仮面リサイクル
ワシはフィギュアスケート大会のお手伝いさん。
選手が演技終了後に、観客席からリンクに投入されるぬいぐるみやら花束やらを拾い集めるお手伝いさん。
これは意外と骨が折れる作業だ。
ある大人気の選手は、熊のプーサンが死ぬほど好きだと発言してしまったがために、プーサンのぬいぐるみを死ぬほどリンクに投げ込まれるようになってしまった。(ときどき間違いでプーチンさんのぬいぐるみもある)
ちなみに、回収されたプーサンは残念ながらそのままトラックに運ばれて、リサイクルセンターに直行だ。
ワシは今日もそんな大人気選手の演技終了後に、プーサンを死ぬほど回収していた。
足の踏み場もないほど大量なものだから、ワシはついつい、ぼーっと考え事をしていた。
友達が、「結局、器の大きい人間は怒らないんだよ」と言っていたのを思い出していた。
ワシがそんなことを考えていた一方で、客の誰かが投げたプーサンのぬいぐるみが、大人気選手の顔に当たってしまったらしい。
どうやらアンパンマンの要領で、選手とプーサンの顔が入れ替わってしまってたみたい。
ワシはぼーっとしながら作業していたので、リンクに転がっている選手の頭を気付かずに回収し、リサイクルセンター行きのトラックにぶち込んでしまっていたようだ。
すると、プーサンの顔をした選手がワシに怒鳴ってきた。
ワシが、「いいじゃねえか、死ぬほど好きなもんになれたんだしさ。いっぱい怒鳴って喉痛えだろ。ほら、ハチミツいるか?」と言うと、さらに激昂した。
選手はもの凄い勢いで怒っているが、プーサンの顔は常ににっこり。
ああ、そうか。
みんな仮面をつけて笑って見せてはいるけど、内心では怒ったりしているんだ。
「こいつも器が小せえなぁ…。」
と呟くと、ますます怒りやがる。
ワシはこんな人間にはなりたくないなと思って、
まあまあ…と愛想笑いを浮かべて大人の対応を続けた。
周りを気にしてばかりの人も良くないのだろうが、せめて目の前にいる相手の気持ちくらいは考えて行動したいものだな…。
プーサン選手はずっと怒り続けてキリがない。
これ以上付き合っても仕方ないので、ワシはハチミツを一口舐めて、「甘え。甘っめ。」と言ってその場を立ち去ったことであるよ。
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