビングでアイスを食べていたことがあったなあ。
家の取り壊しが始まり、そこは日に日に無機的な瓦礫の場所になっていき、とても残念だった。更地になったら、地面がやけに広く向こう側の家や道路が見えるようになり、あたりの空気がスカスカした感じになった。
しばらくして工事が始まって、どんな家が建つかとやや楽しみにしていた。
土地が半分にされ、細長い家が1軒でき、隣にまたもう1軒できた。
個性があまり感じられない建造物で、まだあたりの空気は薄い感じだ。新しくそこに住む人たちが、暮らしを積み重ねていったら、変わってくるのかもしれないけれど。
今はまだ、かつてのお宅の様子を思い浮かべることができる。でもそのうちに忘れてしまうに違いない。絵に残しておくのはどうかと思ったが細部が思い出せない。
そこでひらめいた。
Google マップを見てみよう。我が家の住所を入れ、写真を表示する。そして、道の反対側にひっくり返してみた。
そこには懐かしい邸宅がまだ建っていた。門扉のモザイク模様、2本の門柱の間に挟まったような丸い門灯、テラコッタタイル。そうそう。
左下に、「1年前」とある。
Googleマップの世界にも、そのうちに新しく工事が始まってしまうので、スクリーンショットしてアルバムにしまった。