廃工場の床
ワシは目を覚ますと廃工場の床に倒れていた。
視界の隅に写った数人の男を見たとき、何故ここにいるか理解した。
ワシは飲み会の帰り道、歩いていたところをその男たちに襲われ、拘束されたのだ。
ワシはその男たちが何を言うのか、ただ強張った顔で見つめていた。
「おい、目が覚めたか。今からお前には仕事してもらう」
「あ、あ…」
ワシは、何を?とか、なんで?とか、怖いことは嫌だ、とか色々言いたかったが、怖くて言葉が何も出なかった。
下手なことを言ったら殺されるのではないかという緊張感があった。
「おい、聞いてんのか?」
「はい、聞いてます」
「今から人を連れてくるから、そいつらを殴れ」
「えっ?」
「今から連れてくるやつ殴ればいいんだよ、ちゃんと聞けよ」
そう言われて、びくびくしながらその場で固まっていると、先ほどの男が10000000人くらいのイケメンを連れてきた。
「おい、お前、こいつらを殴れ」
そう言うと、男はイケメンたちを一列に並べた。
「そら、次々に殴れ」
ワシはどうしていいかわからず、しどろもどろとしていると、男が怖い口調で言った。
「お前さっさと殴れよまじで、はやくやれよ」
ワシはやらないといよいよ酷い目に合うと思って、列の先頭のイケメンに歩み寄った。
イケメンは怯えた目でこちらを見つめている。
ワシは人を殴ったことなどないので、本当に怖かった。
でもやらないと自分がどうなるかわからない。
意を決してパンチを繰り出したのだが、それはそれは中途半端な思い切りのパンチだった。
イケメンは、「うっ」と言うに留まった。
すると、男が鬼の形相で怒鳴った。
「もっと思いっきりやんだよ!顔面を全力で!馬鹿野郎」
もうワシは本当にやばいと思った。
目をつぶって、思いっきりイケメンの顔面を殴った。
鈍い音が工場内に響く。
イケメンは言葉にならないうめき声をあげてのたうち回っている。
殴った拳がものすごく痛い。
「おら、その感じで次々殴れよ、暇じゃねえんだからよ」
ワシは開き直ったように二人目、三人目とイケメンたちを殴ったが、すぐに拳の骨が腫れ上がり、触れるだけで激痛が走る。
痛みに悶えていると、男にまた怒鳴られた
「まじでさっさとやれや、おい、この野郎」
ワシは尻を叩かれるようにして慌てて殴った。
また激痛が走り、ワシは顔を歪める。
ここでのワシの仕事とは、この100000000人のイケメンたちを拳の骨が砕けようとも最後の一人まで殴り続けることらしい。
ワシは激痛でかおをぐしゃぐしゃにしながらイケメンを殴り続けた。
しばらく続けていると、もはや拳の感覚がなくなってきて、そこだけ神経が通ってないかのようだった。
ワシはできるだけ何も考えないようにしてとにかく殴った。
時間も、残り人数も、怖い男たちの存在も、全て意識から除外してとにかく殴るという運動に徹した。
すると、ワシは途中で意識を失ってしまったようだ。
目を開けると、ワシは自宅の布団だった。
あれはひどく嫌な夢だったようだ。
最悪な気分で月曜日の朝を迎えてしまった。
憂鬱な気持ちを引きずりつつ布団から這い出て、ワシはリビングのテレビをつけた。
朝の情報番組で爽やかな男が喋っている。
不思議と拳に力がこもった。
いかんいかんと、顔を洗いに洗面台に向かった。
鏡にはいつも通りのワシの顔が映った。
殴りたい気持ちは一切起こらなかった。
ただ、まだ蛇口をひねっていないのに水滴が洗面台に着地した。
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ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。