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【LAD&BOS】ウォーカー・ビューラーは真に復活したのか?理由は空気中の塩?
ボストン・レッドソックスは12月23日付で先発投手ウォーカー・ビューラーと1年$20.05Mの契約で合意しました。
ドジャースファンとしては長年チームを支えたエースの移籍ということで悲しい、寂しいという感情を持つ一方で、レギュラーシーズンにおいてrWARマイナス1.3を叩き出したという事実をもって仕方ないという感情を持ち、なんとも複雑な気持ちです。
ビューラーの成績低下
双方に再契約の意図がありながらドジャースが踏み切れなかったのはやはり前述のビューラー成績低下が大きな要因です。
2018年に137.1回、防御率2.62で新人王3位、
2019年は182.1回、防御率3.26でオールスター、サイヤング賞9位
2021年は207.2回、防御率2.47でオールスター、サイヤング賞4位
とドジャースエースの道を突き進んでいたビューラーですが、2021年シーズン中に投手がスピン量を増やすために使用していたとされる粘着物質取り締まりが開始されたあたりから雲行きが怪しくなりました。
そして2022年シーズンは序盤から様子がおかしく、完投は1ありましたが全体では防御率4.02と苦しみました。そして2022年6月には前腕の故障で離脱、トミージョン手術を受けました。
復帰年となった24年シーズンは5月頃復帰しましたが、5月は25回12失点、6月は12回12失点と散々な結果となり再度故障者リスト入り。チームからも離れ家族と共に私立トレーニング施設に籠り調整に入りました。再度復帰となった8月も12.0回、8失点、9月は26.1回13失点と少しマシになったか?くらいで、昔のビューラーに戻ることは結局ありませんでした。
プレーオフでの活躍
ビューラーにとって救いになったのが2024年プレーオフです。ドジャース先発陣は故障者が続出していたことから、パフォーマンスが悪かったビューラーを山本、フラハティ―に次ぐ第3先発に入れざるを得ませんでした。
ここでビューラーの本領発揮となりました。対パドレスのNLDSでは味方守備の乱れもあり5回6失点とコケましたが、対メッツのNLCSでは4回無失点、対ヤンキースのワールドシリーズでは5回無失点、ワールドシリーズ最終戦では中1日でリリーフ登板し1回無失点2奪三振でセーブを上げました。
ビューラーはなぜ落ちたのか
そもそもビューラーが「ドジャースのエース」から「QOを提示されない投手」に落ちてしまったのは球質の低下が原因です。特に2020年に投球の半数以上を占めていたフォーシームは空振りを奪う面でも弱いコンタクトを生む面でも落ちが激しい球種となりました。空振り率は10%低下、xSLGは2021年と比べれば2割以上上昇してしまいました。
長打率4割台の打者とは長打率.440のマイケル・ブッシュや.466のウィルソン・コントレラスなど20人くらいいますが、長打率6割台の打者となると大谷さんとアーロン・ジャッジしかいません。
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そしてこの原因となったのがスピン量の低下に伴う変化量の減少です。
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フォーシームのスピン量だけ見ると2020年にはメジャーリーグトップクラスだったのが、今年はメジャー平均以下まで落ちています。つられる形で縦変化量(iVB)も2インチほど減少しました。
球種の形からその選手の球を評価するStuff+では2020年に150だったのが、今年は85まで落ちました。目安として150とは常時100マイルを叩くマイケル・コペックのような球で、先発投手としては超レアモノですが、85は先発投手ならだれでも出せるような値です。
なぜプレーオフで復活できたか
ビューラーがプレーオフで活躍できた要因の一つとして球の変化量が急上昇していたことが挙げられます。
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ビューラーが好投したニューヨークでの2試合において、多投されたフォーシーム、スイーパーのどちらも変化量が誤差以上の水準で上昇しています。(他球種も同様に変化量上昇)
この化けたボールを活かしたビューラーはメッツ戦では18個の空振りを奪っています。空振り率換算ではシーズン平均の2倍以上です。
変化量が急上昇した理由は塩?
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気になるのは変化量が上昇したのはニューヨークでの先発2試合だけだったということです。レギュラーシーズン中にはフォーシームの縦変化量の試合中平均が18インチに届いたことはありませんでした。ビューラーがニューヨーク遠征前にメカニックの改良に成功したことも考えられますが、であれば何らかの媒体で成功体験として話が出てきそうです。
邪推として粘着物質が挙げられますが、この可能性は著しく低いと言えます。ビューラーのパフォーマンスが2022年に低下したことの原因として粘着物質の取り締まりを上げましたが、プレーオフ中にビューラーが検査に引っ掛かったという話は聞いていません。これはビューラーの球のスピン量がそれほど上がっていないことからもわかります。
ではこの急上昇の原因は何だったのでしょうか。
The AthleticのEno Sarrisはポッドキャスト番組 Rates and Barrelsにおいて球場の環境を指摘しています。
頻繁にされる指摘として11月のニューヨークは非常に寒いという点があります。MLB GamedayによればNLCS第3戦の際の気温は51F、摂氏換算で10Cと寒い環境でした。
寒い空気は暖かい空気に比べ密度が高いため、ボールの縫い目が捕まえる空気量が多くなり、変化量が多くなります。地上で空気を押しても前には進めませんが、水中で水を押せば前に進めるのと同じ原理です。
加えてSarrisは空気中の塩がボールに与える影響を指摘しています。
環境団体NRDCのウェブサイト によるとSea Sprayというものが存在し、これは"主に海の表面で割れる泡により地球の大気に放出されたエアロゾル粒子により構成される"モノのようです。つまり塩などの物質が海から飛び出してきたものということです。Sarrisはイリノイ大学物理学教授で、ボールの縫い目が変化量に与える影響であるシーム・シフト・ウェイクの研究で知られるAlan Nathanが空気中の塩分がボールの空気抵抗に与える影響を確認しているとも話していました。
メッツの本拠地シティ・フィールドは海抜4m、ヤンキースタジアムは16mと低い一方でドジャースタジアムは丘の頂上にあることから海抜104mに位置しています。
ニューヨークの2球場は海面に近いことから、空気中の塩や他物質の濃度が高く、ビューラーの球の変化量に影響を与えたのかもしれません。
実は球の変化量が上がっていたのはビューラーだけではありません。ビューラーと同じ日に登板した投手の多くでプレーオフの他の試合以上の変化量の上昇が確認されました。
プレーオフで投手が投げる球が普段より変わることは頻繁に起こりますが、ロサンゼルスでの変わりようと比較してもニューヨークの試合は幅が大きいです。
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前述の気温や空気中の粒子がビューラー、そして他の投手の球の変化量に大きな影響を与えた。そしてビューラーはそれを十分に活かす投球ができたことがNYでの成功の一因かもしれません。
ここまでのまとめ
・ビューラー不振の原因は球の変化量低下(主にフォーシーム)
・プレーオフでの活躍は変化量が戻ったことが理由?
・変化量が戻ったのは気温や空気中の物質などの環境要因である可能性
⇔ビューラーが投手として良くなったわけではない?
ビューラーの今後
前述の通り球質が戻った原因がビューラー自身ではなく環境要因にあるとしたら、全盛期のようなフォーシームでどんどん押していくビューラーに戻るのはかなり難しいでしょう。スピン量などを練習で戻すのはかなり難しいとされています。
一方でビューラーが2022年中盤に受けた2回目のトミージョン手術からは2年以上が経過し、新しい靭帯も馴染んできたころです。また、ビューラーが加入したレッドソックスは2024年から投手コーチのアンドリュー・ベイリーの下でフォーシームの割合を減らし、変化球を増やすアプローチを投手陣全体で実施しています。
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フォーシームに頼れなくなったビューラーのフォルムチェンジを助けるには最適なチームに加入したのかもしれません。
レッドソックスのチーム事情は詳しくないので深いことの言及は避けますが、Fangraphsによれば先発ローテではトレードで獲得したギャレット・クロシェをエースに、内部からタナ―・ハウク、ブライアン・ベヨ、カッター・クロフォードと続きそのあとに入る先発5番手としての役割を期待されるようです。
Best of Luck Walker!
いずれにせよビューラーには頑張ってほしいものです。ボストンでキャリアを立て直し狙っているであろう長期契約を獲得、どこかの球団でエースとして活躍する姿を見てみたいですね。
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そしていつか何かのめぐりあわせでドジャースに戻ってくることを願っています。
選手の流動性が非常に高いMLBのファンと言う性格上、慣れているつもりなのですが、やはり長く自分の推しチームを支えた選手が他に行ってしまうのはさみしいものです。
今後はこのさみしさをビューラーの後継者(?)であるミラー推しに当てて晴らしたいと思います。(膝でも何でもいいから早く治してください)
↓↓サンプル映像 (ビューラーに似てるでしょ?)
Fire us up, Bobby! 🗣 pic.twitter.com/W7nKlr3QWk
— Los Angeles Dodgers (@Dodgers) March 30, 2024
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