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「私に恋を!」第3話 【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】
家に帰って、私はベッドに飛び込んだ。ふう、と息をつく。安心する気持ちと、不安な気持ちが交錯していた。
幽霊でないと分かったことで、だいぶ安心感が増した。だが、心配だったのが、瑠帆のことだ。友達じゃなくなったら、嫌である。
次の日。学校に行くと、瑠帆の姿はまだなかった。私は、自分の席に座って本を読みながら、一文読んでは顔をあげて、まだかな、と、出入り口の方を見た。
十分ほどして、やっと見開き一ページを読み終えるという時、突然、肩に手が強くのっかった。
「おっはよ~、由紀!」
後ろを振り返ると、思った通り瑠帆だった。
よかった、瑠帆、私のこと嫌ってなかった・・・。
私は安心感とともに、本をぱたんと閉じた。
学校が終わると、私はまた公園に向かった。もちろん彼はいて、いろんなことを話した。
そして私は、今日こそやろうと思っていたことを聞いてみた。
「次いつ会えますか」
すると、男子はにっこりして、こんなことを言った。
「敬語じゃなくて、ため口でいいですよ。俺も、ため口でいいですか」
「う、うん」
私は、突然のその言葉に、距離がさらに近づいた気がして、とても嬉しくなった。
「それで、さっきの答えだけど、君のためならいつでも会うよ」
きゅん・・・
そんなこと言われたら、嬉しくてしょうがない。
「じゃあ、えっと・・・」
「君が来たらここにいるよ」
考えていた私に、男子はそう言った。私は思わず苦笑い。
「だったらいいけど、でも、絶対になるとは・・・」
「絶対になる」
彼の目は正しいことを言っているようだった。それで、私は頬を掻きながら言った。
「まあ、そこまで言うなら」
というわけで、私と彼は約束をせずに別れた。会えなくならないか、心配になりながら。
次の週の水曜日。放課後、私は公園に向かって自転車をこいでいた。今日は大事な日なのだ。学校で、友達にもしっかり伝えてきた。
「ねえ、私、今日すごいことするの」
今日の昼休み。私は友達にそう言った。
「なになに?」
「もしかして、瞬間移動?」
瑠帆がふざけて言う。
「なわけないでしょ。告白だよ、告白」
私がすんなり答えると、三人は目を見合わせた。
「もしかして、あの男子に?」
私はこくりと頷く。
「好きだよって?」
こくりと頷く。
「その時が来たんだな、おめでと!」
瑠帆は突然、声のトーンをあげて私の背中をたたいた。
「まだ告白してないよ」
私が戸惑いながら言うと、瑠帆は首を横に振った。
「告白するってだけで、おめでとうなの」
「告白って勇気がいるからね」
里香もそう言って、頷く。
私は、「なるほど~」と思いながら、みんなにそう言われてうれしくなった。
「告白、応援してるよ!」
「うん、ありがとう! 私、頑張る」
私はそう、元気よく頷いた。
そして私は今、坂を下っている。私が告白しようと決めた理由。それは、彼に心をつかまれたあの日が決め手だった。
それは土曜日のこと。また彼に会いたいと思った。だが、今まで土曜日に行ったことはない。しかも、今はまだ午前中。時間帯的にも、行ったことがない時間だ。
「今行ったら会えるかなあ」
行って会えなかったら、何も報酬がないのに、つらい坂を上らなければいけなくなる。しかし、そういえば、彼は言っていた。絶対に私が来たら公園にいると。
「信じてみるか」
私はそう言って首を縦に振ると、自転車に乗って公園に向かったのだった。
公園に着いて中に入ってみると、人の姿は見当たらない。
(やっぱ、いな・・・)
「こんにちは」
いつもの声とともに、腕が私の肩にのる。
ば、バックハグ・・・。
私は思わず振り返った。
「び、びっくりしたよ」
「・・・嫌だった?」
「嫌じゃないけど」
私は照れながらそう言うと、男子は「なら良かった」と、にっこりした。
バックハグをされたあの時。私はきゅんとした。一瞬で心をわしづかみされた。「好き」の気持ちが高まって、付き合いたいという気持ち以外、無くなってしまったのだ。
ふー
私はゆっくり息をはく。公園に着いたのだ。私は自転車を止めると、公園の中に入った。
いるかな、と、私が公園を見回していると、突然後ろから声がかかった。
「こんにちは」
「わっ」
私はびっくりして、告白のドキドキでいっぱいだった胸をおさえた。
「ごめん、びっくりした?」
「いや、大丈夫」
私はそう言いながら、いつ言おうかと、心はうずうずしていた。
「ベンチに座る?」
男子に言われて、私は何も言わずにこくりと頷いた。ドキドキしすぎて、話す余裕もないのだ。
ベンチに座ると、男子はにっこり笑った。
「今日の給食何だった?」
「えっと・・・黄な粉揚げパン」
「ああ、なるほどね」
「私、あれ、油っぽくてあまり好きじゃないんだよね」
「俺も」
男子は少し考えた後、また話を持ちかけてきた。
「そういえば、クラスって何人くらいいるの?」
「えっと・・・四十人?」
「結構いるんだね」
「そう。だから教室、窮屈なんだよね」
私はそう言って笑った。少し、緊張がほぐれた気がする。そして、流れ的にも、今な気がする。よし。
「あ、あのさ」
「?」
話し始めたら、すぐに緊張が返ってきた。思わず口ごもる。
「あの、えっと・・・」
私は、言うか迷ったが、ここまで来たんだから、と、思い切って打ち明けた。
「私、あなたのことが、好き。だから、付き合ってほしい!」
顔が真っ赤になったのが、自分でもわかる。すると、彼はにっこり笑って、私にくっつくと、耳元でこう言った。
「実は俺、君の分身なんだ」
え・・・。
私は思わず何も言えなくなった。私の、分身?
気づけばもう、彼はいなくて。さっきまであった、公園の安心感もなくなって。私は今まで、自分の分身を好きになっていた。とすると、私が好きなものって、「自分」・・・。
「ねえ、どうだった、昨日の告白!」
朝、学校に来たばかりだというのに、千奈や里香、瑠帆が、私の周りに集まっている。
「俺も好きだよ、とか言われた?」
瑠帆が、私の顔を覗き込んだ。
「えっと・・・、もう会えない感じになっちゃった」
私は、言葉を見つけてそう答えた。
「え、振られたってこと?」
「由紀、かわいそ」
千奈はそう、暗い表情をして言う。
「でも、私、決めたの」
私がそう力強く言うと、瑠帆たちの視線が私の目に集まった。
「これから恋愛、頑張るって!」
その途端、三人から盛大な拍手が鳴った。
「おおー、よくぞ言った、由紀!」
「頑張って!」
「応援してる!」
私は彼が自分の分身だと分かった時、自分は案外、嫌われていないのかもしれないと思い始めた。自分の分身である彼は、会話が唐突だったりということもあった。だが、それ以上に彼の可愛さや優しさが私の心を掴んだし、むしろ、唐突だったからこそ、その良さが現れたようにも思える。とすると、私は周りに嫌われているのではと怖がる必要なんてないのかもしれない。もちろん、私のことが嫌いな人もいるだろう。だが、同時に、私を気に入っているという人もいるのではないだろうか。
さらに、自分の分身であれ、「好きになる」という経験ができたことで、自分も誰かのことを好きになれるのだと気づいた。
その二つの発見が、私に、恋愛できるという自信を与えてくれた。
ありがとう、自分の分身。私、これから自信をもって恋愛、頑張るから。