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水辺へのあこがれ
水辺へのあこがれ
水面を見ていると心が落ち着くことを知ったのはいつからだろう。
いつか湖畔の家に住んでみたいという夢を思い描くようになってからすいぶん経ち、無意識に抱えていた水辺へのあこがれにようやく気がついた。
水辺、ことさら流れのない水面が好きだ。
激しく流れる水の音もなく静かに空を映し、時間の流れをもまるごと包括している。 ときおり風や鳥がその水面を揺らしていく。
思えば私はずいぶん長い時間、水辺を見て生きてきた。
30年以上、幼少期から釣りをしていて、昔よく行った福井の三方五湖は自分の原風景になっている気がする。
何かが好きという自覚も自我もない頃から、両親に連れられて私は水辺に遊んでいた。
名古屋の人工河川にはさまれて
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数年前、中川運河と堀川という名古屋を象徴する2つの人工河川の近くに住むことになった。
それまであまり気にも留めていなかったが、自分の暮らす街のことを知っていくうちに、2つの河川は名古屋の水運や暮らしのために作られたものだということを知り、川や橋のこと、地名のこと、昔の名古屋の暮らしに次第に関心を持ち始めている。
名古屋開府と堀川
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古くからある堀川は、名古屋城のある台地との高低差を生かして江戸時代初期に掘削され、400年もの歴史をもつ。
江戸時代から名古屋の水運を支え、名古屋の発展に貢献してきた象徴的な川だ。
堀川沿いを歩くと、道の高低差がよくわかる。
以前、ブラタモリでも取り上げられていたが、堀川は熱田台地の西端の高低差を生かして掘削された。
川の東側は熱田台地で地盤が上がり、西側は大昔は海だった。
近代化と中川運河
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対して、中川運河は名古屋の近代化のために誕生した。
中川運河の方は昭和初期に作られ、国鉄時代の旧笹島貨物駅から名古屋港までの物流を担った。
中川運河の掘削は名古屋港が国際的な港湾として発展を遂げようとしていた時代と重なる。
静かな水面を見ていると想像もつかないが、名古屋の産業や経済発展に大きく寄与してきた。
中川運河は昭和7年に共用が開始されてから昭和30年代までは水運の要として使われてきたが、トラック輸送が中心となったいまでは静かな風景が広がっている。
流れもなく、ただ水がたゆたうばかりだ。
堀川と中川運河。この2つの人工河川は私にとっていまでは見慣れた光景となった。
どちらも異なる時代に担った水運を終えて久しいけれど、いまは文化や観光資源として新たな側面が見出されている。
堀川と中川運河はつながっている
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中川運河には東西の支線があり、堀川と接続している。
かつては松重閘門で潮位を調整して船が行き来していたそうだが、すでに松重閘門もその役目を終え、いまは街の風景のひとつとなっている。
中川運河ギャラリー
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その中川運河と堀川を結ぶ川のほとりに「中川運河ギャラリー」がオープンしたことを知り、さっそく行ってみた。
SNSなどの情報によると、2022年にできたとのこと。
ここは70年ほどガソリンスタンドを営業していた「森石油」さんの事務所を改装したギャラリーで、2階建てのコンクリート造の建物の屋上に上がることもできる。
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渋いコンクリートの外観に、改装時に塗ったというターコイズブルーの扉が目を惹く。
中に入ると先述のガソリンスタンドを営業していた森さんが出迎えてくれた。
私が運河の近くに住んでいること、中川運河に興味を持って訪れたことを伝えると、これまでの展示のことやいままでの運河に関するイベントについてなど大変親切に教えてくださった。
「上で中川運河の写真展やってるからね、後で2階と屋上も見てくるといいよ」
そう言ってからまたひとしきり、飾ってある運河の風景写真を見ながらいろいろなお話を聞く。
ギャラリーに訪れた日は、坂田健一さんの手焼きフィルム写真展「流れない河」が開催中だった。
写真展についてはこちら↓
写真展を通じて、改めて川というものを考えてみた。
川は多くの地域、人の暮らしをつなぐ象徴的なものだと思う。
流れない静かな川もまた、どこかとつながっている。
橋がなく、川が地域や文化の境界線となることもあるし、川によって上流と下流が結ばれることもある。
たゆたう水辺を眺めながら、そんなことをぼんやりと考える。
ただそれだけの時間がわりと大事だなあ、と思う。
文・写真:イトウユキコ