
パレッド
文字書きワードパレッド 朝日和「始まり・空色・軽やか」
私だけ、逆さまの世界にいるように空に落ちていった。
藤の雲と、桃の空。三日月と太陽、どちらも遠くにあるのが見える。これは夕暮れか、朝日のどちらだろう。
瞬きするのがもったいないと感じるほどの、漠然とした美しさの中に自分がいた。それにどうも理解ができず、考えるのをやめた。
落ちている感覚はあるのに、星にも地面にも近づけず、私はこの浮ついた世界でどっちつかずの存在だ。
ただでさえ、現実でもいるかいないか曖昧な存在なのに。もしこのまま宇宙に落ちて死んでも、地球に落ちて死んでも、きっと何も変わらない。
自分の髪が空気で靡いた。淡い世界の中で質量のない真っ黒な髪が撒き散らしている。自分が邪魔だと思った。
ただ一人の世界で思いを巡らせる。
私はこの天国で死ねるだろうか。自分にそう尋ねた。
ううん、無理だよ
他でもない自分がそう答える。ただの自問自答、この行為に意味なんかない。ただの、確認。わかっていた。なんてたって自分だから。
もし、できるよと言われれば死んでいたのに。だって、こんなにも綺麗な世界を見たことがなかったから。
いや、それ以外にも理由がある
死ななければいけない
そう確信したのが昨日だったから
何年、何十年と生きてきて、ようやく出てきた結論。わざわざ従わない理由なんてないだろう。それでも今もこうやって生きているのは、怖いから。
わかっている、怖いのは当たり前だと。怖いのならば生きればいいと。けれどそうもいかない、時間がそれを証明している。
明日。どれほど生きたって、なくなることのなかった明日。そこに全てのゴミを投げつけたい。いらないものをそこに捨てたい。そしてそこに自分も放り込んで、そのまま明日に眠りたい。
手が軽い、足が軽い、思考が軽い、全てが軽い。
空っぽな存在になれば、またここに来れるかもしれない。だって、ここには何もないから。雲なんていう、ぼんやりとした不安がそこにあるだけ。
そんなこの世界が大好きで、綺麗に見えた。
雲も、星も、太陽も、月も。人間の汚さなんか存在しなかったように。
けれど、幸せは続かない。私の休息は続かない。
私の天国が、今、死んだ。
私の代わりに、死んだ。
がばっと、真っ白な布団を、まるで汚物のように剥がした。どうしてか、自分でも、目が見開いているのがわかる。呼吸が荒い。視界がぼやけて、何も見えない。息がうまく吸えなくて、いきぐるしい。いきずらい。
誰も助けてくれない。声を出さなかったから。シーツに灰色のシミができる。泣いていたから。
明日が、今日になって、またゴミを拾わなければならない。自分が捨てた、死ぬ勇気というゴミを。
嗚呼、また今日が始まった。