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メジャー独り言 ep.2 後払い、ボラス、Golden At-Bat
ドジャースの後払いは悪か、革命か?
ドジャースは11月末にブレイク・スネルと5年$182M、トミー・エドマンと5年$74Mの契約を結びました。このうちスネルは$60M、エドマンは$25Mの後払いに合意したことで一部ではドジャースに対する猛批判が起こっています。彼らの主な言い分は次の通りです。
・ドジャースはルールを曲げることで獲得競争を有利に進めている
・ドジャースは高ペイロールの対価であるはずの贅沢税を脱税している
・ドジャースは支払いを先延ばしているので、将来破綻し、大谷は年俸を払ってもらえなくなる
一つ一つ反論していきましょう。
1. ドジャースはルールを曲げることで獲得競争を有利に進めている
2. ドジャースは高ペイロールの対価であるはずの贅沢税を脱税している
この2つは1つの理屈で反論することができます。
具体例で考えます。
ショウタニ・オオヘイ選手はオフにFAとなり基本的な方針を決めました。
「最終的に自分が一番儲かる球団へ行こう!」
典型的なメジャーリーガーですね。
これに対してヤンキースとドジャースがオファーを提示しました。
ヤンキース: 10年3億ドル(普通に払うので現在価値3億ドル)
ドジャース: 10年3億ドル (後払い1億ドルにより現在価値2億ドル)
この場合ショウタニ選手は一番儲かるヤンキースに移籍となります。なぜなら現在価値に単位を揃えた場合ヤンキースに移籍したほうが儲かるからです。
ドジャースがどうしても後払い込みでショウタニ選手を獲得したい場合、カネを多く積む必要があります。例えば
10年4億ドル(後払い1億ドルにより現在価値3億ドル)
という具合です。
このようにカネが欲しい選手にとって、単なる後払いだけでは何のアドバンテージも生みません。むしろ、後払いによって現在価値が下がり交渉では不利になってしまいます。選手にとって最も大事なのは最終的に手元に入るカネの量です。
以上を踏まえると、反論ができます。
1. ドジャースはルールを曲げることで獲得競争を有利に進めている
→有利ではない。むしろ後払いの損失分カネを多く積む必要がある
2. ドジャースは高ペイロールの対価であるはずの贅沢税を脱税している
→現在価値で比べると$182Mと$182M(後払い付き)では後者が不利である。ゆえに不利になった分の課税額が下がるのは当然である。
ドジャースは支払いを先延ばしているので、将来破綻する
という謎の主張があります。確かにドジャース、もっと言えば野球という産業の将来性は予想ができませんし、債権の支払いを次々と後回しにしているドジャースが10,20年後に経営破綻する確率はゼロとは言えません。
しかし次の理由からドジャースが後払い年俸に苦しみ破綻する確率は著しく低いといえます。
後払いは選手への支払いを確実にするためのルールが存在する
単純に考えるとドジャースは今年俸を支払わない代わりに10年後にキャッシュを用意する必要があるように見えます。しかしMLBオーナーと選手労働組合の間では後払いを保証するための制度が存在します。
MLB-MLBPA 労使協定 第16条 (ChatGPT訳)
2002年9月30日以後に締結された契約に基づき発生した繰延報酬義務については、当該チャンピオンシップシーズンにおいて発生した繰延報酬総額の現在価値に相当する金額を、当該クラブが遅くとも当該シーズン終了後2年目の7月1日までに完全に資金提供するものとする。
本第16条において、「繰延報酬義務の現在価値の完全な資金提供」とは、クラブが、当該義務の存続期間中において、かつ毎年連続して中断することなく、未払繰延報酬の現時点における現在価値を年率5%で割引した金額を完全に資金提供することを意味するものとする。ただし、直近の11月1日時点でJ.P.モルガン・チェース銀行のプライム金利が7%以上である場合には、当事者は協議のうえ、本第16条における割引率を見直し、クラブに適切な通知を行ったうえで、翌年7月1日から当該割引率を改定することができるものとする。
別にすべてを読む必要はありませんが要するに
球団は通常の支払い日から2年後の7/1までに支払額分の資産を用意し、通常の業務などとは別に置いておく必要があるということです。
(厳密には現在価値分マイナス5%割引率)
例えば大谷の場合2024年後払い分の$68Mの現在価値分を2026/07/01までに資産として用意する必要があります。
これにより「支払いが多すぎて払えませーん」を抑止するわけです。また、この用意された資産は金融資産でも良いため運用して増やすことができます。
ドジャースのオーナーは運用資産33兆円超えのグッゲンハイム・パートナーズの創業者マーク・ウォルターであり、彼の会社のノウハウを総動員すればこの資金が枯渇することはないでしょう。
ゆえにドジャースが後払いにより経営破綻することも、大谷が給料を払ってもらえなくなることも、可能性は著しく低いと言えます!!!
ボラスマジック!
昨年、長期契約の締結に失敗したスコット・ボラスは今オフ早期契約の動きを見せています。フアン・ソトの契約交渉は既に大詰め、あと1週間くらいで結論が出るのではとされています。
またボラスクライアントである投手が多くの契約を結んでいます。
ブレイク・スネル: 5年$182M (4年$120M)
菊池雄星: 3年$63M (3年$54M)
フランキー・モンタス: 2年$34M (2年$26M)
マシュー・ボイド: 2年$29M (2年$18M)
括弧内はFangraphsの予想
昨年のベリンジャー、スネル、モンゴメリー、チャップマン、JDマルティネスに上手い契約を締結できなかったことで「ボラスの力は弱まった!」と思われていましたが、違ったようです。
スネル、菊池雄星に関してはこんなもんかと思いましたが、2024年の防御率が4点台後半のモンタス、24年に39.2イニングしか投げていないボイドに複数年契約は驚きました。
Cubs, LHP Matthew Boyd reportedly agree to 2-year deal per @MLBNetwork insider @JonHeyman. pic.twitter.com/BJmLTEx3ey
— MLB (@MLB) December 2, 2024
ゴールデン・アットバット?なんじゃいそれ
The AthleticのJayson StarkがMLBオーナーたちがゴールデン・アットバットというルール改正を検討していると報じました。
現段階では多くのルール改正素案の一部に過ぎないようですが、野球のエンターテイメント性を大きくするものとなるようです。
詳細は未定ですがゴールデン・アットバットとは
チームは1試合に1回、打者を自由に選べる打席を有する
というルールのようです。
例えばヒットが出ればサヨナラの12回裏ランナー1,2塁の場面で打順は7番打者に回ってしまった。ここでゴールデン・アットバットを発動すれば通常は1番打者の大谷翔平を召喚できるというルールです。
前述のJayson StarkによればMLBは2023WBCの最終打席大谷翔平vs マイク・トラウトのような場面を毎試合演出することで、エンターテイメント性を大きくする思惑を持っているようです。
ピッチクロック、ベースの巨大化などとは異なりメリット、デメリットを挙げにくいため価値判断の要素が大きくなり、関係者の間でも意見が割れそうです。
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